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KDDI、大阪堺データセンター稼働開始—NVIDIA GB200搭載、半年で構築した国産AIインフラの全貌

KDDI、大阪堺データセンター稼働開始—NVIDIA GB200搭載、半年で構築した国産AIインフラの全貌

液晶パネル工場からAIインフラへ——。KDDIがシャープ堺工場跡地をわずか半年で最先端のAIデータセンターに転用し、2026年1月22日から本格稼働を開始しました。データが国境を越えて流れる時代に、「データを国内に留める」という選択が日本の産業競争力をどう変えるのか。医療・製造業での具体的な活用事例とともに、この動きが示す意味を読み解きます。


KDDI株式会社は2026年1月22日、大阪堺データセンターの稼働を開始した。本施設は2025年4月に取得したシャープ堺工場跡地の電力・冷却設備を再利用し、半年で構築された。延床面積は約57,000㎡、地上4階建てで、NVIDIA GB200 NVL72などのAIサーバーとGoogleの生成AIモデル「Gemini」のオンプレミスサービスを提供する。

最大100Gbpsのネットワークを備え、再生可能エネルギー由来の電力を100%使用する。KDDIと株式会社医用工学研究所は武田薬品工業株式会社と協力し、2026年4月以降に医療ビッグデータの分析プロジェクトを開始する。また、モルゲンロット株式会社とは製造業界での流体解析の高速化を支援し、株式会社ELYZAとは国産AIの開発を推進する。

KDDI GPU Cloudは2026年1月22日からトライアル提供を開始し、2026年4月1日からサービス申し込み受付を開始する。

From: 文献リンク大阪堺データセンターを1月22日から稼働開始

<大阪堺データセンター外観>KDDI公式プレスリリースより引用

【編集部解説】

今回のKDDIによる大阪堺データセンターの稼働開始は、日本のAIインフラ整備において極めて重要な意味を持つ動きです。特に注目すべきは、わずか半年という異例のスピードで施設を立ち上げた点でしょう。

通常、データセンターの新設には数年を要しますが、KDDIはシャープの液晶パネル生産工場という既存施設を活用することで、この短期間での稼働を実現しました。33,000㎡の敷地に57,000㎡の延床面積を持つこの施設は、液晶生産に必要だった大規模な電力・冷却インフラをそのまま転用できた点が大きな強みとなっています。

このデータセンターが搭載するNVIDIA GB200 NVL72は、36基のGrace CPUと72基のBlackwell GPUを組み合わせた最新鋭のシステムです。FP16精度で360 PFLOPSという驚異的な計算能力を誇り、GPU間を接続するNVLinkの帯域幅は130 TB/sに達します。これほどの性能を引き出すには冷却技術が不可欠で、KDDIは直接液体冷却方式を採用しています。

液冷技術は従来の空冷方式と比較して、GPU温度を46〜54℃に保つことができます(空冷では55〜71℃)。これにより計算スループットが最大17%向上し、冷却コストを40%削減できるという研究結果も出ています。50kW以上の高密度ラックでは、もはや液冷は選択肢ではなく必須となりつつあるのです。

もう一つの重要な特徴が「データソブリン性」の確保です。これは、データが国内に留まり、日本の法律と規制の下で管理されることを意味します。EUのAI規制法やGDPR、日本の個人情報保護法といった各国の法令が厳格化する中、特に医療・金融・行政などの機密性の高い分野では、データが国外に流出するリスクを避けることが最優先課題となっています。

製薬業界での活用事例は、この特性を最大限に生かしたものです。武田薬品工業との協業では、病院や研究機関ごとに分断されている電子カルテデータを集約し、医療特化型LLMで分析します。従来、医師の所見や症状記述などのテキスト情報は構造化が困難でしたが、LLMの進化により、希少疾患の早期発見や患者ごとに最適化された治療法の提案が可能になります。

製造業界では、モルゲンロットとの協業により、自動車や航空機の設計に不可欠な流体解析が高速化されます。従来のGPU環境では計算能力の制約から、数億〜数十億メッシュの大規模シミュレーションには膨大な時間がかかっていました。高性能GPUの活用により、解析時間の短縮だけでなく、より高解像度のシミュレーションが実現し、燃費改善や安全性向上につながります。

国産AIの開発面では、KDDIグループのELYZAとの連携が鍵となります。汎用的なAIモデルでは対応しきれない専門領域の知識を学習させることで、医療・金融・行政など業界特有の規制や専門用語に対応した企業特化型モデルの開発が加速します。

環境面では、再生可能エネルギー100%という点も見逃せません。AIの学習・推論には膨大な電力が必要で、データセンターの環境負荷が問題視される中、KDDIは2025年度中に全データセンターで再エネ化を完了する計画です。

ただし、課題も存在します。高性能GPUの確保は世界的に困難を極めており、供給不足が続いています。また、液冷システムの運用には新たな専門知識が必要で、オペレーターの育成も急務です。さらに、医療データの取り扱いには個人情報保護法への厳格な対応が求められ、ガバナンス体制の整備が欠かせません。

それでも、このデータセンターは日本のAI産業競争力を底上げする重要なインフラとなるでしょう。データ主権を守りながら最先端のAI技術を活用できる環境は、今後ますます重要性を増していくはずです。

【用語解説】

NVIDIA GB200 NVL72
NVIDIAが開発した最新世代のAIサーバーシステム。36基のGrace CPUと72基のBlackwell GPUを組み合わせ、2,592個のArm Neoverse V2コアを搭載する。FP16精度で360 PFLOPSの演算性能を持ち、NVLink技術により130 TB/sの帯域幅で接続される。

データソブリン性(データ主権)
データが特定の国や地域の法的管轄内で保管・処理され、その国の法律と規制の下で管理される原則。国外への不適切なデータ移転や第三者による支配を防ぎ、GDPRや個人情報保護法などの法令遵守を確実にする。

直接液体冷却(ダイレクト・トゥ・チップ液冷)
GPUやCPUに直接冷却用の冷板を取り付け、液体で熱を除去する冷却方式。空冷方式と比較してGPU温度を約10〜20℃低く保つことができ、50kW以上の高密度ラックでは必須の技術となっている。

LLM(大規模言語モデル)
Large Language Modelの略。膨大なテキストデータを学習し、文章の生成・理解・翻訳などを行うAIモデル。医療特化型LLMは医療用語や臨床記録に特化した学習を行い、電子カルテの解析などに活用される。

流体解析(CFD: Computational Fluid Dynamics)
コンピュータを用いて流体(空気や液体)の流れを数値計算により予測・可視化する技術。自動車の空力設計、航空機の翼設計、船舶の抵抗計算などに不可欠で、メッシュと呼ばれる微細な計算格子を用いて物理現象をシミュレーションする。

再生可能エネルギー由来の電力
太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなど、枯渇しない自然エネルギー源から生成される電力。化石燃料と異なりCO2排出が少なく、環境負荷の低減に貢献する。

【参考リンク】

KDDI GPU Cloud サービスページ(外部)
NVIDIA GB200 NVL72を搭載したクラウドサービスの公式ページ。2026年1月22日からトライアル提供を開始。

武田薬品工業株式会社(外部)
日本を代表する製薬企業。KDDIおよび医用工学研究所と協力し、2026年4月以降に医療ビッグデータのAI分析プロジェクトを開始予定。

株式会社ELYZA(外部)
日本語に特化した大規模言語モデルの開発を行うKDDIグループのスタートアップ。医療特化モデルや企業特化モデルの研究開発を推進。

NVIDIA GB200製品情報(外部)
NVIDIA公式の製品ページ。GB200 NVL72の技術仕様、アーキテクチャ、性能ベンチマークなどの詳細情報を提供。

【参考動画】

KDDIの大阪堺データセンター開所に関する公式動画。施設の概要と特長を映像で紹介している。2026年1月21日公開。

【参考記事】

KDDI、大阪堺DCの稼働を開始 松田社長は「AI基盤と通信インフラを融合」(外部)
日経クロステック、2026年1月22日。松田社長が「AI基盤と通信インフラを融合させることで日本の産業競争力強化に貢献する」とコメント。

KDDI大阪堺データセンターが稼働 シャープ堺工場跡地を再活用(外部)
Impress Watch、2026年1月21日。大規模な電力設備や冷却インフラを再活用し、NVIDIA GB200 NVL72やGoogle Geminiのオンプレミス提供に対応。

KDDI、大阪・堺に国内最大級「AIデータセンター」稼働(外部)
ZDNet Japan、2026年1月22日。堺市が政令指定都市移行20周年という節目に国内最大級のAIデータセンターが誕生したことの意義を報道。

KDDI to acquire former Sharp LCD manufacturing plant in Osaka(外部)
Data Center Dynamics、2024年12月9日。KDDIがSharpから堺工場の土地・建物・電気設備を取得し、データセンターへの転用を計画。

CBRE Facilitates KDDI’s Acquisition of Sharp’s Sakai Plant(外部)
CBRE Japan、2025年5月12日。敷地面積33,000㎡、延床面積57,000㎡の施設を2025年4月4日に取得完了と報道。

How to use GenAI without compromising data sovereignty(外部)
野村総合研究所、2024年11月。日本企業が生成AIを活用する際のデータ主権確保について分析。国内データセンターの重要性を指摘。

Liquid Cooling vs Air: The 50kW GPU Rack Guide (2025)(外部)
Introl、2025年8月3日。液冷技術により10〜21%のエネルギー節約、40%の冷却コスト削減が実現可能と報告。

【編集部後記】

データが国境を越えて流れる時代に、「データ主権」という考え方をどう捉えるべきでしょうか。私自身、この大阪堺データセンターの取り組みを見て、日本のAIインフラが新しいフェーズに入ったと感じています。特に医療や製造業といった現場で、機密データを守りながら最先端のAI技術を使える環境が整いつつある。

これは単なる技術の話ではなく、日本の産業競争力そのものに関わる動きです。みなさんの業界では、AIインフラの整備はどの程度進んでいるでしょうか。データを国内に留める必要性を感じる場面はありますか。ぜひ、ご自身の業界や仕事の文脈で考えてみてください。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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