Teslaは北米で新規購入されるModel 3とModel Yから標準装備だったAutopilotを廃止した。新車には基本的なクルーズコントロールのみが搭載され、車線維持機能は月額制のサブスクリプションに加入しない限り利用できない。
また、Full Self-Driving(FSD)の買い切りオプションは2026年2月14日に終了し、それ以降は月額99ドルのサブスクリプションのみとなる。Muskはソフトウェアの進化に伴い価格が上昇する可能性を警告している。
この変更はカリフォルニア州規制当局がAutopilotという名称が誤解を招くと指摘してきた問題への対応でもあり、既存オーナーの車両機能に変更はないが、新規購入者は運転支援機能を利用するために継続的な支払いが必要となる。従来はオーナーの約12%がFSDソフトウェアを購入していたが、Teslaは低価格の月額制で顧客層の拡大を図っている。
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Tesla kills Autopilot for good and Musk warns of FSD price hikes
【編集部解説】
Teslaの自動運転技術を巡る事業モデルの大転換が進行しています。この動きは単なる機能変更ではなく、カリフォルニア州規制当局との法的闘争、Elon Muskの巨額報酬パッケージ、そしてEV市場における競争激化が複雑に絡み合った戦略的判断です。
2025年12月17日、カリフォルニア州車両管理局(DMV)はTeslaが「Autopilot」および「Full Self-Driving Capability」という名称を用いて誤解を招く広告を行ったと正式に認定しました。行政法判事は製造・販売ライセンスの30日間停止を勧告しましたが、DMVは製造ライセンスの停止は永久に保留し、販売ライセンスについては60日間の猶予を与えています。この規制圧力が、Teslaが「Autopilot」という名称そのものを廃止する直接的な引き金となりました。
同時に注目すべきは、Muskの新たな報酬パッケージとの関連性です。2025年11月に株主の75%以上の賛成で承認されたこの報酬プランは、最大1兆ドルという史上最大規模で、達成すべき12のマイルストーンの1つに「2035年までに1000万のアクティブなFSDサブスクリプション獲得」が含まれています。
ところが、2025年10月にTeslaのCFOであるVaibhav Tanejaが明らかにしたところによれば、現在FSDを購入しているオーナーはわずか12%に過ぎません。つまり、現状の約12%から80%以上の成長が必要となる計算です。買い切り型では目標達成が極めて困難であることから、月額99ドルという低い参入障壁のサブスクリプションモデルへの完全移行を決断したと見られます。
月額制であれば、仮に1000万人が加入すれば月間約10億ドル、年間で約120億ドルという巨大な経常収益が見込めます。
一方で、この判断には法的リスクの軽減という側面もあります。Teslaは長年「将来的に完全自動運転が可能になる」と約束してハードウェアとソフトウェアを販売してきましたが、その約束は未だ実現していません。2025年8月には、フロリダ州の陪審がAutopilot関連の死亡事故でTeslaに2億4300万ドルの損害賠償支払いを命じており、複数の集団訴訟も進行中です。買い切り販売を終了することで、将来的な法的責任を限定する狙いもあると考えられます。
競合環境も厳しさを増しています。Toyotaは2万5000ドル以下のベースグレードのCorollaでさえ車線維持機能を標準装備しており、Teslaが基本的なオートステアを有料化したことで、むしろ競争力を失う可能性があります。Ford、General Motors、Rivianなども独自の運転支援システムを開発しており、中国市場ではBYDをはじめとする現地メーカーが運転支援機能を標準装備として提供しています。
興味深いのは、モデル別の採用率の違いです。Model SとModel Xでは50〜60%のオーナーがFSDを選択している一方、廉価なModel 3とModel Yでは12〜18%程度に留まっています。高価格帯の顧客層は技術への投資意欲が高い一方、マス市場では価格感度が高く、月額99ドルでも継続的な支払いに抵抗があることが窺えます。
Teslaは2026年1月にテキサス州オースティンで無人ロボタクシーサービスのテストを開始するなど、完全自動運転の実現に向けた取り組みを加速させていますが、NHTSAは安全性に関する調査を進めており、実用化にはまだ時間がかかる見込みです。
今回の決断は、規制対応、収益モデルの転換、法的リスク管理、そして経営者報酬という複数の要素が絡み合った結果といえます。Teslaにとって2026年は、サブスクリプションモデルで本当に顧客を獲得できるのか、完全自動運転技術で競合に先行できるのか、そして規制当局との関係をどう構築するのか、という試練の年になるでしょう。
【用語解説】
Autopilot(オートパイロット)
Teslaが提供していた基本的な運転支援システムの名称。Traffic Aware Cruise Control(前方車両との距離を保ちながら速度調整するクルーズコントロール)とAutosteer(車線中央維持機能)を組み合わせたもの。2026年1月に北米市場で標準装備から廃止された。
Full Self-Driving(FSD)
Teslaの高度運転支援システム。車線変更、交通信号の認識、市街地での運転支援などが可能だが、SAEレベル2の運転支援システムであり、常に運転者の監視が必要。「Full Self-Driving (Supervised)」と表記され、完全自動運転ではない点が明示されている。
Traffic Aware Cruise Control(TACC)
前方車両との距離を検知し、設定速度を維持しながら自動的に加減速を行う適応型クルーズコントロール。現在Teslaの新車に標準装備されている唯一の運転支援機能。
SAEレベル2
米国自動車技術会(SAE)が定義する自動運転レベルの分類で、レベル2は「部分的な運転自動化」を意味する。システムが操舵と加減速の両方を支援するが、運転者は常に運転環境を監視し、いつでも介入できる状態でなければならない。
【参考リンク】
Tesla(外部)
電気自動車メーカー。Model 3、Model Y、Model S、Model X、Cybertruckなどを製造・販売している
California Department of Motor Vehicles(外部)
カリフォルニア州車両管理局。自動車製造・販売ライセンスの管理や規制を担当する州政府機関
National Highway Traffic Safety Administration(外部)
米国運輸省の一部門で、自動車の安全基準の策定と執行を担当する連邦政府機関
【参考記事】
Tesla Removes Autosteer From All Model 3 And Model Y Trims(外部)
TeslaがModel 3とModel Yの全グレードからAutosteerを削除。Toyotaの廉価版でさえ車線維持機能を標準装備している点と対比
Tesla discontinues Autopilot in bid to boost adoption of its Full Self-Driving software(外部)
TeslaのAutopilot廃止の背景を分析。カリフォルニア州DMVとの法的闘争と60日間の猶予期間について詳述
DMV Finds Tesla Violated California State Law(外部)
カリフォルニア州DMVの公式声明。Teslaの名称が誤解を招くと判断し、60日間の猶予を与えて対応を求めた
Tesla shareholders approve $1 trillion pay package for Elon Musk(外部)
2025年11月7日、Muskの1兆ドル報酬パッケージが承認。1000万のFSDサブスクリプション達成が目標の1つ
Tesla FSD Adoption Rate Remains Low: Only 12% of Fleet Opts for Full Self-Driving, Reveals CFO(外部)
2025年10月22日、TeslaのCFOがFSDの有料顧客基盤が全車両の12%のみであることを公表
Elon Musk Announces the End of Tesla FSD as a Paid Package, It Will Be Subscription-Only(外部)
2026年2月15日以降FSDの買い切りオプションが終了。月額99ドルで1000万人加入なら月間10億ドルの収益
Tesla will only offer subscriptions for Full Self-Driving (Supervised) going forward(外部)
FSDサブスクリプション専用化の背景を分析。採用率改善、報酬パッケージ達成、法的責任上限設定の3つの理由を指摘
【編集部後記】
自動車を「所有する」という概念が、徐々に「機能を借りる」という形に変わりつつあることを、今回のTeslaの決断は象徴しています。かつて車を買えば当たり前についてきた機能が、今では月額課金の対象になる——この流れは自動車産業だけでなく、あらゆるテクノロジー製品に共通する大きな転換点かもしれません。みなさんは、未来の移動手段に何を求めますか?完全な所有か、それとも必要な時だけ利用できる柔軟性か。この問いは、私たち一人ひとりが技術とどう向き合うかを考えるきっかけになるのではないでしょうか。



































