Nozomi Networksは2026年1月15日、サンフランシスコで新製品Vantage IQを発表した。同製品は世界初のプライベートな企業訓練型AIアシスタントで、OT/IoTセキュリティチーム向けに開発された。Vantage IQは組織固有の資産、通信、脆弱性、脅威データから学習する大規模言語モデル(LLM)を搭載し、SOCアナリストにはAIガイド付きのトリアージ、調査、対応機能を、CISOやリーダーには取締役会向けインサイトを提供する。
共同創業者兼CPOのアンドレア・カルカノ氏は、汎用的なAIの時代が終わったと述べた。Nozomi Networksは、ガートナーのAI Vendor Racesレポートにおいて、サイバーフィジカルシステムセキュリティのAI分野で認識されている。
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Nozomi Networks Unleashes Vantage IQ: The World’s First Private OT/IoT Cybersecurity Assistant
【編集部解説】
重要インフラを狙うサイバー攻撃が史上最悪のレベルに達する中、OT(Operational Technology:制御技術)とIoTのセキュリティ分野で大きな転換点が訪れています。
Nozomi Networksは2025年9月、三菱電機による約10億ドル規模の買収が発表されました。これはOT/IoTセキュリティ企業の買収としては過去最大規模であり、産業機器メーカーによるサイバーセキュリティ企業の買収としても記録的な規模となりました。今回のVantage IQ発表は、この買収から約4カ月後のタイミングで行われたものです。
Vantage IQの最大の特徴は「プライベート」であることです。ChatGPTやClaude、Geminiといった汎用的なAIアシスタントとは根本的に異なり、組織固有の資産情報、通信データ、脆弱性、脅威データから学習します。これにより、一般的なセキュリティアドバイスではなく、その組織の環境に特化した具体的な対応策を提示できます。
OT/IoTセキュリティが直面する危機は深刻です。複数の調査によれば、IoTデバイスへの攻撃は1日あたり約82万回に達し、OTシステムへのランサムウェア攻撃は2025年に46%増加しました。
同時に、熟練したOT/IoTセキュリティ人材の不足が危機的状況となっています。製造業、エネルギー、交通といった重要インフラでは、24時間365日の監視と迅速な対応が求められますが、専門知識を持つアナリストの確保は極めて困難です。Vantage IQは、この人材不足に対する一つの解答として位置づけられています。
技術的には、組織のSOC(Security Operations Center)アナリストにAIガイド付きのトリアージ、調査、対応機能を提供する一方、CISO(最高情報セキュリティ責任者)や経営層には、技術的な詳細を平易な言葉に翻訳した「取締役会向けレポート」を自動生成します。これは、サイバーセキュリティがもはやIT部門だけの問題ではなく、経営レベルのリスク管理課題として認識されていることを反映しています。
潜在的なリスクとしては、プライベートAIへの過度な依存が人間のスキル低下を招く可能性があります。また、AIシステム自体が攻撃対象となるリスクや、誤った推奨による重大インシデントの可能性も考慮する必要があります。
長期的には、OT/IoTセキュリティにおけるAI活用が標準化し、人間とAIの協働による「ハイブリッド防御」が主流になると予想されます。三菱電機という100年以上の歴史を持つ産業機器メーカーとの統合により、工場やインフラの設計段階からセキュリティが組み込まれた「真のセキュア・バイ・デザイン」が実現する可能性もあります。
【用語解説】
OT(Operational Technology)
工場、発電所、鉄道、水道などの物理システムを監視・制御する技術。産業制御システム(ICS)やSCADA(監視制御・データ取得)システムを含む。ITがデータ処理を扱うのに対し、OTは物理的なプロセスを制御する。
IoT(Internet of Things)
インターネットに接続された様々な物理デバイスのネットワーク。センサー、カメラ、医療機器、スマートメーターなど。2025年時点で世界に180億〜190億台が存在すると推定される。
SOC(Security Operations Center)
組織のサイバーセキュリティを24時間365日監視・分析・対応する専門チーム。セキュリティアナリストが脅威検知、インシデント対応、脆弱性管理などを行う。
CISO(Chief Information Security Officer)
最高情報セキュリティ責任者。組織全体のサイバーセキュリティ戦略の策定と実行を統括する経営幹部。2025年には52%の組織がOTセキュリティをCISOの管轄下に置いている。
トリアージ
複数のセキュリティアラートや脅威を重要度・緊急度に基づいて優先順位付けするプロセス。医療現場の患者の優先順位付けから転用された概念。
大規模言語モデル(LLM)
膨大なテキストデータで訓練された人工知能モデル。自然言語を理解し、人間のような応答を生成できる。ChatGPTやClaudeなどが代表例。
ランサムウェア
データやシステムを暗号化し、復号化と引き換えに身代金を要求するマルウェア。2025年にはOTシステムへの攻撃が46%増加した。
サイバーフィジカルシステム(CPS)
物理世界とサイバー空間を統合したシステム。センサーやアクチュエーターを通じて物理プロセスをコンピュータで制御・最適化する。スマート工場やスマートグリッドが代表例。
【参考リンク】
ノゾミ・ネットワークス公式サイト(外部)
OT、IoT、CPSセキュリティのグローバルリーダー企業
Vantage IQ製品ページ(外部)
プライベートAI駆動型OTセキュリティ分析エンジン
三菱電機グローバルサイト(外部)
100年超の歴史を持つ総合電機メーカー、2025年にノゾミを買収
ガートナー(外部)
世界有数のIT調査・助言企業、テクノロジー市場の分析を提供
【参考記事】
IoT Hacking Statistics 2025: Threats, Risks & Regulations(外部)
2025年のIoTセキュリティ統計を包括分析、1日82万件の攻撃など
SANS Institute 2025 survey finds OT cybersecurity incidents rising(外部)
OTインシデント増加を報告、2026-2027年の投資計画も分析
2025 State of Operational Technology and Cybersecurity Report(外部)
550超のOT専門家調査、52%がCISO管轄下に
Mitsubishi Electric to Acquire Nozomi Networks(外部)
三菱電機による10億ドル買収の公式発表、過去最大規模
Nozomi Networks launches new Vantage IQ private AI assistant(外部)
Vantage IQ発表を詳細報道、製品の主要機能を解説
OT Cybersecurity Outlook: 2026 and Beyond(外部)
2025年に80%超のOT組織がインシデント経験、2026年予測も
IoT Cybersecurity Challenges and Policy Priorities for 2025(外部)
IoTセキュリティの政策課題を分析、国際規制調和の必要性を論じる
【編集部後記】
私たちが日々利用する電力、水道、交通といった重要インフラが、目に見えないサイバー攻撃の脅威にさらされています。今回のVantage IQは、AIと人間の協働という新しい防御のかたちを提示していますが、皆さんはどう感じられるでしょうか。
自動化が進む一方で、人間の判断力やスキルをどう維持していくべきなのか。あるいは、私たちの生活を支えるインフラのセキュリティに、もっと関心を持つべきなのかもしれません。皆さんの職場や日常で、このようなOT/IoTセキュリティの課題を感じることはありますか。



































