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2020年と2026年で激変したテック業界の姿勢、ミネアポリス連邦捜査官射殺事件で主要CEOが沈黙を貫く理由とは

[更新]2026年1月27日

ミネアポリスで1月24日、連邦捜査官がICU看護師のAlex Pretti(37歳、米国市民)を射殺した。数週間前にはRenee Nicole Goodも連邦捜査官に殺害されている。

2020年のGeorge Floyd殺害事件では多くのテック企業CEOが声明を出したが、今回Appleのティム・クック、Amazonのアンディ・ジャシー、AMDのリサ・スーらメガキャップ企業のCEOは沈黙を保っている

一方、元Metaのヤン・ルカン、LinkedInのリード・ホフマン、Googleのジェフ・ディーン、Anthropicのダリオ・アモデイらは事件を非難する発言を行った。テック業界労働者による請願書には400人以上が署名し、CEOにICE(移民税関執行局)への反対を求めている。

ミネソタ州知事Tim Walzは連邦捜査官の撤退を要求し、上院議員Amy Klobucharは年初からミネアポリスで3件の殺人があり2件が連邦捜査官によるものだと述べた。

From: 文献リンクTech’s top CEOs mum after Minneapolis killings, while leaders like Reid Hoffman, Yann LeCun speak out

【編集部解説】

この記事が報じているのは、テクノロジー業界のリーダーシップにおける深刻な分断です。2020年のGeorge Floyd殺害事件では、Apple、Amazon、Google、Metaといった巨大テック企業のCEOたちが競うように声明を発表し、数千万ドル規模の寄付を表明しました。しかし、2026年1月のミネアポリスでの2件の射殺事件に対して、これらのメガキャップ企業のトップは沈黙を守っています。

Alex Prettiの事件が発生した1月24日の夜、Appleのティム・クック、Amazonのアンディ・ジャシー、AMDのリサ・スーはホワイトハウスで「Melania」のプライベート上映会に出席していました。この象徴的な対比は、テック業界と政権の関係がこの5年間でいかに変化したかを物語っています。

検証された複数の動画によれば、ICU看護師のPrettiは携帯電話で連邦捜査官を撮影していただけで、合法的な銃所持許可を持つ米国市民でした。連邦捜査官がPrettiから銃を取り上げた約1秒後に発砲が開始され、5秒間に少なくとも10発が撃たれました。政権側は彼を「国内テロリスト」と呼びましたが、動画証拠はその主張と矛盾しています。

興味深いのは、声を上げているテック業界のリーダーたちの顔ぶれです。元MetaのAI科学者ヤン・ルカンは「殺人者たち」と激しく非難し、LinkedInの共同創業者でMicrosoftの取締役でもあるリード・ホフマンは「政治はあるが、人間性はそれを超越すべきだ」と述べました。GoogleのAIリーダージェフ・ディーンも立場を明確にし、AnthropicのCEO ダリオ・アモデイは民主的価値観の重要性に言及しました。

彼らに共通するのは、メガキャップ企業の経営トップではないという点です。ルカンは既にMetaを離れており、ホフマンは取締役の立場、ディーンは経営幹部ではあるもののCEOではありません。Anthropicは新興AI企業です。つまり、トランプ政権との直接的な関係が希薄な人物ほど、自由に発言できる立場にあるということです。

テック労働者からの圧力も高まっています。Google、Meta、Amazonの従業員を中心に400人以上が署名した請願書は、CEOたちにICE(移民税関執行局)への反対を求めています。具体的には、ホワイトハウスに電話してICEの撤退を要求すること、ICEとの企業契約をキャンセルすること、ICEの暴力に対して公に声を上げることを求めています。

この沈黙の背景には、テック業界と政権の複雑な関係があります。2025年1月、多くのテックCEOがトランプ大統領の就任式に出席し、就任式の行事に寄付を行いました。また、2025年10月には、トランプ大統領がサンフランシスコに州兵を配備すると脅した際、NvidiaのJensen HuangやSalesforceのMarc Benioffらの電話によって大統領が方針を撤回した実例があり、テックリーダーの影響力が示されています

しかし今回、その影響力は行使されていません。2020年との対比は鮮明です。当時、ティム・クックは従業員に殺害を非難するメモを送り、マーク・ザッカーバーグは1,000万ドル、チャック・ロビンスは500万ドル、サンダー・ピチャイは1,200万ドルの寄付を表明しました。Apple、Airbnb、Uber、Intel、YouTube、Shopifyなどは、平等と機会を推進するグループに重要な財政的コミットメントを行いました。

これは単なる政治的立場の問題ではありません。2件の射殺事件の被害者はいずれも37歳の米国市民であり、動画証拠は政権側の説明と矛盾しています。Renee Goodは1月7日にICE捜査官Jonathan Rossに射殺され、Alex Prettiはその17日後に国境警備隊に射殺されました。ミネアポリス警察署長Brian O’Haraによれば、2026年年初から同市で3件の殺人事件が発生し、そのうち2件が連邦捜査官によるものです。

テクノロジー企業の社会的責任が問われています。2020年には「Black Lives Matter」を支持し、人種的不平等に反対する姿勢を示したCEOたちが、今回は沈黙を選んでいます。この変化は、企業の価値観が時の政権との関係によって左右されることを示唆しており、テック業界の倫理的一貫性に疑問を投げかけています。

ミネソタ州に本拠を置くTargetやUnitedHealthを含む60社以上のCEOが「緊張の即時緩和」を求める書簡を発表したことは、地域企業のリーダーシップとシリコンバレーの巨人たちの姿勢の違いを際立たせています。

この問題は、テクノロジー企業が単なる商業的存在ではなく、社会的影響力を持つ機関として何を優先すべきかという根本的な問いを投げかけています。政治的計算と道徳的立場のバランスをどう取るのか、テック業界のリーダーたちは重大な岐路に立っています。

【用語解説】

ICE(Immigration and Customs Enforcement)
移民税関執行局。米国国土安全保障省の一部門で、移民法の執行と国境警備を担当する。トランプ第2次政権下で活動が大幅に強化され、2026年1月にはミネアポリス都市圏に2,000人の捜査官を派遣する史上最大規模の移民執行作戦を実施した。

Black Lives Matter
2013年に始まったアフリカ系アメリカ人に対する暴力と構造的人種差別に反対する社会運動。2020年のGeorge Floyd殺害事件後、世界的な抗議運動に発展し、多くの企業や著名人が支持を表明した。

メガキャップ企業
時価総額が極めて大きい企業を指す。一般的に時価総額$2,000億以上の企業を指し、Apple、Amazon、Microsoft、Meta、Googleの親会社Alphabetなどが該当する。

Operation Metro Surge
トランプ政権が2026年1月にミネアポリス都市圏で実施した大規模な移民取り締まり作戦。数千人の連邦捜査官が動員され、これに関連して複数の射殺事件が発生した。

【参考リンク】

Apple(外部)
ティム・クックがCEOを務める世界最大のテクノロジー企業の一つ。2020年のGeorge Floyd事件では迅速に声明を発表したが、今回は沈黙を保っている。

Anthropic(外部)
ダリオ・アモデイがCEOを務めるAIスタートアップ。今回の事件に対して声明を発表した数少ない注目企業の一つで、民主的価値観の重要性を強調した。

U.S. Immigration and Customs Enforcement(外部)
米国移民税関執行局の公式サイト。移民法執行を担当する連邦機関で、今回の2件の射殺事件に関与した。

【参考記事】

Bovino, some Border Patrol agents to leave Minneapolis soon, sources tell CBS News(外部)
Alex Pretti射殺事件の詳細な続報。国境警備隊司令官Gregory Bovinoと一部の捜査官がミネソタから撤退する見通しであることを報じている。

Videos show agent secured gun from Pretti before fatal shooting in Minnesota(外部)
ワシントンポストによる動画分析記事。連邦捜査官がPrettiから銃を確保した後に射殺したことを明らかにしている。

Republican calls are growing for a deeper investigation into fatal Minneapolis shooting of Alex Pretti(外部)
共和党内からも事件の徹底調査を求める声が上がっていることを報じる記事。党派を超えた懸念の広がりを示している。

Here’s what tech companies have said they’ll do to fight racism in wake of George Floyd protests(外部)
2020年のGeorge Floyd事件後のテック企業の対応をまとめた記事。Apple、Amazon、Google、Metaなどの寄付と声明を詳述している。

Tech companies and execs announce over $20 million in donations after killing of George Floyd(外部)
2020年にテック企業が表明した$20 million以上の寄付について報じた記事。今回との対比を示す重要な資料となる。

【編集部後記】

テクノロジーは常に中立的な存在ではありません。それを作り、運用する人々の価値観と判断が、社会に大きな影響を与えます。今回の記事が示すのは、同じ都市で同じような悲劇が起きても、時代と政治的環境によって企業リーダーの反応が180度変わるという現実です。

2020年と2026年、何が変わったのでしょうか。テック企業が掲げる「世界を変える」という理念は、どんな状況でも貫かれるべきものなのか、それとも時と場合によって調整されるものなのか。私たちも、この問いに明確な答えを持っているわけではありません。

ただ、一つ言えることは、テクノロジー企業の影響力が増すほど、その沈黙も、発言も、より大きな意味を持つということです。みなさんは、企業のリーダーシップに何を期待しますか。そして、私たち一人ひとりが、テクノロジーと社会の関係について考え、声を上げることの意味を、改めて問い直す時期に来ているのかもしれません。

投稿者アバター
Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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