倉庫や工場で黙々と働くAGV(自動搬送車)の市場規模について、調査会社によって推計値が2倍以上も違う――これは市場が急速に変化し、定義すら定まっていない証拠だ。MarketsandMarketsが2026年1月に発表した最新レポートによると、AGV市場は2025年の26.8億ドルから2032年には47.2億ドルへと成長し、特にアジア太平洋地域が市場の3分の1を占めるという。
MarketsandMarkets™は2026年1月19日、世界の自動搬送車(AGV)市場が2025年の26億8000万ドルから2032年には47億2000万ドルに成長し、予測期間中に8.7%のCAGRを記録するとの予測を発表した。
ペイロード別では中型AGVセグメントが予測期間中に9.6%のCAGRで最も高い成長率を記録する見込みである。業界別では物流/3PLセグメントが11.6%のCAGRで最高の成長が予想される。地域別ではアジア太平洋地域が2025年に33.8%のシェアで市場を支配すると予測されている。用途別では牽引車セグメントが最大シェアを占め、エンドユース産業では自動車セクターが最大の市場となる見通しである。
主要企業にはDaifuku Co., Ltd.、Toyota Industries Corporation、KUKA SE & Co. KGaA、KION GROUP AG、JBTが含まれる。
【編集部解説】
今回発表されたMarketsandMarketsのレポートで注目すべきは、AGV市場の成長率そのものよりも、市場調査会社ごとに推計値が大きく異なる点です。例えばGrand View Researchは2025年の市場規模を59億3000万ドルと推計しており、MarketsandMarketsの26億8000万ドルの2倍以上です。これはAGVの定義範囲、調査対象地域、含まれる製品カテゴリーの違いによるものですが、逆に言えば市場そのものが急速に変化しており、境界線が曖昧になっているということでもあります。
この市場拡大の背景にあるのは、世界的な労働力不足という構造的な課題です。特に倉庫や物流施設でのフォークリフトオペレーター不足は深刻で、AGVは24時間365日稼働できる代替手段として注目されています。単なる省人化ではなく、人間の作業者をより付加価値の高い業務にシフトさせる「労働力の再配置」という視点が重要です。
技術面では、従来の磁気テープや反射板による誘導から、LiDAR(レーザーレーダー)やビジョンベースAIを使った自律ナビゲーションへの移行が進んでいます。これにより、AGVは固定ルートだけでなく、動的に経路を変更したり障害物を回避したりできるようになりました。倉庫管理システム(WMS)や製造実行システム(MES)との統合も深化しており、リアルタイムでの最適化が可能になっています。
一方で、安全性に関する課題も見逃せません。AGVの車輪摩耗による停止距離の延長、磁気センサーの損傷による衝突、磁気テープの劣化による経路逸脱など、26種類のハザードが特定されています。特に人間との協働環境では、AGVの予測不可能な動作が重大な事故につながるリスクがあります。
長期的には、AGVの普及が産業構造そのものを変える可能性があります。初期投資コストの低下と導入スピードの向上により、中小規模の物流施設でも採用が進むでしょう。しかし、AGVに依存しすぎた施設では、システム障害時のバックアッププランが不可欠です。また、フォークリフトオペレーターという職種が減少する一方で、AGVフリート管理やメンテナンスといった新しいスキルセットが求められるようになります。
アジア太平洋地域が市場の3分の1を占めるという予測は、この地域の製造業とeコマースの急成長を反映しています。特に中国とインドでは、巨大な倉庫ネットワークの構築とともにAGV導入が加速しており、グローバルサプライチェーンの効率化に直結しています。
【用語解説】
AGV(Automated Guided Vehicle / 自動搬送車)
磁気テープ、レーザー、ビジョンシステムなどによって誘導され、工場や倉庫内で自律的に物資を運搬する無人搬送車である。人手を介さずに24時間稼働が可能で、生産ラインへの部品供給や完成品の搬送など反復的な作業に用いられる。
CAGR(Compound Annual Growth Rate / 年平均成長率)
複数年にわたる成長率を年率換算した指標である。市場規模の推移を表現する際に使われ、例えば8.7%のCAGRは毎年平均して8.7%ずつ成長することを意味する。
3PL(Third-Party Logistics / サードパーティロジスティクス)
企業の物流業務を包括的に請け負う外部事業者のことである。在庫管理、輸配送、倉庫運営などを一括して代行し、荷主企業は本業に集中できる。
ペイロード
AGVが運搬できる最大積載重量のことである。軽量品を扱う小型AGVから数トン級の重量物を運ぶ大型AGVまで、用途に応じて分類される。
牽引車セグメント
複数のカートやトレーラーを牽引して運搬するタイプのAGVである。一度に大量の物資を長距離移動させる際に効率的で、自動車工場などで広く採用されている。
WMS(Warehouse Management System / 倉庫管理システム)
倉庫内の在庫、入出庫、ロケーション管理などを統合的に管理するソフトウェアシステムである。AGVと連携することでリアルタイムでの最適な搬送指示が可能になる。
MES(Manufacturing Execution System / 製造実行システム)
製造現場での作業指示、進捗管理、品質管理などを統合するシステムである。生産スケジュールに基づいてAGVへ資材搬送のタイミングを指示する。
LiDAR(Light Detection and Ranging / ライダー)
レーザー光を照射し、反射光から周囲の物体までの距離や形状を測定する技術である。AGVの自律ナビゲーションにおいて、障害物検知や経路計画に使用される。
【参考リンク】
MarketsandMarkets(外部)
Fortune 2000企業の80%が活用する市場調査会社。テクノロジー、ヘルスケア、産業分野で詳細な市場分析レポートを提供している。
Daifuku Co., Ltd.(株式会社ダイフク)(外部)
マテリアルハンドリングシステムの世界的リーダー。AGVを含む物流自動化機器で、自動車工場や空港など幅広い分野に実績を持つ。
Toyota Industries Corporation(株式会社豊田自動織機)(外部)
フォークリフト製造で世界トップシェア。近年はAGVやAMR(自律移動ロボット)などの自動化ソリューションにも注力している。
KUKA AG(外部)
ドイツの産業用ロボットメーカー。自動車製造ラインでの溶接・組み立てロボットで高いシェアを持ち、AGVとの統合システムを提案。
KION GROUP AG(外部)
ドイツの物流機器大手。Linde、STILLなどのブランドを展開し、フォークリフトから倉庫自動化システムまで包括的に提供。
JBT Corporation(外部)
米国の産業技術企業。AGV技術を活用した空港内の貨物・手荷物搬送システムや食品工場の自動化ソリューションを提供している。
【参考記事】
Automated Guided Vehicle (AGV) Market Size, Share and Forecast(外部)
MarketsandMarketsによるAGV市場の公式レポート。2025年の26億8000万ドルから2032年の47億2000万ドルへの成長予測など詳細データを掲載。
Automated Guided Vehicle Market Size and Share Analysis(外部)
Mordor Intelligenceによる市場調査。2025年の市場規模を39億ドルと推計しており、調査会社による推計値の違いが確認できる。
Automated Guided Vehicle Market Industry Report, 2033(外部)
Grand View Researchによる市場分析。2025年の市場規模を59億3000万ドルと推計し、技術トレンドや用途別分析を提供している。
Safety Implications of Automated Guided Vehicles in the Modern Workplace(外部)
AGVの安全性に関する学術論文。26種類のハザードを特定し、車輪摩耗、磁気センサー損傷などのリスク評価に重要な知見を提供。
Automated guided vehicles help warehouses address labor shortage(外部)
物流業界におけるAGV導入の背景として労働力不足を解説。倉庫やフォークリフトオペレーター不足がAGV需要を押し上げている。
The Impact of Artificial Intelligence on AGV Robot Navigation(外部)
AI技術がAGVナビゲーションに与える影響を解説。LiDAR、ビジョンシステム、機械学習による動的経路計画など技術進化を詳述。
Asia Pacific Automotive AGV Market Analysis 2025(外部)
アジア太平洋地域の自動車産業におけるAGV市場分析。製造業の集積とeコマースの急成長が世界市場の3分の1を占める背景を解説。
【編集部後記】
AGVは工場や倉庫の話と思われるかもしれませんが、私たちが注文した商品が翌日届く背景には、こうした技術があります。一方で、調査会社によって市場規模が2倍以上も違うという現実は、この分野がまだ定義すら定まっていない変化の途上にあることを示しています。
あなたの職場や関わる業界では、どんな搬送作業が自動化できそうでしょうか。あるいは逆に、人間にしかできない判断や作業は何だと思いますか。労働力不足という課題に対して、AGVは一つの解にすぎません。ぜひ、ご自身の視点から未来の働き方を想像してみてください。




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