Axiom SpaceがNASAのArtemis IIIミッション向けに開発中の次世代月面宇宙服AxEMUの映像を2026年1月22日に公開した。
Artemis IIIは2027年以降に1972年以来初めて宇宙飛行士を月面に着陸させる計画である。AxEMUはアポロ時代のA7L宇宙服と比較して機動性が大幅に向上し、しゃがむ、ひざまずく、岩を拾うといった動作が可能になった。
地球上での重量は旧型より20ポンド(9kg)軽く、月面活動時間は最大8時間とアポロの4〜7時間から延長された。改良されたバックパックの生命維持装置により冷却、空気供給、食料と水の配給システムが向上している。
月の南極の極端な温度と研磨性のある月のレゴリスに対する耐性も備えている。NASAは宇宙飛行士の月面輸送にSpaceXのStarshipを使用する予定だが、開発は継続中である。
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Next-gen lunar spacesuit redefines mobility
【編集部解説】
半世紀ぶりの月面着陸を目指すNASAのArtemis IIIミッションに向けて、新世代の月面宇宙服が完成に近づいています。
Axiom Spaceが開発するAxEMU(Axiom Extravehicular Mobility Unit)は、アポロ計画時代の宇宙服から大きく進化を遂げた革新的な設計となっています。最も注目すべきは機動性の向上で、アポロ時代のA7L宇宙服では極めて困難だった「しゃがむ」「ひざまずく」「岩を拾う」といった動作が可能になりました。関節の柔軟性が大幅に改善され、宇宙飛行士は月面でより自然な動きができるようになっています。
活動時間も大幅に延長されました。アポロ計画では月面での活動時間が4〜7時間に限られていましたが、AxEMUは最大8時間の連続活動を可能にします。これは改良された生命維持システムによるもので、冷却、空気供給、食料・水の配給システムが向上しています。
Artemis IIIの目標地点は月の南極域です。この地域は永久影の領域があり、極端な温度変化にさらされる過酷な環境です。AxEMUはこうした極端な温度に耐える設計となっており、また月の表面を覆う研磨性の高いレゴリス(月の砂)からも宇宙飛行士を保護します。
開発にあたってAxiom Spaceは、ファッションブランドのPradaやサングラスメーカーのOakleyといった異業種との協業を進めています。Pradaは外層の材料とデザインを、Oakleyは宇宙飛行士の視界を最適化する次世代バイザーシステムを担当しています。こうした協業は、宇宙産業に新しいプレイヤーを引き込み、それぞれの分野で最高の技術を持つ企業の知見を活用する試みです。
AxEMUは米国人口の90%(1パーセンタイルから99パーセンタイルまで)の体型に対応する設計となっており、より多様な宇宙飛行士が使用できます。Artemis IIIでは初めて女性と有色人種が月面に立つことが計画されており、こうした包括的な設計は重要な意味を持ちます。
開発スケジュールについては、2025年5月にNASAの中性浮力実験施設で若田光一氏による初の有人テストが成功裏に完了し、2025年後半には重要設計審査に入る予定です。ただし、2024年12月時点でNASA当局者が生命維持システムの再設計で「苦戦している」と述べるなど、課題も残されています。
Artemis IIIミッションの実現にはAxEMUだけでなく、SpaceXのStarship月着陸船の開発も不可欠です。NASAは2027年半ばの月面着陸を目標としていますが、Starshipの開発遅延により、実際の着陸は2028年以降になる可能性も指摘されています。それでも、中国が計画する2030年の有人月面着陸に先んじることは可能と見られています。
AxEMUの開発は、単なる宇宙服の更新ではなく、月面での長期滞在を見据えた取り組みの一環です。アポロ計画が「月に行って帰ってくる」ことを目標としたのに対し、Artemis計画は「月に滞在し、継続的に活動する」ことを目指しています。改良された機動性と延長された活動時間は、月面基地の建設や科学調査といった、より野心的な目標を実現するための基盤となるでしょう。
【用語解説】
Artemis III(アルテミスIII)
NASAが計画する有人月面着陸ミッション。1972年のアポロ17号以来、約55年ぶりとなる人類の月面着陸を目指している。2027年半ば以降の実施が予定されており、初めて女性と有色人種の宇宙飛行士が月面に立つ計画である。月の南極域を目標地点としている。
AxEMU(Axiom Extravehicular Mobility Unit)
Axiom SpaceがNASAのArtemis IIIミッション向けに開発している次世代月面宇宙服。アポロ時代の宇宙服と比較して機動性、活動時間、安全性が大幅に向上している。米国人口の90%の体型に対応可能な設計となっている。
A7L宇宙服
アポロ計画で使用された月面用宇宙服。Apollo 7から14号まで使用され、後継のA7LBはアポロ15〜17号で使用された。PLSS(携帯型生命維持装置)を含む全装備で約180ポンド(約82kg)の重量があった。月面での活動時間は4〜7時間だった。
月のレゴリス
月の表面を覆う細かい砂状の物質。非常に研磨性が高く、鋭い角を持つ粒子で構成されている。宇宙服や機器に損傷を与える可能性があるため、耐久性の高い設計が必要となる。
PLSS(Portable Life Support System)
携帯型生命維持装置。宇宙服のバックパックに相当する機器で、酸素供給、二酸化炭素除去、冷却、通信などの機能を提供する。AxEMUでは改良されたシステムにより8時間の連続活動が可能になっている。
Starship HLS(Human Landing System)
SpaceXが開発中の月着陸船。Artemis IIIで宇宙飛行士を月面に輸送する役割を担う。Orion宇宙船から宇宙飛行士が乗り移り、月面への往復を行う。開発が遅れており、ミッション全体のスケジュールに影響を与えている。
中性浮力実験施設(NBL: Neutral Buoyancy Laboratory)
NASAジョンソン宇宙センターにある、容量約620万ガロン(約2350万リットル)の巨大プール。水中で中性浮力を利用して無重力状態を模擬し、宇宙服や宇宙遊泳の訓練・テストを行う施設。
【参考リンク】
Axiom Space – AxEMU Spacesuit(外部)
Axiom Spaceの公式サイト。次世代月面宇宙服AxEMUの詳細な仕様や開発状況を紹介
NASA – Spacesuit for NASA’s Artemis III Moon Surface Mission Debuts(外部)
NASAによるArtemis III宇宙服の公式発表。技術要件とパートナーシップを解説
NASA – Artemis Program(外部)
NASAのArtemisプログラム公式ページ。月探査計画全体の概要と最新情報を提供
SpaceX – Starship(外部)
SpaceXのStarship公式ページ。月着陸船システムの開発状況と技術仕様を紹介
【参考記事】
Spacesuit for NASA’s Artemis III Moon Surface Mission Debuts – NASA(外部)
2023年3月のAxEMUプロトタイプ公開時の公式発表。米国人口の90%に対応する設計を解説
Testing of Next-Gen Spacesuit Underway – Axiom Space(外部)
2024年時点の開発状況。月の南極で最低2時間活動できる設計の詳細を報告
KBR, Axiom Space Test Next-Generation Spacesuit – ExecutiveBiz(外部)
2025年8月の中性浮力実験施設での有人水中評価完了報告。気密性テストに成功
Axiom Completes Initial Crew Testing of Next-Generation Spacesuits – Flying Magazine(外部)
2025年5月の若田光一氏による初の有人テスト。8時間EVA能力と4G/LTE通信を確認
Prada and Axiom Space reveal modernized NASA spacesuits – NPR(外部)
2024年10月の飛行設計公開。Pradaとの協業による外層デザインと材料開発を詳述
NASA delays Artemis II and III until 2026, 2027 – BBC Sky at Night Magazine(外部)
2024年12月のスケジュール延期発表。熱シールド問題によりArtemis IIIは2027年半ばへ
SpaceX Starship timeline delays Artemis 3 to 2028 – Space.com(外部)
2025年11月のStarship開発状況。有人ミッションは早くても2028年9月の可能性を指摘
【編集部後記】
アポロ計画から半世紀が経過し、私たちは再び月を目指しています。しかし今回の挑戦は単なる「再訪」ではありません。月面での長期滞在、科学研究の深化、そして火星探査への足がかりという、より大きなビジョンを持った取り組みです。
AxEMUという新しい宇宙服は、そうした野心的な目標を実現するための重要なピースの一つです。しゃがんだり、ひざまずいたり、物を拾ったりといった、地球上では当たり前の動作が月面でも可能になることで、宇宙飛行士たちはより精密な科学調査や建設作業を行えるようになります。
みなさんは、この新しい宇宙服に込められた技術革新と、それが切り開く未来についてどのようにお感じになりますか。






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