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ISS、SpaceX Dragonのリブーストで史上最高高度へ――2030年の軌道離脱ミッションに向けた重要マイルストーン

[更新]2026年1月27日

SpaceXのDragon宇宙船が国際宇宙ステーション(ISS)を記録的な高度262マイル(422km)まで押し上げた。ISSは通常250マイル(402km)で周回しているが、今回は12マイル高い位置に到達した。

この操作はリブーストと呼ばれ、大気抵抗によって徐々に高度を失うステーションを安全な軌道に保つために必要である。リブーストは通常月1回程度実施され、ドッキング中の宇宙船のスラスターを数分間噴射して行われる。

NASAによれば、この手順はステーションを科学実験や運用、訪問宇宙船のための最適な位置に維持する。ISSは2030年頃に老朽化のため退役予定で、その際は制御された再突入により太平洋に落下させる計画である。

一方、中国は既に独自の宇宙ステーションを運用しており、米国企業も次世代ステーションの開発を進めている。

From: 文献リンクA SpaceX Dragon capsule just nudged the ISS to a record altitude

【編集部解説】

SpaceXのDragon宇宙船が国際宇宙ステーション(ISS)を過去最高の高度に押し上げたというこのニュースは、単なる技術的マイルストーンではありません。これは、半世紀以上続く人類の軌道上居住の歴史における重要な転換点を示しています。

今回の高度262マイル(422km)への到達は、2025年8月から続くSpaceX CRS-33ミッションの一環として実施された一連のリブーストの最終段階です。Dragon宇宙船は2025年9月3日の初回テストから2026年1月までに複数回のリブーストを実施し、その能力を段階的に実証してきました。この宇宙船には特別な「ブーストキット」が搭載されており、6つの推進剤タンク(ヒドラジンと四酸化二窒素)、ヘリウム加圧タンク、そして2基のDracoスラスターで構成されています。

この技術実証が持つ真の意義は、2030年に予定されているISSの退役計画にあります。SpaceXは2024年6月、NASAから8.43億ドルの契約を獲得し、「米国デオービット機(USDV)」の開発を担当することになりました。今回のリブーストで得られたデータは、この巨大な軌道施設を安全に太平洋上に落下させるための重要な知見となります。

興味深いのは、リブースト(高度を上げる)とデオービット(高度を下げる)という正反対の操作が、実は同じ技術の応用であるという点です。Dragon宇宙船は今、ISSを高く保つ役割を果たしていますが、4年後には同じ技術を使って、この歴史的な軌道施設を制御された形で地球に帰還させることになります。

また、このニュースは地政学的な文脈も持っています。従来、ISSの軌道維持はロシアのProgress宇宙船が主に担当してきました。しかし2022年のウクライナ侵攻以降、宇宙協力の枠組みに不確実性が生じています。ロシアは2028年までのISS参加を約束していますが、それ以降については未定です。SpaceXのDragonがリブースト能力を獲得したことで、米国は軌道維持の自律性を確保しました。

2030年以降の軌道上の人類活動は、複数の商業宇宙ステーションに引き継がれる予定です。Axiom Spaceは2027年以降にISSへの最初のモジュール接続を計画し、最終的には独立した商業ステーションとなります。Blue OriginとSierra Spaceが主導する「Orbital Reef」は2030年までの運用開始を目指し、最大10名を収容できる「混合利用ビジネスパーク」として構想されています。Voyager SpaceとLockheed Martinの「Starlab」も2028年の運用開始を目標としています。

しかし、2025年8月、NASAは商業宇宙ステーション開発計画の方針を大きく転換しました。当初の「常時有人」という目標から、「4人のクルーが1ヶ月滞在可能」という短期滞在型への変更です。この政策変更により、2030年以降、米国は中国のように常時有人宇宙ステーションを持たない可能性が生じています。中国の天宮宇宙ステーションはすでに常時有人運用を実現しており、地政学的な懸念も生まれています。

今回の記録的な高度到達は、ISSの「終わりの始まり」を象徴する出来事です。しかし同時に、商業宇宙時代への移行という新しい章の開幕でもあります。1998年から四半世紀以上にわたり、人類の軌道上での拠点として機能してきたISSは、その役目を終えようとしています。その後継となる商業宇宙ステーション群がどのような形で展開されるのか、そして人類の宇宙活動がどう進化していくのか、今後4年間の動向が極めて重要となります。

【用語解説】

リブースト(Reboost)
宇宙ステーションの軌道高度を維持するための操作。大気抵抗により徐々に高度を失うため、月1回程度、ドッキング中の宇宙船のスラスターを噴射して軌道を上げる必要がある。

デオービット(Deorbit)
人工衛星や宇宙ステーションを軌道から離脱させ、制御された形で地球に再突入させる操作。ISSの場合、2030年に実施予定で、太平洋上の無人海域に落下させる計画。

Dracoスラスター
SpaceXのDragon宇宙船に搭載されている姿勢制御用エンジン。ヒドラジンと四酸化二窒素を推進剤として使用する。

SpaceX CRS-33
SpaceXによる33回目のISS商業補給ミッション。2025年8月24日に打ち上げられ、2026年1月まで運用。特別なブーストキットを搭載し、リブースト能力の実証を行った。

低軌道(LEO: Low Earth Orbit)
地表から約160〜2,000kmの高度の軌道。ISSは通常約400km(250マイル)で周回している。

大気抵抗(Atmospheric Drag)
高度400km付近でもわずかに存在する大気分子との衝突により、宇宙ステーションが徐々に減速し高度を失う現象。

商業宇宙ステーション開発プログラム(CLD: Commercial LEO Development)
NASAが主導する、民間企業による商業宇宙ステーション開発を支援するプログラム。ISS退役後の軌道上活動を民間に移行することを目指す。

【参考リンク】

SpaceX(外部)
Elon Muskが創業した民間宇宙企業。再使用可能ロケットFalcon 9やDragon宇宙船を運用

NASA国際宇宙ステーション(外部)
NASAによるISS公式情報サイト。ステーションの運用状況や科学実験を発信

Axiom Space(外部)
2027年以降にISSへの最初のモジュール接続を予定する商業宇宙ステーション開発企業

Blue Origin – Orbital Reef(外部)
Jeff BezosのBlue OriginとSierra Spaceが開発する商業宇宙ステーション

NASA Commercial Space Stations(外部)
NASAによる商業宇宙ステーション開発プログラムの公式情報ページ

【参考記事】

NASA, SpaceX CRS-33 Dragon Boost Space Station(外部)
2025年12月29日のリブースト実施を報じるNASA公式ブログ。Dragon宇宙船が19分以上スラスターを噴射し、軌道を1.6〜1.9マイル上昇させた詳細を報告

NASA Selects International Space Station US Deorbit Vehicle(外部)
2024年6月、NASAがSpaceXを米国デオービット機の開発企業として選定。契約総額は最大8.43億ドル

NASA plans for space station’s demise with new SpaceX ‘Deorbit Vehicle’(外部)
SpaceXが開発するデオービット機は通常のDragonの6倍の推進剤と3〜4倍の発電・蓄電能力を持つ特別仕様

SpaceX CRS-33 – Wikipedia(外部)
CRS-33ミッションの詳細情報。ブーストキットはISSの年間リブースト需要の1/3〜1/4をカバー可能

SpaceX Dragon cargo capsule boosts ISS higher above Earth in key test(外部)
2025年9月3日の初回リブーストテストの詳細。5分3秒の噴射により、軌道を260.9×256.3マイルに上昇

Commercial industry gears up for ISS replacement around 2030 amid concerns(外部)
2025年8月の政策変更により、NASAは常時有人から短期滞在型の商業宇宙ステーション開発へ方針転換

Jeff Bezos’s Blue Origin Could Have a Commercial Space Station Running by 2030(外部)
Blue OriginのOrbital Reefは311マイル上空に浮かぶ29,300立方フィートの施設で、最大10名を収容

【編集部後記】

ISSが記録的な高度に到達したこのニュースは、私たちに重要な問いを投げかけています。1998年から続く人類の軌道上居住の時代が、あと4年で一つの区切りを迎えます。その後、私たちは本当に「商業宇宙時代」へとスムーズに移行できるのでしょうか。2030年以降、米国が常時有人宇宙ステーションを持たない可能性が生じている一方で、中国は既に天宮を運用しています。技術的な進歩と地政学的な変化が交錯するこの転換期に、皆さんはどのような未来を描きますか。

投稿者アバター
Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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