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GoogleのAI Overviews、医療情報で危険な誤情報を提供──YouTubeを最も引用と調査で判明

GoogleのCEOであるSundar Pichaiは2024年5月、検索結果の上に情報要約を表示する新機能「AI Overviews」を発表した。2025年7月までに40言語で200か国以上に展開され、毎月20億人が利用している。

年間200億ドルを生み出す検索ビジネスを守るための施策だが、医療情報の正確性に問題が指摘されている。Guardianの調査では、膵臓がん患者に高脂肪食品を避けるよう誤ってアドバイスするなど、専門家が「本当に危険」と評価する事例が発見された。

肝機能検査や女性のがん検査についても「完全に間違った」情報が提供されていた。ドイツでの50,000件以上の健康関連検索を分析した研究では、AI Overviewsが最も引用する情報源がYouTubeであることが判明した。

バーゼル大学の研究者Hannah van Kolfschootenは、ユーザーが複数の情報源を比較できず、医療基準を満たさない情報源に基づいた「規制されていない医学的権威」が生まれていると指摘する。

From: 文献リンクHow the ‘confident authority’ of Google AI Overviews is putting public health at risk

【編集部解説】

GoogleのAI Overviewsが医療情報において深刻な問題を引き起こしています。このテクノロジーは単なる検索機能のアップデートではなく、情報アクセスの構造そのものを変革する試みです。しかし、その変革が人類の健康に対してリスクをもたらしているという点で、まさに我々が注視すべき「Tech for Human Evolution」における重要な転換点となっています。

2024年5月に米国で導入されたAI Overviewsは、わずか1年余りで驚異的な拡大を遂げました。2025年7月時点で40言語、200か国以上に展開され、月間20億人が利用しています。この急速な展開の背景には、年間2000億ドル(約29兆円)を生み出す検索ビジネスを、ChatGPTなどの新興AIサービスから守るというGoogleの切迫した事情があります。

The Guardianの調査が明らかにしたのは、AI Overviewsが提供する医療情報の正確性における構造的な問題です。膵臓がん患者に対して高脂肪食品を避けるよう助言した事例は、専門家が「本当に危険」と評価するほど深刻なものでした。実際には膵臓がん患者には体力維持のために高脂肪食品が推奨されており、AI Overviewsのアドバイスは正反対でした。

肝機能検査についても重大な問題が指摘されています。AI Overviewsが示す「正常値」は、年齢、性別、民族性などの重要な要因を考慮していないため、実際には深刻な肝疾患を抱える患者が自分の検査結果を正常だと誤認し、必要なフォローアップを受けない危険性があります。女性のがん検査についても、パップテストが膣がんのスクリーニングに使用されるという「完全に間違った」情報が提供されていました。実際にはパップテストは子宮頸がんのスクリーニングに使用されるもので、この混同は診断の遅れにつながりかねません。

さらに注目すべきは、SEO分析プラットフォームSE Rankingが実施した大規模調査の結果です。ドイツにおける50,807件の健康関連検索を分析したところ、AI Overviewsが最も引用する情報源はYouTubeであることが判明しました。YouTubeは全引用の4.43%を占め、これは主要な医療ポータルサイトの1.5倍に相当します。学術誌や政府系医療機関の引用はわずか1%程度に過ぎませんでした。

この問題の本質は、バーゼル大学の研究者Hannah van Kolfschootenが指摘するように、「規制されていない医学的権威」の誕生にあります。従来の検索では、ユーザーは複数の情報源を比較し批判的に評価する機会がありました。しかしAI Overviewsは、検索結果の最上部に単一の自信に満ちた回答を提示します。YouTubeビデオのような医療基準を満たすように設計されていない情報源に基づいた回答が、医学的権威を持つものとして提示される構造が生まれているのです。

ドイツでの調査では、健康関連検索の82%以上でAI Overviewsが表示されることも明らかになりました。つまり、医療情報を求める大多数のユーザーが、従来のリンクリストではなくAI生成の回答を最初に目にする状況が生まれています。

Googleは指摘を受けて一部のAI Overviewsを削除しましたが、British Liver TrustのVanessa Hebditchが述べるように、これは「単一の検索結果を細かく指摘してオフにする」対症療法に過ぎず、健康情報におけるAI Overviewsの根本的な問題には取り組んでいません。実際、わずかに異なる検索語を使うと、同様の問題のある要約が依然として表示されることが確認されています。

アイルランド国立大学のNicole Grossが指摘するように、AI要約が表示されると、ユーザーはさらに調査する可能性が大幅に低下します。つまり、情報を批判的に評価し比較する機会が奪われてしまうのです。医療において、これは文字通り「生死の問題」となりえます。

Ahrefsによる1億4,600万件の検索結果ページの分析では、医療系YMYL(Your Money or Your Life)クエリの44.1%でAI Overviewsが表示されることが明らかになっています。これは全カテゴリの平均20.5%の2倍以上です。さらに深刻なのは、AI Overviewsが表示された場合、従来の検索結果へのクリック率が61%低下するというSemrushの調査結果です。これは、質の高い医療情報を提供する組織のトラフィックと収益が減少する一方で、時に情報を歪めるAIシステムが優位に立つという、逆説的な状況を生み出しています。

この事例が示すのは、AI技術の急速な展開と、その安全性・正確性の確保との間に存在する深刻なギャップです。Googleは「AIの最前線をリードし、信じられないペースで提供している」と誇りますが、医療分野においては、そのスピード優先のアプローチが人々の健康と生命を危険にさらしている可能性があります。

【用語解説】

AI Overviews
Googleが2024年5月に導入した検索機能。生成AIを使用して検索クエリに対する情報要約を作成し、従来の検索結果リストの上部に表示する。ユーザーは複数のサイトを訪問することなく、AIが生成した単一の回答を得ることができる。

YMYL(Your Money or Your Life)
「あなたのお金またはあなたの人生」を意味するGoogleの検索品質評価用語。健康、財務、法律、安全など、誤った情報が人々の幸福、健康、経済的安定、安全に重大な影響を与える可能性があるトピックを指す。

生成AI(Generative AI)
テキスト、画像、音声などの新しいコンテンツを生成できる人工知能システム。大量のデータから学習したパターンに基づいて、人間が作成したような出力を生成する。

パップテスト(Pap test)
子宮頸がんのスクリーニング検査。子宮頸部から細胞を採取し、異常な変化や前がん状態を検出する。子宮頸がん早期発見の重要な手段だが、膣がんの検査には使用されない。

【参考リンク】

The Guardian(外部)
英国の主要な報道機関。今回の調査報道を実施し、GoogleのAI Overviewsにおける医療情報の問題を明らかにした。

SE Ranking(外部)
SEO分析プラットフォーム。ドイツにおける50,807件の健康関連検索を分析し、YouTubeが最も引用される情報源であることを発見。

British Liver Trust(外部)
英国の肝臓疾患に関する慈善団体。AI Overviewsの肝機能検査に関する誤情報について警鐘を鳴らしている。

The Eve Appeal(外部)
英国の婦人科がん専門の慈善団体。女性のがん検査に関するAI Overviewsの誤情報について専門的見解を提供している。

Patient Information Forum(外部)
患者、一般市民、医療専門家にエビデンスに基づいた健康情報を推進する英国の組織。AI Overviewsの問題について声明を発表。

University of Basel(外部)
スイスの主要大学。AI、健康、法律の研究者が「規制されていない医学的権威」の問題を指摘した所属機関。

【参考記事】

Google Health AI Overviews Cite YouTube More Than Any Hospital Site(外部)
SE RankingによるドイツでのYouTube引用率に関する詳細レポート。50,807件の健康関連検索の分析結果を掲載。

Health AI Overviews Trust YouTube Over Medical Platforms(外部)
SE Ranking公式ブログによる研究の全容。YouTubeが全引用の4.43%を占め、学術誌や政府機関は1%程度と報告。

Google removes AI Overviews for certain medical queries(外部)
Guardian調査後のGoogleの対応を報じるTechCrunchの記事。一部の医療クエリからAI Overviewsが削除された。

Google AI Overviews Health Misinformation: 2026 Guardian Investigation(外部)
医療系YMYLクエリの44.1%でAI Overviewsが表示されることを報告。AI生成医療情報の体系的な問題を分析。

Google Scales Back AI Search Summaries Following Health Risk Backlash(外部)
AI Overviews表示時にクリック率が61%低下するSemrushの調査結果を含む、問題の経済的影響についての分析。

Google AI Overviews cite YouTube most often for health topics: Study(外部)
ドイツでの健康クエリの82%以上でAI Overviewsが表示される実態を報告。公衆衛生上の問題として警鐘を鳴らす。

Google AI’s health advice is undermining doctors(外部)
医療とAIの文化的衝突を分析。医療では仮説検証が必須だが、AI分野では速く動くことが優先される問題を指摘。

【編集部後記】

私たちが日々何気なく使っているGoogle検索が、医療情報の領域で大きな変化を迎えています。AI Overviewsは便利な機能ですが、健康に関する判断は慎重さが求められます。検索結果の最上部に表示される情報だからといって、必ずしも正確とは限りません。みなさんご自身や大切な方の健康について調べるとき、複数の情報源を確認し、最終的には必ず医療専門家に相談することをお勧めします。この記事が、テクノロジーの進化と私たちの健康との関係について考えるきっかけになれば幸いです。

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Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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