英国政府は2026年1月26日、Met Office(気象庁)や国立公文書館などの国有データをAIシステムで活用する計画の詳細を発表した。
デジタル政府・データ担当大臣のイアン・マレー氏は、この取り組みが「公共部門のスマートな活用」の姿だと述べ、中小企業への法律サポートや自治体の業務効率化を実現すると強調した。
英国政府は、Met Officeや国立公文書館などの国有データをAIシステムで活用する計画を進めている。政府は研究者に資金を提供し、Met Officeのデータを道路凍結防止剤の購入判断などに活用するテストを実施する。
また、国立公文書館の法律データを中小企業の法律サポートに活用できるかを探る。デジタル政府・データ担当大臣のイアン・マレー氏は、国立公文書館のデータをAI対応にすることで中小企業が法律の質問に迅速に回答を得られると述べた。
政府は国立歴史博物館やスコットランド国立図書館などからのコンテンツライセンス供与も計画している。昨年発表されたAIアクションプランでは国家データライブラリーの創設を提案し、NHSの医療データも候補とされた。
政府は2025年6月に発表した「クリエイティブ・コンテンツ・エクスチェンジ」を通じて文化データライブラリーを商業化し、BBC、大英図書館、自然史博物館などのデータから収益を得る計画だ。帝国戦争博物館、オックスフォード大学、キュー王立植物園など複数の機関がパイロットスキームに参加し、夏にプラットフォームを立ち上げる予定である。
From:
AI systems could use Met Office and National Archives data under UK plans
【編集部解説】
英国が国を挙げてAI時代の新しいデータエコシステム構築に乗り出しています。この動きは、単なる技術革新の話ではなく、公共資産をどう活用するかという国家戦略の転換点と言えるでしょう。
今回の計画で注目すべきは、データの「民主化」と「商業化」を同時に進めようとしている点です。Met Officeの気象データを使って自治体が効率的に道路管理を行えるようになれば、税金の無駄遣いが減り、住民サービスの質が向上します。国立公文書館の法律データをAIで活用できれば、弁護士を雇う余裕のない中小企業も法的な判断をしやすくなるでしょう。
しかし、この計画には複雑な側面もあります。政府は2025年6月に発表した「クリエイティブ・コンテンツ・エクスチェンジ」を通じて文化データから収益を得ようとしています。BBCや大英図書館、自然史博物館といった公共機関のデータが商業利用される構図です。これらの機関は長年にわたり国民の税金で運営されてきたものであり、そのデータから民間企業が利益を得ることへの是非は議論の余地があります。
さらに重要なのは、この計画が著作権をめぐる論争と並行して進んでいる点です。英国政府は当初、AI企業がアーティストの許可なく著作権保護作品を使用できる「オプトアウト方式」を提案しましたが、クリエイティブ産業から強い反発を受けました。技術担当大臣が3月に公表予定のレビューで「リセット」を約束したものの、国有データの活用は粛々と進められています。
この二重構造は興味深い問題を提起します。政府は民間のクリエイターには著作権侵害のリスクを負わせる一方で、自らが管理する公共データは積極的にAI学習に提供しようとしているのです。帝国戦争博物館、オックスフォード大学、キュー王立植物園など、英国の誇る文化・学術機関のデジタルアーカイブがAIの学習データとして使われることになります。
プライバシーへの配慮も課題です。キア・スターマー首相がNHSの医療データを国家データライブラリーの候補に挙げたことは、データ活用の可能性と同時にリスクも示唆しています。政府は「プライバシー、倫理、データ保護を考慮する」と述べていますが、膨大な医療データがAI開発に使われることへの不安は消えません。
英国のこの取り組みは、他国にとっても重要な先例となるでしょう。公共データをAIに活用することで社会全体の効率性は向上する可能性がありますが、誰がそのデータから利益を得るのか、個人のプライバシーはどう守られるのか、クリエイターの権利はどう保護されるのか。これらの問いに対する答えが、今後数ヶ月で明らかになっていきます。
【用語解説】
Met Office
英国の国立気象機関。1854年に設立され、天気予報や気候研究を行う世界有数の気象サービス機関である。道路管理、航空、防災など幅広い分野に気象データを提供している。
国立公文書館(National Archives)
英国政府の公式文書を保管・管理する機関。1,000年以上にわたる歴史的文書から現代の政府記録まで、膨大な法律・行政データを所蔵する。
オプトアウト方式
デフォルトで同意したものとみなし、拒否する場合のみ明示的に意思表示する仕組み。AI学習における著作物利用では、クリエイターが自ら「使用を拒否する」と表明しない限り、AI企業が自由に作品を学習データとして使える仕組みを指す。
AIアクションプラン
英国政府が2025年1月に発表した、AI技術の開発と展開を促進するための包括的な戦略。国家データライブラリーの創設、インフラ整備、人材育成などを含む。
NHS(National Health Service)
英国の国民保健サービス。1948年に設立された公的医療制度で、全国民に無料で医療を提供する。膨大な患者データを管理している。
【参考リンク】
Met Office公式サイト(外部)
英国の国立気象機関。天気予報、気候データ、気象研究の情報を提供している。
The National Archives公式サイト(外部)
英国の国立公文書館。1,000年以上にわたる歴史的文書と政府記録を保管・公開している。
UK AI Opportunities Action Plan(外部)
英国政府のAI戦略文書。国家データライブラリーなど具体的な施策を掲載。
Natural History Museum公式サイト(外部)
ロンドンにある自然史博物館。8,000万点以上の標本を所蔵している。
British Library公式サイト(外部)
英国の国立図書館。1億7,000万点以上のコレクションを持つ世界最大級の図書館。
Creative Industries Sector Plan(外部)
2025年6月発表の英国クリエイティブ産業セクタープラン詳細を掲載。
【参考記事】
Governing in the Age of AI: Building Britain’s National Data Library(外部)
Tony Blair Instituteによる国家データライブラリーの詳細分析記事。
£380 million boost for creative industries(外部)
英国政府公式発表。クリエイティブ・コンテンツ・エクスチェンジ詳細。
AI Opportunities Action Plan(外部)
2025年1月発表のAI機会アクションプラン。50項目の具体的施策掲載。
【編集部後記】
英国が進めるこの計画は、私たち日本にとっても他人事ではありません。公共データの活用は効率化や利便性向上をもたらす一方で、「誰のためのデータか」という根本的な問いを投げかけています。気象データや歴史的文書は長年の公共投資によって蓄積されたものです。それらがAI企業の利益に変わるとき、私たち市民はどんな恩恵を受けられるのでしょうか。英国の動向を注視しながら、日本でも同様の議論が必要になる日が近いかもしれません。皆さんはこの「公共データの商業化」について、どう考えますか。






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