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「音楽は人間が作るもの」Bandcamp、AI音楽を完全禁止へ——業界で最も厳しいポリシー発表

 - innovaTopia - (イノベトピア)

音楽配信プラットフォームBandcampは2026年1月13日、生成AIに関する新ポリシーを発表した。

同プラットフォームは、AIによって全体的または実質的に生成された音楽とオーディオをBandcamp上で許可しないことを明言した。

また、他のアーティストやスタイルになりすますためのAIツールの使用も、既存のなりすましおよび知的財産権侵害禁止ポリシーに従い厳しく禁止される。

ユーザーは生成AIによって作られたと思われるコンテンツを報告ツールで通報でき、Bandcampチームがレビューを行う。

同社はAI生成の疑いがある音楽を削除する権利を留保するとしている。

Bandcampは、音楽を通じた人間的つながりを重視し、ミュージシャンが音楽制作を続けられる環境と、ファンが人間によって作られた音楽であるという確信を持てる場を提供することを目的としている。

From: 文献リンクKeeping Bandcamp Human

【編集部解説】

Bandcampは音楽配信プラットフォームとして、独自の存在意義を持っています。SpotifyやApple Musicのような巨大ストリーミングサービスとは異なり、アーティストとファンが直接つながる場所として2008年に設立されました。アーティストは自分で価格を設定でき、販売額の大部分(85%)を受け取ることができます。このビジネスモデルは、音楽を単なる「消費される商品」ではなく、人間の創造的対話の結果として捉える同社の哲学を反映しています。

今回の決定は、そうした理念の延長線上にあります。Bandcampは「全体的または実質的にAIによって生成された音楽とオーディオ」を一切許可しないと明言しました。これは音楽配信プラットフォームとしては最も厳格な立場です。

音楽業界全体でAI生成コンテンツが深刻な問題となっている背景があります。Spotifyは2025年9月、過去12か月間で7500万曲のスパムトラックを削除したと発表しました。フランスのDeezerはさらに具体的なデータを公開しており、2025年11月時点で毎日5万曲のAI生成音楽がアップロードされ、これは全アップロードの34%を占めています。2025年1月には1日1万曲だったものが、わずか10か月で5倍に増加したことになります。

Deezerが実施した調査では、9000人の参加者のうち97%が、ブラインドテストでAI生成音楽と人間が作った音楽を区別できませんでした。技術の進化により、AIは人間の創造物と見分けがつかないレベルに達しているのです。

しかし、問題は音楽の品質だけではありません。AI生成音楽の多くは不正なストリーミング再生によってロイヤリティを搾取する目的で大量アップロードされています。Deezerの分析では、AI生成トラックのストリーミング再生の最大70%が不正なものでした。これは本物のアーティストから収益を奪い、ロイヤリティプールを希薄化させる行為です。

Spotifyは段階的なアプローチを採用しています。完全禁止ではなく、スパムフィルターの強化、アーティストのなりすまし対策、AI使用の開示義務化という三本柱で対応しています。これは巨大プラットフォームとして、様々な利害関係者のバランスを取る必要があるためです。

一方、BandcampはSpotifyの100分の1以下の規模だからこそ、より純粋に理念を貫けます。同社は「人間の創造性を最優先する」と明言し、AI生成の疑いがあるだけで音楽を削除する権利を留保しています。ユーザーによる通報システムも導入され、コミュニティ全体で人間が作った音楽を守る仕組みです。

ただし、この厳格なポリシーには課題もあります。現代の音楽制作では、多くのDAW(デジタルオーディオワークステーション)にAI支援機能が組み込まれています。ボーカルのピッチ補正、ドラムパターンの自動生成、マスタリングの自動化など、どこまでが「実質的にAI生成」なのかは曖昧です。障害を持つアーティストがボーカル生成にAIを使用するケースなど、建設的なAI利用も存在します。

Bandcampは「急速に変化する生成AI分野の発展に応じて、ポリシーの更新を必ず伝える」としており、今後も柔軟に対応していく姿勢を示しています。

この決定は単なる技術的な判断ではありません。「音楽とは何か」「創造性とは何か」という根源的な問いへの答えでもあります。AIが人間と見分けがつかない音楽を作れる時代に、なぜ人間が作った音楽にこだわるのか。Bandcampの答えは明確です。音楽は人間の文化的対話の結果であり、その背後にある人間の経験、感情、意図こそが価値の源泉だからです。

音楽ストリーミング市場全体では、AI生成音楽は避けられない現実となっています。しかし、Bandcampのような「人間専用」のプラットフォームが存在することで、リスナーには選択肢が生まれます。完璧に磨かれたAI音楽と、不完全だが人間らしい音楽。両者が共存する未来において、Bandcampは後者の最後の砦となることを選択したのです。

【用語解説】

生成AI(Generative AI)
テキスト、画像、音声、音楽などのコンテンツを自動生成する人工知能技術。音楽分野ではSunoやUdioなどのサービスが代表的で、テキストプロンプトから数分で完成した楽曲を生成できる。

DAW(Digital Audio Workstation)
デジタル音声編集ソフトウェアの総称。Logic Pro、Ableton Live、FL Studioなど。現代の音楽制作において必須のツールで、録音、編集、ミキシング、マスタリングを統合的に行える。

ロイヤリティプール
ストリーミングサービスが集めた収益をアーティストに分配するための総額。AI生成音楽による不正ストリーミングが増えると、本物のアーティストへの分配額が減少する。

スパムトラック
ストリーミング再生回数を稼いで不正に収益を得ることを目的とした低品質な音楽。多くの場合、AIで大量生成され、ボットによって再生される。

なりすまし(Impersonation)
AI音声クローン技術を使い、既存のアーティストの声や音楽スタイルを無断で模倣すること。著作権侵害やアーティストのブランド毀損につながる。

Songtradr
2023年にBandcampを買収した音楽ライセンシング企業。音楽の著作権管理とライセンシング事業を展開している。

【参考リンク】

Bandcamp(外部)
アーティストが音楽を直接販売できる音楽配信プラットフォーム。販売額の85%がアーティストに還元される仕組み

Spotify(外部)
世界最大級の音楽ストリーミングサービス。月間アクティブユーザー数6億人以上を誇る

Deezer(外部)
フランス発の音楽ストリーミングサービス。AI生成音楽の検出とタグ付けを業界で初めて実装

Suno(外部)
テキストプロンプトから音楽を生成するAIサービス。数分で完成した楽曲を作成できる

Udio(外部)
AI音楽生成プラットフォーム。Sunoと並び主要なAI音楽生成ツールの一つ

【参考記事】

Bandcamp bans AI-generated music: ‘We want musicians to keep making music’(外部)
BandcampのAI音楽禁止ポリシーの詳細報道と音楽業界全体の動向を解説

Spotify Strengthens AI Protections for Artists, Songwriters, and Producers(外部)
Spotify公式による7500万曲のスパムトラック削除と新しいAI対策ポリシーの発表

Spotify has deleted 75m+ tracks in ‘spammy’ AI music crackdown(外部)
Spotifyの7500万曲削除の詳細とAI音楽が音楽業界に与える影響を分析

50,000 AI tracks flood Deezer daily – as study shows 97% of listeners can’t tell the difference(外部)
Deezerが公開した調査結果。毎日5万曲のAI音楽がアップロードされる実態を報告

Bandcamp takes a stand against AI music, banning it from the platform(外部)
BandcampのAI禁止決定が音楽配信業界に与える影響を分析

50000 AI-music tracks are now uploaded to Deezer every day(外部)
DeezerのAI音楽追跡データと2025年1月から11月までの急増推移を時系列で解説

Bandcamp Bans All Music Made with AI(外部)
Bandcamp Fridayなど同プラットフォームのアーティスト支援の文脈でAI禁止を解説

【編集部後記】

音楽の未来について、私たちは岐路に立っています。AIが人間と区別がつかない音楽を作れる時代に、あえて「人間が作った音楽」にこだわる意味はあるのでしょうか。Bandcampの決断は、その問いへの一つの答えです。完璧さよりも人間らしさを、効率よりも創造性を選ぶ。皆さんはどう考えますか?音楽を聴くとき、その背後にある人間のストーリーを知りたいと思いますか?それとも、音そのものが良ければ作り手は関係ないでしょうか?この議論に正解はありません。だからこそ、一緒に考えていきたいと思います。

投稿者アバター
Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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