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TikTokモデレーター解雇問題、「組合潰し」訴訟へ発展──AI自動化の名の下で

 - innovaTopia - (イノベトピア)

TikTokのロンドンオフィスで約400人のコンテンツモデレーターが解雇され、不当解雇および労働組合法違反で法的措置が開始された。

解雇プロセスは労働組合投票のわずか1週間前に始まり、組合潰しとの批判が高まっている。TikTokはAI自動化による効率化を主張するが、英国議会は根拠データの提出を要求。

過酷な労働環境に晒されるモデレーターの権利保護が焦点となっている。

ロンドンの約400人のモデレーターは、労働組合結成の投票予定日の1週間前に始まった再編プロセスによりクリスマス前に解雇された。

モデレーターたちは過激で暴力的なコンテンツの審査による負担から身を守るため団体交渉組織を設立しようとしていた。Communication Workers Unionは影響を受けた約250人を代表し、TikTokを組合潰しで追及している。

TikTok側は約3,000万人の英国月間ユーザーを持ち、法的請求を根拠がないとして否定、解雇は英国および南・東南アジアの役職を含むグローバル再編の一環であり、AIによるコンテンツ削除の自動化推進に伴うもので、違反コンテンツの91%が自動削除されていると説明した。

紛争は2025年8月に始まり、2人が元労働者を代表して雇用審判所に請求が提出されている。

From: 文献リンクSacked TikTok workers in UK launch legal action over ‘union busting’ – The Guardian

【編集部解説】

TikTokのロンドンオフィスで起きた約400人のコンテンツモデレーター解雇は、単なる人員整理ではなく、テクノロジー業界における労働者の権利と企業の自動化戦略が正面衝突した象徴的な事件です。労働組合投票のわずか1週間前に解雇プロセスが開始されたタイミングは、偶然とは考えにくいものがあります。

コンテンツモデレーションという仕事の過酷さは、近年、学術研究や訴訟を通じて明らかになってきました。モデレーターたちは、児童性的虐待素材、処刑映像、薬物使用、暴力的なコンテンツなどを高速で審査し続けます。研究によれば、コンテンツモデレーターの4分の1以上が中度から重度の心理的苦痛を経験しており、PTSD症状、不眠症、侵入的思考、感情の麻痺などを発症するケースが報告されています。2024年12月には、ケニアのFacebookモデレーター144人のうち81%が重度のPTSDと診断されたという衝撃的な報告もありました。

TikTok側は、AIによる自動化の進展を解雇の理由として挙げています。同社によれば、違反コンテンツの91%が現在自動削除されており、モデレーターのグラフィックコンテンツへの曝露も過去1年間で76%減少したとしています。実際、TikTokは世界中で数万人規模のモデレーターを雇用していますが、AI技術の進化により、その役割は変化しつつあります。

しかし、この説明には複数の矛盾が存在します。TikTokは2025年6月、英国での事業拡大を発表し、従業員を3,000人に増やし、500以上の雇用を創出すると約束していました。わずか2カ月後の8月に一転して大規模解雇を発表したのです。さらに、内部文書によれば、同社は2025年末まで人間によるコンテンツモデレーションをロンドンで継続する計画を持っていたことも明らかになっています。

英国議会の科学・イノベーション・技術委員会は、TikTokに対してAI導入の効果を示すデータや証拠の提出を求めましたが、同社は説得力のある情報を提供していません。AI技術が人間のモデレーターの微妙な判断力を完全に代替できるかについては、専門家の間でも疑問の声が上がっています。文化的な文脈、言語のニュアンス、地域特有の問題を理解するには、依然として人間の判断が不可欠だからです。

この事件が投げかける問いは重層的です。第一に、労働組合を結成しようとする労働者を解雇することは、英国の労働法に違反する可能性があります。第二に、AIによる効率化という名目で、ユーザーの安全を担保する重要な人的リソースを削減することの是非です。第三に、TikTokの英国・欧州の収益が40%増加している中で、コスト削減を理由に解雇を進めることの倫理的問題です。

TikTokは英国で約3,000万人の月間ユーザーを抱え、その中には推定100万人以上の13歳未満の児童も含まれるとされています。オンライン安全法が施行された英国において、このタイミングでの安全チームの大幅削減は、規制当局や市民社会から強い批判を浴びています。

技術革新と労働者保護のバランスをどう取るか。AI導入による自動化の恩恵と、それがもたらす社会的コストをどう評価するか。この訴訟の行方は、テクノロジー業界全体における労働慣行の未来を占う試金石となるでしょう。

【用語解説】

コンテンツモデレーション
ソーシャルメディアやオンラインプラットフォームに投稿されたコンテンツを審査し、コミュニティガイドラインやポリシーに違反する内容を削除または制限する作業である。暴力的な映像、ヘイトスピーチ、違法コンテンツなどを扱うため、従事者への心理的負担が大きい。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)
トラウマ的な出来事を経験または目撃した後に発症する精神疾患である。フラッシュバック、悪夢、重度の不安、制御不能な思考などが特徴で、コンテンツモデレーターは二次的トラウマにより発症するケースが報告されている。

団体交渉組織(Collective Bargaining Unit)
労働者が雇用主と賃金、労働条件、福利厚生などについて集団で交渉する権利を持つ組織である。労働組合の基本的な機能の一つであり、個々の労働者より強い交渉力を持つ。

二次的トラウマ(Vicarious Traumatization)
他者のトラウマ体験に間接的に曝露されることで生じるトラウマ反応である。コンテンツモデレーター、ジャーナリスト、児童保護の専門家などが発症リスクにさらされる。

雇用審判所(Employment Tribunal)
英国における労働紛争を扱う準司法機関である。不当解雇、差別、賃金未払いなどの労働問題について判断を下す。

【参考リンク】

Communication Workers Union (CWU)(外部)
英国の通信・郵便・デジタル産業労働者を代表する労働組合。今回の訴訟でTikTokモデレーター約250人を代表している。

Foxglove(外部)
テクノロジー正義を掲げる英国の非営利団体。テクノロジー企業の権力濫用に対抗し、労働者や市民の権利を守る活動を行う。

Leigh Day(外部)
人権、環境、消費者保護を専門とする英国の法律事務所。今回の訴訟でTikTok元従業員を法的に代表している。

【参考記事】

TikTok sued by former workers over alleged union-busting(外部)
約400人のモデレーターがクリスマス前に解雇され、労働組合投票の1週間前に解雇プロセスが開始されたことを報じた記事。

Press release: TikTok faces first legal action over unlawful union-busting in London(外部)
Foxgloveによる公式プレスリリース。TikTokの内部文書や労働者の監視システムなど詳細な情報を提供している。

TUC – TikTok “must come clean” as MPs probe mass AI-driven job cuts(外部)
英国労働組合会議による声明。TikTokの英国・欧州収益が40%増加している中での解雇を批判している内容だ。

TikTok fails to share evidence behind increased AI use in content moderation(外部)
英国議会の科学・イノベーション・技術委員会によるTikTokへの批判。AI導入の効果を示すデータが提供されていないと指摘。

Facebook inflicted ‘lifelong trauma’ on content moderators in Kenya(外部)
ケニアのFacebookモデレーター144人のうち81%が重度のPTSDと診断された事例を報告する記事。

The psychological impacts of content moderation on content moderators(外部)
コンテンツモデレーターの心理的影響に関する学術研究。PTSD症状、不安、抑うつ、燃え尽き症候群などの詳細な分析を行っている。

【編集部後記】

AIによる効率化は、テクノロジー業界における避けられないトレンドです。しかし、その過程で最も脆弱な立場にある労働者たちが犠牲になることは、私たちが目指すべき未来の姿ではないはずです。TikTokをはじめとするソーシャルメディアプラットフォームは、私たちの日常に深く浸透しています。その安全性を守るために、見えないところで心身をすり減らしている人たちがいることを、私たちは忘れてはいけません。技術革新と人間の尊厳は、決して対立するものではないはずです。この訴訟の行方を、一緒に見守っていきましょう。

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Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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