もし基地局が、必要な場所へ「移動」し、最適な高さまで「伸びる」ことができたら?
PicoCELAが福岡県直方市で始めた実証実験は、通信インフラの可動化という革新的なアプローチで、遮蔽物や混雑による通信の死角を解消する新時代を切り拓く。
PicoCELA株式会社は2026年1月29日、福岡県直方市、スズキ株式会社、株式会社KiQ Roboticsと協力し、伸縮ポール型モビリティによる次世代基地局の実証を開始したと発表した。
本プロジェクトは、ポールによる高さとモビリティによる移動を組み合わせ、従来の固定式基地局では困難だった遮蔽物の回避と動的なエリア構築を目指す。スズキの多目的電動台車MITRAの走行性能、KiQ Roboticsの技術、PicoCELAの無線メッシュ技術を統合した移動型基地局の有用性を検証する。
実証では伸縮ポール高4mにおいて、距離が離れた環境で通信性能の改善が顕著となり、イベント会場や屋外空間における広域通信手段としての有効性が示された。今後は建設・インフラ現場、スマート農業、災害対応などへの展開を想定している。
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「高さ×移動」で通信の死角を解消。 PicoCELA、伸縮ポール型モビリティによる次世代基地局の実証を開始
【編集部解説】

屋外イベントや建設現場での通信環境は、常に「物理的な制約」との戦いでした。遮蔽物があれば電波は届かず、人が集まれば通信が逼迫し、固定式基地局では柔軟な対応ができない。この課題に対し、PicoCELAが提案したのが「高さ」と「移動」を組み合わせた次世代基地局です。
本実証の核心は、3つの異なる専門技術の統合にあります。スズキのMITRAは、同社が約50年にわたり電動車いすで培った走破性と安定性を持つ多目的電動台車です。8度の傾斜や5cmの段差、未舗装の悪路でも安定走行が可能で、防錆・防水・防塵に対応しています。この堅牢な移動プラットフォームに、KiQ Roboticsの技術が加わることで、通信機を最適な高さへ自在に昇降させることができます。
そしてPicoCELAの無線メッシュ技術が、配線工事不要で広域かつ安定した通信エリアを構築します。同社の「PicoCELA Backhaul Engine」は、10ホップ以上の多段無線中継を行ってもスループット劣化が少なく、低遅延という特長を持っています。一般的なメッシュネットワークでは中継段数が増えるたびにスループットが半減しますが、PicoCELAは独自技術により、ホップ時のスループットを1/n程度に抑えることができます。
実証結果では、伸縮ポール高4mにおいて、特に距離が離れた環境で通信性能の改善が顕著となりました。これは高さによる見通し確保が、遮蔽物の多い環境で極めて有効であることを示しています。従来の固定式基地局では、設置場所の制約や恒久的な工事の必要性から、このような柔軟な運用は困難でした。
注目すべきは、実証フィールドとして選ばれた直方市の役割です。同市は経済産業省・IPAから「地域DX推進ラボ」として選定を受け、先進的IT技術の実証事業に対する補助金制度を設けるなど、IT実証都市として積極的な取り組みを行っています。こうした自治体の理解と協力が、新技術の社会実装への道筋を作っています。
今回の実証で得られた知見は、イベント運営だけにとどまりません。建設・インフラ現場では、資材が集積する場所での高所からの通信カバーが可能になります。スマート農業では、植生の影響を受けやすい広大な農地での通信エリア構築が実現します。そして最も重要なのが災害対応です。インフラが寸断された地域へ、この移動型基地局を投入すれば、迅速に通信環境を提供できます。
PicoCELAは2025年1月16日に米国Nasdaq Capital Marketへ新規上場を果たし、また2025年のWiFi NOW Awards「Best Wi-Fi Startup Award」のファイナリストにも選出されています。同社の無線メッシュ技術は、国内外の工場、倉庫、プラント、建設現場、商業施設、公共インフラなど、幅広い分野で活用されており、今回の伸縮ポール型モビリティはその応用範囲をさらに広げる試みといえるでしょう。
通信インフラの「可動化」は、固定観念を覆す発想です。電波が届かない場所に基地局を「持っていく」、人が集まる場所に基地局を「移動させる」。こうしたダイナミックなネットワーク構築が、デジタル化が進む社会において、あらゆる場所での通信の平等性を担保する鍵となります。
【用語解説】
無線メッシュ技術
親機と中継機によって網目状のネットワークを張り巡らせる技術。従来の無線LANでは各アクセスポイントにLANケーブルが必要だが、メッシュ技術では無線で相互接続することで配線を大幅に削減できる。
PicoCELA Backhaul Engine(PBE)
PicoCELA独自の無線多段中継テクノロジー。10ホップ以上の多段無線中継を行ってもスループット劣化が少なく、低遅延を実現する。単一周波数リユース、動的ツリー経路制御方式とフレーム転送技術により、広域かつ安定した無線ネットワークを構築できる。
スループット
一定時間にどれだけのデータを転送できるかを示す処理能力の指標。無線通信では、中継段数が増えるとスループットが低下するのが一般的だが、PicoCELAの技術はこの劣化を最小限に抑える。
見通し(Line of Sight)
電波が遮蔽物なく直接届く状態。無線通信では見通しが確保されているほうが通信品質が向上する。建物、樹木、仮設設備などが遮蔽物となり、見通しを阻害する。
マルチホップ接続
複数の中継機を経由してデータを転送する接続方式。ホップとは中継の回数を指し、多段ホップにより広範囲なネットワークを構築できる。
【参考リンク】
PicoCELA株式会社(外部)
世界最高レベルの無線メッシュ技術を提供する企業。2025年1月に米国Nasdaqへ上場。
スズキ株式会社(外部)
多目的電動台車MITRAを開発。電動車いす技術を応用した悪路走破性の高いプラットフォーム。
KiQ Robotics株式会社(外部)
北九州高専発のスタートアップ。ラティス構造柔軟指などロボット周辺機器を開発・販売。
直方市公式ウェブサイト(外部)
福岡県直方市。地域DX推進ラボとして先進的IT技術の実証事業を積極的に支援している。
【参考記事】
PicoCELA Technology | メッシュWi-FiならPicoCELA株式会社(外部)
PicoCELAの無線多段中継技術の詳細。10ホップ以上でもスループット劣化が少ない技術を解説。
スズキ、「2025国際ロボット展」に出展|スズキ(外部)
多目的電動台車MITRAの展示発表。物流、農業、土木建設など様々な分野での活用事例を紹介。
直方市先進的IT技術実証事業補助金(外部)
直方市が提供する先進的IT技術の実証事業への補助金制度。地域のIT実証都市としての取り組み。
【編集部後記】
私たちが日常的に使っているスマートフォンの通信も、災害時や大規模イベントではすぐに不安定になります。そうした「つながらない」ストレスを解消する技術が、いま着々と形になりつつあります。今回ご紹介した伸縮ポール型モビリティは、通信インフラを「動かす」という発想の転換から生まれました。こうした技術革新が、いざという時の安心や、イベントでの快適な体験を支えていくのだと思います。皆さんが次に屋外イベントに参加する時、快適に通信できたら、こうした技術が裏で支えているのかもしれませんね。






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