株式会社ダイモンは、JAXAの宇宙探査イノベーションハブが実施した第13回研究提案募集(RFP13)において、「月面ペイロード放出成功率を向上させる『汎用型ペイロード輸送ボックス』の開発」が採択内定された。
本研究は、ダイモンが2025年の月面探査Project YAOKI 1(PY1)で運用したペイロードボックスの知見を発展させ、より多様なペイロードに対応できる汎用型として再設計するものである。
従来、ペイロードの搭載方式が各社着陸船毎に都度設計になりやすく、開発期間・コスト・試験負担の増大、放出リスクの増加が課題となっていた。
汎用型ペイロード輸送ボックスは、月面輸送・運用で求められる要件を踏まえ、ペイロードの搭載から月面での放出までを一貫して支える共通基盤としての運用を目指す。
技術パートナーには株式会社UCHIDA、株式会社桂川精螺製作所、株式会社JAOPS、株式会社中央エンジニアリング、東京海上日動火災保険株式会社、パンチ工業株式会社、三菱ケミカル株式会社が参画している。
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「月輸送ペイロード輸送ボックスの開発」が JAXA 宇宙探査イノベーションハブ RFP13 に採択内定
【編集部解説】
月面開発の最前線で、非常に地味ながら極めて重要な「インフラ」が誕生しようとしています。ダイモンが今回JAXAに採択内定されたのは、まさにそうした「縁の下の力持ち」的な技術です。
2025年3月、同社の月面探査車YAOKIは、米Intuitive Machines社の月着陸船Athenaに搭載されて月面に到達しました。しかし着陸船が横転したため、YAOKIは「デプロイヤー」と呼ばれる輸送ケースから月面に放出されることなく、ミッションを終えました。それでも格納状態のまま全機能が正常に動作することを確認し、写真撮影と地球へのデータ送信に成功しています。
この経験から見えてきたのが、今回のテーマです。月面輸送において、着陸船からペイロード(搭載物)を「確実に放出する」ことは想像以上に難しい課題なのです。現状では、ペイロードの搭載方式が各着陸船ごとに異なるため、ペイロードを送りたい企業や研究機関は、それぞれの着陸船に合わせて設計を一からやり直す必要があります。これは開発期間とコストの増大を招き、失敗リスクも高めてしまいます。
ダイモンが開発する「汎用型ペイロード輸送ボックス」は、こうした課題を解決する共通基盤となるものです。月面輸送時の環境条件を踏まえ、ペイロードの搭載から月面での放出までを一貫してサポートします。インターフェースを共通化することで、多様なペイロードに対応でき、月面実証を目指す企業や研究機関の参入障壁を大きく下げることができます。
この取り組みの本質は、月面輸送を「一回限りの特別なミッション」から「繰り返し可能な物流」へと転換させることにあります。汎用型の輸送ボックスが普及すれば、月面実証の回数と速度が増し、月面での新産業の立ち上げが加速するでしょう。
今回の研究は、JAXAのRFP13においてチャレンジ型課題として採択内定されました。チャレンジ型は、従来の枠組みに捉われない新しい研究提案を募集するもので、将来の宇宙探査および新産業の創出につながる挑戦的な研究を推進することを目的としています。
技術パートナーには、株式会社UCHIDA、桂川精螺製作所、JAOPS、中央エンジニアリング、東京海上日動火災保険、パンチ工業、三菱ケミカルといった多様な企業が参画しています。これらの企業の技術を結集することで、より実用的で信頼性の高い輸送ボックスの開発が期待されます。
月面開発において、派手な探査車やロケットが注目を集めがちですが、こうした「標準化」や「共通基盤」こそが、産業の健全な発展には不可欠です。ダイモンの取り組みは、月面開発のエコシステムを育てる重要な一歩と言えるでしょう。
【用語解説】
ペイロード
航空機やロケットが運搬する搭載物のこと。宇宙ロケットにおいては人工衛星や観測機器、月着陸船においては探査機や実験装置などを指す。本来は「対価を払って運ぶ荷物」を意味し、宇宙開発においては輸送の目的となる機器そのものを指す。
デプロイヤー
ペイロードを輸送時に格納し、保護するケース。月面到達後に開放してペイロードを月面に展開する役割を持つ。YAOKIの場合、着陸船の電力供給が途絶えたため、デプロイヤーからの放出が実現できなかった。
RFP(Request for Proposal)
研究提案募集のこと。JAXAが民間企業や大学などから革新的な技術提案を募集し、共同研究として実施する制度。今回のRFP13は「Moon to Mars Innovation」という研究制度の一環として実施された。
Moon to Mars Innovation
JAXA宇宙探査イノベーションハブが2024年から開始した新しい研究制度。JAXAと民間企業等の月探査へのニーズを踏まえ、将来のJAXAの宇宙探査ミッションと企業等の宇宙事業化の双方の創出を目指す。システム型、ゲームチェンジ型、チャレンジ型の3つの研究タイプがある。
チャレンジ型研究
RFP13から新たに設定された研究タイプで、従来の枠組みに捉われない新しい研究提案を募集するもの。上限300万円の研究費で、将来の宇宙探査および新産業の創出につながる挑戦的な研究を推進することを目的とする。
【参考リンク】
株式会社ダイモン(外部)
2012年創業のロボット・宇宙技術開発ベンチャー。月面探査車YAOKIを中核として月面探査事業、地上ロボット事業、教育エンタメ事業に取り組む
JAXA 宇宙探査イノベーションハブ(外部)
JAXAが2015年に設立した組織。異分野の人材・知識を集め、宇宙探査におけるゲームチェンジを実現する技術開発を推進する
第13回研究提案募集(RFP13)採択内定結果(外部)
JAXAが公表したRFP13の採択内定結果。システム型、ゲームチェンジ型、チャレンジ型の各研究課題と採択内定先を掲載
月面探査車YAOKI公式サイト(外部)
ダイモンが開発する超小型・超軽量の月面探査車。全長15cm、重量498g。2025年3月に日本の民間企業として初めて月面に到達
【参考記事】
日本の小型月面探査車「YAOKI」画像取得などに成功 米企業の月着陸機に搭載(外部)
2025年3月、Intuitive Machinesの月着陸船Athenaに搭載されたYAOKIが月面に到達。着陸船が横転したため月面走行はできなかったが、デプロイヤー内部から画像撮影と地球へのデータ送信に成功した
月面探査車「YAOKI」日本の民間企業として初めて月面に到達し撮影成功!(外部)
ダイモンの公式プレスリリース。Project YAOKI 1(PY-1)の詳細な成果報告。YAOKIの運用は約2時間にわたり実施され、最終コマンド送信時点でバッテリー残量は4時間以上あることを確認
JAXA宇宙探査イノベーションハブRFP13情報サイト(外部)
Moon to Mars Innovationの研究制度について詳細を説明。次世代エネルギー、次世代モビリティ、アセンブリ&マニュファクチャリング、ハビテーションの4領域における研究開発を推進している
【編集部後記】
月面探査というと、どうしてもロケットや探査車といった「主役」に目が行きがちですが、実は産業として成立させるには「地味だけど確実に動く仕組み」こそが重要だったりします。今回ダイモンが取り組む汎用型ペイロード輸送ボックスは、まさにそうした「縁の下の力持ち」。荷物を月まで運んで、確実に降ろす。当たり前のようで、これが標準化されていないことが月面開発のボトルネックになっていたんですね。私たちinnovaTopia編集部も、こうした基盤技術の進展に注目していきたいと思います。皆さんは、月面開発において「次に標準化されるべき技術」は何だと思いますか?



































