advertisements

オーストラリアでAI主導の「サイバネティクス」政府樹立を掲げテロ未遂が発生

[更新]2026年1月22日

オーストラリア・クイーンズランド州で、24歳の博士課程学生Sepehr Saryazdiがテロ行為の準備または計画の罪で逮捕され、1月22日に裁判所に出廷した。

Saryazdiは1月26日のオーストラリアデー祝賀行事で、ゴールドコーストの群衆に向けて火炎瓶を投げる計画を立てていたとされる。

彼は1月4日から9日の間に酒のボトル、包装紙、毛布を購入したと伝えられる。

法廷では、彼がFacebookで「1月26日にゴールドコーストの暴動を主導する」と投稿し、メルボルンでもウォッカのボトルを備蓄するよう呼びかけていたことが明らかにされた。

Saryazdiは警察に対し、政府が専制的になっていると考え、AIとデータ分析によって社会が導かれる「サイバネティクス」政府に置き換えたいと述べたという。

彼はシドニー大学で数理科学の修士号を取得し、CSIROのデータ・デジタル専門部門およびオーストラリアロボティクスセンターの博士課程学生であると自己紹介していた。

治安判事Penelope Hayは検察側の証拠の強さを理由に保釈を却下し、彼は2月20日に再び出廷する予定である。

From: 文献リンクQueensland PhD candidate accused of plotting to firebomb Australia Day event wanted AI-driven society, court hears

【編集部解説】

オーストラリアで博士課程学生が起こそうとしたテロ未遂事件は、AI時代の新たな脅威の輪郭を浮き彫りにしました。容疑者のSepehr Saryazdiは、AIとデータ分析によって導かれる「サイバネティクス」政府を掲げ、政府転覆を企てたとされています。

注目すべきは、彼の経歴です。シドニー大学で数理科学の修士号を取得し、オーストラリアの国立研究機関CSIROのデータ・デジタル専門部門で博士課程に在籍していました。テクノロジーの最前線で学ぶ研究者が、なぜテロ行為に走ろうとしたのでしょうか。

この事件は、テクノロジーに対する危険な解釈と、オンラインコミュニティによる過激化という二つの現代的問題を内包しています。AIやデータ分析は、社会課題を解決する強力なツールです。しかし、それらを「既存の政治システムを置き換える魔法の杖」として捉える思想は、技術的ユートピア主義の危険な側面を示しています。

弁護側の説明によれば、彼はブリスベンに移住後、孤立した生活を送り、新たに知り合った人々の影響を受けてオンライン上の抗議活動の動画を視聴するようになりました。50人以上が参加するFacebookの非公開グループで攻撃計画を投稿し、他都市の協力者にも火炎瓶の準備を呼びかけていたとされています。

これは典型的な「エコーチャンバー」による過激化のケースです。ソーシャルメディアのアルゴリズムは、ユーザーの既存の信念を強化するコンテンツを優先的に表示します。南カリフォルニア大学の研究によれば、道徳的に均質な環境に身を置く人々は、自分たちの価値観を守るために過激な手段に訴える可能性が高まることが明らかになっています。

AI技術とテロリズムの交差点も懸念されています。国際テロ対策センター(ICCT)の報告書は、テロ組織がAIを宣伝活動、リクルート、資金調達に利用する可能性を指摘しています。生成AIは、ターゲットに合わせたプロパガンダの作成や、対話型リクルートツールとして悪用されるリスクがあるのです。

本件では、一般市民からCrime Stoppersへの通報が捜査のきっかけとなりました。クイーンズランド州警察は水曜日に容疑者を逮捕し、木曜日の法廷で保釈請求は却下されています。オーストラリアデーという国民的祝日を標的にした計画だったことから、社会的な衝撃も大きいものとなりました。

技術の進歩は人類に大きな恩恵をもたらしますが、同時に新たなリスクも生み出します。高度な教育を受けた研究者でさえ、孤立とオンラインでの過激化によって危険な思想に傾倒する可能性があることを、この事件は示しています。

AI時代におけるテロ対策には、技術的な監視だけでなく、オンラインコミュニティのモニタリング、孤立した個人への社会的支援、そしてテクノロジーに対する健全な理解の促進が不可欠です。テクノロジーは社会を改善するツールであって、政治システムを一方的に置き換える手段ではないという認識を、私たちは共有する必要があります。

【用語解説】

サイバネティクス
制御理論やシステム理論を基盤とする学問領域で、人間、機械、組織などの複雑なシステムにおける通信と制御のメカニズムを研究する。本件では、AIとデータ分析によって社会を統治する政府システムという文脈で用いられている。

CSIRO(Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation)
オーストラリア連邦科学産業研究機構。オーストラリアの国立研究機関で、科学技術研究を通じて産業発展と社会課題の解決に貢献している。データサイエンス、ロボティクス、気候変動など幅広い分野で研究を展開する。

ASIO(Australian Security Intelligence Organisation)
オーストラリア保安情報機構。オーストラリアの国内諜報機関で、テロリズム、スパイ活動、外国からの干渉などの脅威から国家安全保障を守る役割を担う。

エコーチャンバー(Echo Chamber)
ソーシャルメディアやオンラインコミュニティにおいて、同じ考えや信念を持つ人々だけが集まり、異なる意見が排除される閉鎖的な環境。アルゴリズムによって類似した情報が優先的に表示されることで強化され、過激化や極端な思考を促進するリスクがある。

オーストラリアデー
毎年1月26日に祝われるオーストラリアの建国記念日。1788年にイギリスの第一船団がシドニー湾に到着した日を記念している。国民的祝日として各地で式典やイベントが開催される。

Crime Stoppers
犯罪情報の匿名通報を受け付ける非営利組織。市民が警察に直接連絡することなく、犯罪に関する情報を提供できる仕組みを提供している。オーストラリアを含む多くの国で運営されている。

【参考リンク】

CSIRO(Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation)(外部)
オーストラリア連邦科学産業研究機構の公式サイト。データサイエンス、AI、ロボティクスなど最先端の研究活動を紹介

ASIO(Australian Security Intelligence Organisation)(外部)
オーストラリア保安情報機構の公式サイト。国家安全保障、テロ対策、脅威評価に関する情報を提供

Crime Stoppers Australia(外部)
犯罪情報の匿名通報を受け付ける非営利組織。市民からの情報提供によって犯罪解決に貢献

Queensland Police Service(外部)
クイーンズランド州警察の公式サイト。地域の安全確保、犯罪防止、緊急対応を担当

International Centre for Counter-Terrorism (ICCT)(外部)
国際テロ対策センター。テロリズム研究、政策分析、AIとテロの交差点に関する報告書を発行

【参考記事】

Sepehr Saryazdi: CSIRO PhD candidate charged over alleged terror plot planned for Gold Coast on Australia Day | The Nightly(外部)
CSIROの博士課程学生が50人以上が参加するFacebook Messengerの非公開グループで「極めて懸念される」投稿を行っていたこと、一般市民からCrime Stoppersへの通報が捜査のきっかけとなったことを報じている

Exploitation of Generative AI by Terrorist Groups | International Centre for Counter-Terrorism(外部)
テロ組織が生成AIをプロパガンダ、リクルート、資金調達に利用する可能性を分析。AIチャットボットを使った対話型リクルートや、ターゲットに合わせた偽情報の拡散リスクを指摘している

The Radicalization (and Counter-radicalization) Potential of Artificial Intelligence | ICCT(外部)
AIによる過激化の可能性とELIZA効果について分析。AIの世界的な同時普及により、西側諸国が従来享受していた技術的優位性が失われつつあることを警告している

Social media ‘echo chambers’ radicalize people, make them more likely to turn violent | StudyFinds(外部)
南カリフォルニア大学の研究で、2500万件以上のGabへの投稿と90万件のRedditの投稿を分析。道徳的に均質な環境にいる人々は過激化し暴力的になりやすいことが明らかになった

Moral Echo Chambers on Social Media Could Boost Radicalization, Study Finds | SPSP(外部)
Social Psychological and Personality Science誌に掲載された研究。道徳的に均質なネットワークが強い絆を生み、集団の価値観を守るために死ぬ意志さえも高めることを示している

Generating Terror: The Risks of Generative AI Exploitation – Combating Terrorism Center at West Point(外部)
ChatGPTなど生成AIプラットフォームの「ジェイルブレイク」テストを実施。間接的なプロンプトを使うと65%の成功率でテロ関連の情報を引き出せることが判明した

ARTIFICIAL INTELLIGENCE AND ECHO CHAMBERS | Counter Terrorism Group(外部)
AIアルゴリズムがエコーチャンバーを強化するメカニズムを解説。2015年のチャールストン教会銃乱射事件の犯人Dylann Roofがインターネットを過激化の主要ツールとしていたことを例示している

【編集部後記】

テクノロジーの進化は私たちに多くの可能性をもたらしますが、同時に新たなリスクも生み出しています。この事件が示すのは、高度な教育を受けた研究者でさえ、孤立とオンラインでの過激化によって極端な思想に傾倒する可能性があるという現実です。私たち一人ひとりが、情報を批判的に吟味し、多様な視点に触れる努力を続けることが、健全なデジタル社会を築く第一歩になるのではないでしょうか。みなさんは、AI時代のテロ対策や、オンラインコミュニティの在り方について、どのようにお考えですか。

投稿者アバター
Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

読み込み中…

innovaTopia の記事は、紹介・引用・情報収集の一環として自由に活用していただくことを想定しています。

継続的にキャッチアップしたい場合は、以下のいずれかの方法でフォロー・購読をお願いします。