損保ジャパンが2026年1月21日、Palantir Technologies Japanと共同開発した代理店業務品質評価システムを2025年12月から運用開始したと発表した。同社は2025年11月にグループ全体3万人へのGoogle Gemini Enterprise導入を発表したばかりだが、今回は社員向けではなく、約3万の委託代理店を対象とした業務品質評価にAIを活用する。2026年度から損害保険業界共通で開始される「代理店業務品質評価制度」に先駆けた取り組みで、生成AIによる一次判定と人間による確認を組み合わせた「ヒューマン・イン・ザ・ループ」設計により、判定業務の均質化と効率化を同時に実現する。
損害保険ジャパン株式会社は、2026年度に損害保険業界共通で開始される「代理店業務品質評価制度」の運営に先立ち、委託代理店の態勢整備の状況等を定性的に評価・判定するためのシステムを開発し、2025年12月に運用を開始した。本システムは、Palantir Technologies Japan株式会社とともに、Palantirのデータ統合基盤「Palantir Foundry」およびAI基盤「Palantir AIP」を活用した生成AI搭載システムである。
本システムでは、LLMを使用した生成AIが一次判定を行い、社員が確認する機能を導入している。同システムは、2025年度の取組評価項目における定性判定から利用を開始し、順次機能を拡張したうえで、2026年度から本格展開が開始される業界共通の「代理店業務品質評価制度」の損保ジャパンでの運用にも活用していく。
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生成AIを活用した代理店業務品質評価システムのリリース
【編集部解説】
損保ジャパンによる今回のシステム導入は、単なるデジタル化ではなく、業界全体の構造改革における象徴的な一歩と位置付けることができます。
2023年のビッグモーター事件に端を発した保険金不正請求問題は、損害保険業界全体のガバナンス不全を浮き彫りにしました。この事態を受け、日本損害保険協会は「代理店業務品質評価制度」という業界共通の枠組みを構築し、2026年度からの本格運用を決定しています。損保ジャパンは、この業界ルールの施行に先駆けて、独自の評価システムを2025年12月に稼働させたことになります。
注目すべきは、Palantir AIPという生成AIプラットフォームを採用した点です。Palantirは米国の防衛・諜報分野で実績を積んだデータ分析企業で、2025年第2四半期には四半期売上高が史上初めて10億ドルを突破するなど、AI実装企業として急成長を遂げています。日本市場では、富士通が2025年8月にPalantir AIPのライセンス契約を締結し、国内展開を加速させています。
SOMPOグループは既にPalantirの先進ユーザーとして知られ、グループ全体で8,000人以上がプラットフォームを活用しています。2025年8月にはPalantirとの複数年契約を拡大し、AI活用による引受業務の自動化などで年間約1,000万ドル(約15億円)の財務改善を見込んでいます。
今回のシステムの核心は「ヒューマン・イン・ザ・ループ」設計にあります。代理店から提出される資料をLLM(大規模言語モデル)が一次判定し、その結果を人間が確認する二段構えです。完全な自動化ではなく、AIと人間の協働により、判定の均質性を保ちながら作業時間を短縮する狙いがあります。
この取り組みは、金融規制が厳格な日本において、AIを実務に実装する際の一つのモデルケースとなる可能性があります。「AIが判断し、人間が承認する」という役割分担は、説明責任が求められる規制産業での生成AI活用における現実的な解といえるでしょう。
2026年度からは業界全体で約3万の代理店がこの評価制度の対象となります。損保ジャパンの先行事例が、業界全体のベストプラクティスとなるか、今後の展開が注目されます。また、保険以外の規制産業(銀行、証券、医療など)においても、同様のAI活用モデルが参考とされる可能性があります。
【用語解説】
LLM(大規模言語モデル)
Large Language Modelの略。膨大なテキストデータで学習したAIモデルで、文章の理解や生成が可能。ChatGPTなどがその代表例である。企業業務では文書の分類、要約、判定支援などに活用される。
ヒューマン・イン・ザ・ループ
AIによる自動判定や処理において、重要な判断を人間が最終的に確認・承認する設計思想。完全自動化ではなく、AIの判断を人間が監督することで、精度と説明責任を両立させる。規制産業で特に重視される。
PDCAサイクル
Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)の4段階を繰り返すことで、継続的に業務を改善していく管理手法。品質管理や業務改善の基本フレームワークとして広く活用されている。
代理店業務品質評価制度
損害保険業界が2026年度から本格運用する業界共通の評価制度。日本損害保険協会が主催し、保険代理店の業務品質を中立的な第三者が評価する仕組み。2023年の不正請求問題を受けて構築された。
【参考リンク】
損害保険ジャパン株式会社(外部)
損保ジャパン公式サイト。今回のPalantir AIP活用システムのリリース情報も掲載。
Palantir(日本語サイト)(外部)
米パランティアの日本語公式サイト。Palantir FoundryやAIPの製品情報、導入事例を紹介。
一般社団法人 日本損害保険協会(外部)
損害保険業界の業界団体。代理店業務品質評価制度の詳細情報を公開。
SOMPOホールディングス株式会社(外部)
損保ジャパンの親会社。グループ8,000人以上がPalantirを活用中。
富士通株式会社 – Palantir協業ニュース(外部)
富士通がPalantir AIPライセンス契約を締結したニュースリリース。
【参考記事】
代理店業務品質評価を行う業界共通の枠組み|日本損害保険協会(外部)
2026年度本格運用の代理店業務品質評価制度の公式情報。評価指針や自己点検シートを掲載。
【2025最新】Palantir AIPとオントロジー完全ガイド(外部)
SOMPOの8,000人活用事例と年間1,000万ドル財務改善の具体的数値を紹介。
なぜパランティアはAI時代の「OS」と呼ばれるのか?(外部)
Palantir四半期売上10億ドル突破、前年同期比48%増を詳述した記事。
損保ジャパン、ガバナンス不全の代理店への手数料下げ – 日本経済新聞(外部)
約3万代理店を対象とした評価仕組み刷新とビッグモーター事件再発防止策を報道。
富士通とPalantir、戦略的パートナーシップを強化(外部)
2025年8月5日のPalantir AIPライセンス契約締結と協業関係強化の経緯を説明。
【編集部後記】
先月、SOMPOグループがグループ全体3万人にGoogle Gemini Enterpriseを導入するというニュースをお伝えしました。社員の生産性向上を目指すその取り組みから、わずか1カ月あまり。今度は約3万の委託代理店を対象とした、Palantir AIPによる業務品質評価システムの運用開始が発表されました。
内向き(社員)と外向き(代理店)、Google GeminiとPalantir、全面展開と限定用途――異なるアプローチを並行させる同社の戦略からは、「AIは万能ツールではなく、目的と文脈に応じて使い分けるもの」という成熟した認識が伝わってきます。
今回の取り組みで特に印象的なのは、完全自動化が技術的に可能な時代に、あえて人間の判断を残す「ヒューマン・イン・ザ・ループ」設計を選んだ点です。効率化を優先するあまり、説明責任や透明性を失っていないでしょうか。あるいは逆に、慎重すぎてAIの恩恵を受けられずにいるでしょうか。
みなさんの業界では、AIをどのように業務に組み込んでいますか。保険業界の事例が、他の規制産業にどのような示唆を与えるのか。ぜひご意見をお聞かせください。



































