TikTokは、ヨーロッパ(欧州経済領域、スイス、英国)で13歳未満のユーザーを検出・削除するための強化された技術を今後数週間で展開する。この技術は昨年実施されたパイロットに続くもので、パイロットでは数千の未成年アカウントが削除された。同社は現在、複数の年齢検出方法を組み合わせることで、毎月世界中で約600万の未成年アカウントを削除している。
新技術はプロフィール情報、公開動画、プラットフォーム上の行動から13歳未満の可能性を予測し、専門モデレーターが最終判断を行う。異議申し立てには、Yoti(ヨーティ)による顔年齢推定、クレジットカード認証、政府承認の身分証明書提供が利用できる。同社は欧州連合のデータ保護委員会と協議を行った。ティーンエイジャーのアカウントには50以上の安全機能が自動設定され、ダイレクトメッセージは16歳以上、18歳未満は60分のスクリーンタイム制限がデフォルトで適用される。
From:
Updates to how we enforce age appropriate experiences in Europe
【編集部解説】
TikTokが今回ヨーロッパで導入する年齢確認技術は、ソーシャルメディア業界が直面する「子どもの保護」と「プライバシーの尊重」という二律背反する課題に対する、最新のアプローチと言えます。
この動きの背景には、世界的な規制強化の波があります。オーストラリアは2025年12月10日に16歳未満のソーシャルメディア利用を禁止する世界初の法律を施行し、わずか1カ月で470万のアカウントが削除されました。デンマークも15歳未満の禁止を検討しており、ヨーロッパでも各国が独自の年齢制限を模索しています。TikTokは、こうした規制環境の変化に先んじて対応を図っているのです。
技術的な仕組みに注目すると、TikTokは多層的なアプローチを採用しています。まず、プロフィール情報、投稿動画、プラットフォーム上の行動パターンなどをAIが分析し、13歳未満の可能性を予測します。重要なのは、AIが自動的にアカウントを削除するのではなく、専門のモデレーターが最終判断を行う点です。これにより、誤判定のリスクを軽減しています。
異議申し立てのプロセスでは、英国企業Yoti(ヨーティ)が提供する顔年齢推定技術が選択肢の1つとして用意されています。Yotiの技術は、セルフィー画像から年齢を推定するもので、2024年9月時点での精度は13歳から17歳が21歳未満と正しく判定される確率が99.3%とされています。画像は年齢推定後すぐに削除され、個人を特定する情報は保存されません。Metaもfacebookでこの技術を採用しており、業界標準になりつつあります。
プライバシー保護の観点では、TikTokはアイルランドのデータ保護委員会と緊密に協議を重ねてきました。収集されたデータは年齢判定と技術改善にのみ使用され、他の目的には転用されない設計になっています。これは、欧州のGDPR(一般データ保護規則)が求める「プライバシー・バイ・デザイン」の原則に沿ったものです。
しかし、課題も残されています。AI技術の精度がいくら高くても、VPNを使った回避や親のアカウントの借用など、技術的な抜け穴は存在します。また、成人でもアニメやゲームなど若年層向けのコンテンツを好むユーザーが誤って検出される可能性もあります。さらに、プライバシー保護団体からは、年齢確認技術そのものが全ユーザーの監視強化につながるとの懸念も示されています。
業界全体への影響を考えると、この取り組みは他のプラットフォームにも波及する可能性が高いでしょう。TikTokが毎月世界で600万の未成年アカウントを削除している現状は、従来の自己申告制の限界を示しています。今後、AI技術と人間の判断を組み合わせた多層的な年齢確認が、業界標準として定着していくかもしれません。
長期的には、子どもたちのデジタル環境をどう設計するかという根本的な問いにつながります。単に子どもを排除するのではなく、年齢に応じた適切な体験を提供することが本質的な目標です。TikTokが提供する50以上の安全機能や、16歳未満へのダイレクトメッセージ制限などは、この理念を体現した取り組みと言えるでしょう。
【用語解説】
GDPR(一般データ保護規則)
欧州連合が2018年に施行した個人データ保護に関する法律。企業に対して、データ収集の目的明示、利用者の同意取得、データの適切な管理などを義務付けている。違反した場合、最大で全世界年間売上高の4%または2000万ユーロのいずれか高い方が罰金として科される。
プライバシー・バイ・デザイン
システムやサービスの設計段階から、プライバシー保護を組み込む考え方。後付けでプライバシー対策を講じるのではなく、最初からデータ収集の最小化や利用目的の制限などを技術的に実装する。GDPRでも重視されている概念。
VPN(仮想プライベートネットワーク)
インターネット接続を暗号化し、接続元の地理的位置を隠す技術。本来はセキュリティやプライバシー保護が目的だが、地域制限やアクセス制限を回避する手段としても使われる。
欧州経済領域(EEA)
欧州連合27カ国にアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーを加えた30カ国の経済圏。域内では商品、サービス、資本、人の自由な移動が保障されている。
アイルランドのデータ保護委員会(DPC)
アイルランドの個人データ保護を監督する独立機関。多くのグローバルIT企業が欧州本社をアイルランドに置いているため、欧州におけるこれら企業の主要な規制当局となっている。
【参考リンク】
TikTok Newsroom(外部)
TikTokの公式ニュースルーム。企業の方針、新機能、安全対策に関する公式発表を掲載。
Yoti(外部)
英国の年齢確認・本人確認技術提供企業。顔年齢推定技術を開発しMetaやTikTokに提供。
Meta(外部)
facebook、Instagram、Threadsを運営。facebookでもYotiの年齢確認技術を採用。
欧州データ保護委員会(EDPB)(外部)
欧州連合のデータ保護に関する独立機関。GDPRの統一的な適用を確保する役割を担う。
オーストラリア eSafety Commissioner(外部)
オーストラリアのオンライン安全を監督する政府機関。16歳未満禁止法の執行を担当。
【参考記事】
TikTok to Roll Out Stronger Age Verification Across the EU(外部)
TikTokがヨーロッパ全域で強化された年齢確認技術を展開することを報道。メタがYotiを使用している一方、TikTokは行動パターンに基づく内部システムを展開している点を比較。
Social media platforms removed 4.7 million accounts after Australia banned them for children younger than 16(外部)
オーストラリアで16歳未満のソーシャルメディア禁止法が施行されてから1カ月で、10のプラットフォームが合計470万のアカウントを削除したと報道。
Australia social media ban hits 4.7 million teen accounts in first month(外部)
オーストラリアの16歳未満禁止法により470万のティーンアカウントが削除されたことを報道。世界各国の規制当局が注目していると指摘。
TikTok to tighten age checks in Europe amid pressure(外部)
TikTokがヨーロッパで年齢確認を強化する方針を報道。異議申し立てにはYotiの顔年齢推定、クレジットカード認証、政府発行IDの3つの方法を提供。
Yoti – Age verification tools for online customers and custom-built apps(外部)
Yotiの年齢推定技術の精度に関する公式データ。2024年9月時点で13歳から17歳が21歳未満と正しく判定される確率が99.3%。
【編集部後記】
ソーシャルメディアにおける子どもの保護は、世界中で議論が続くテーマです。技術による年齢確認は一つの解決策ですが、プライバシーとのバランスや、VPNなどによる回避の問題も残ります。オーストラリアの大胆な規制、ヨーロッパの慎重なアプローチ、それぞれに理由があるのでしょう。
日本ではまだ具体的な動きは見られませんが、グローバルプラットフォームを使う以上、無関係ではいられません。みなさんは、子どもたちのデジタル環境をどう守るべきだと思いますか。技術的な解決策の可能性と限界について、一緒に考えていければと思います。



































