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Neuralink「Blindsight」、2026年に初の臨床試験開始へ──視覚野刺激で失明患者の視覚回復を目指す

Neuralink「Blindsight」、2026年に初の人体試験開始へ──視覚野刺激で失明患者の視覚回復を目指す

2026年1月29日、Neuralinkは、完全な失明状態にある人々の視覚を回復させることを目的としたBlindsightインプラントについて、2026年中に初の臨床試験を開始する準備が整ったことを明らかにした。同デバイスは2024年9月にFDAから画期的医療機器指定を取得しており、今回の発表は以前から予告されていた2025年後半から2026年初頭の治験開始計画が具体化したことを示している。

Neuralink創業者のイーロン・マスクは、規制当局の最終承認待ちで臨床試験が開始される予定であると述べた。Blindsight脳インプラントは、視覚野を直接刺激することで、目や視神経の機能を失った人々が再び見えるようにすることを目指している。

マスクはX上で、同社は現在Blindsightの初めての埋め込み手術を実施する準備が整っており、必要な承認が得られ次第これが実現すると述べた。また、この技術は当初、低解像度の視覚を提供できるが、将来的にはより高い解像度に向上する可能性があるとも述べた。

Blindsightは、視覚野が無傷である限り、両眼と視神経を失った患者を対象としている。マスクによれば、これにより生まれつき盲目の患者でも、人生で初めて視覚を得ることができる可能性があるという。

Neuralink Blindsightインプラントはどのように機能するのか

Neuralinkは、目を完全に回避する視覚補綴装置としてBlindsightを開発している。カメラが画像を捉え、そのデータを脳インプラントに無線で送信する。インプラントは脳に信号を送り、視覚の感覚を生み出す。Neuralinkは、これが網膜が脳に信号を送る自然なプロセスに代わるものであると主張している。

Blindsightは、2024年9月に米国食品医薬品局(FDA)から画期的医療機器指定(Breakthrough Device Designation)を受けた。これは、生活を大きく変える、または不可逆的な状態を治療する機器に与えられるものである。

From: 文献リンクNeuralink prepares first human trials of Blindsight implant

【編集部解説】

2026年1月29日、Neuralinkが視覚回復デバイス「Blindsight」の臨床試験を2026年中に開始する計画を発表しました。innovaTopiaでは2025年7月に同デバイスのFDA画期的医療機器指定取得を報じていましたが、今回の発表により、当初予告されていた2025年後半から2026年初頭の治験開始計画が具体化したことになります。このニュースは、脳コンピュータインターフェース技術の新たな展開として注目されていますが、技術的背景と現実的な課題を理解することが重要です。

視覚補綴装置は「新技術」ではない

まず押さえておくべきは、視覚野を刺激して視覚を回復させる試みは、Neuralinkが初めて取り組むものではないという点です。Second SightのOrion(現在はCortigentが臨床試験を継続)やPixium VisionのPrimaシステムなど、複数の企業が長年にわたり視覚補綴装置の開発を進めてきました。

これらの技術は、カメラで捉えた画像を電気信号に変換し、網膜や視覚野に埋め込んだ電極を通じて脳に伝達するという基本原理を共有しています。Second SightのOrionは60個の電極を使用し、2018年から臨床試験を実施しています。

Neuralinkの技術的な優位性

Neuralinkが既存技術と差別化できる可能性があるのは、高密度電極アレイの実装技術です。同社のN1インプラントは最大3,072個の電極を持つとされ、これは既存の視覚補綴装置を大きく上回ります。理論的には、電極数が多いほど、より高解像度の視覚情報を伝達できます。

また、Neuralinkはロボット手術システムによる埋め込み技術を開発しており、手術時間を10分程度に短縮することを目指しています。これは、医療へのアクセシビリティという観点から重要な進歩となり得ます。

「視覚の回復」の現実的な意味

イーロン・マスクは「生まれつき盲目の人でも視覚を得られる」と述べていますが、専門家はこの表現に慎重な姿勢を示しています。初期段階では「Atariグラフィックスのような低解像度」と説明されており、これは光のパターンや動きを認識できる程度を意味します。

IEEE Spectrumの報道によれば、現在の技術では「光点(phosphene)」と呼ばれる光の知覚を生み出すことはできても、健常者が持つような視覚を再現することは困難です。これは神経科学の根本的な課題であり、視覚野の複雑な神経回路を完全に理解し、自然な視覚体験を再現するには、まだ多くの研究が必要とされています。

FDA Breakthrough Device Designationの意味

2024年9月にBlindsightが取得したFDAの画期的医療機器指定は、開発を加速させる制度ではありますが、安全性や有効性が証明されたことを意味するものではありません。2023年だけで145の医療機器がこの指定を受けており、これは開発の出発点に過ぎません。

実際の承認を得るには、厳格な臨床試験を経て、安全性と有効性を実証する必要があります。Neuralinkの既存のTelepathyインプラント(運動機能回復用)が現在21人の患者に埋め込まれていますが、Blindsightについてはまだ臨床試験が開始されていない段階です。

業界が直面してきた課題

視覚補綴装置の分野では、技術的な成功だけでは不十分であることが歴史的に示されています。Second SightのArgus IIは2013年にFDA承認を取得しましたが、約5年の耐用年数しかなく、同社は経営難に陥り、2020年代初頭に従業員の大半を解雇して事業を縮小しました。

この分野の企業が直面する課題は、高額な開発コスト、小さな患者市場、長期的なサポート体制の維持などです。たとえArgus IIは年間約70台販売され、保険償還額も15万2,200ドル(約2,280万円、1ドル=150円換算)に引き上げられましたが、事業の持続可能性を確保するには至りませんでした。

規制と倫理的な側面

NeuralinkはUAEのCleveland Clinic Abu Dhabiと提携し、2025年後半から2026年初頭にかけてBlindsightの最初の人体埋め込みを実施する計画も報じられています。米国外での臨床試験は、規制環境の違いを活用する戦略と見られますが、同時に透明性に関する懸念も提起されています。

TechCrunchが指摘するように、Neuralinkは臨床試験の詳細情報を公開する業界標準に従っておらず、この閉鎖的な姿勢は科学界からの批判を招いています。また、動物実験における動物福祉法違反の疑惑も過去に報じられており、倫理的な監視の必要性が指摘されています。

現実的な期待値の設定

マスクが語る「赤外線や紫外線も見える超人的な視覚」という未来像は、現時点では科学的根拠に乏しい楽観的な予測です。まず達成すべきは、日常生活で意味のある視覚情報を提供することであり、それだけでも画期的な進歩となります。

歩道の縁石を認識する、物体の位置を把握する、といった基本的な視覚機能でさえ、失明した人々の生活の質を大きく向上させる可能性があります。Second SightのOrion臨床試験では、5人中4人が白い四角形を黒い背景から有意に識別できるようになったと報告されており、これは大きな前進です。

「なぜ今この記事を書くのか」

2026年という時間軸は、この技術が研究室から現実世界へと移行する転換点となる可能性があります。Neuralinkの資金力(2025年に6億5,000万ドル、約975億円の資金調達を実施)と技術開発スピードは、長年停滞してきた視覚補綴装置の分野に新たな活力をもたらすかもしれません。

しかし同時に、誇大な期待を避け、技術の限界と課題を正しく理解することも重要です。視覚の回復は、単なる技術的な問題ではなく、人間の知覚と脳の複雑な相互作用に関わる深遠な課題だからです。innovaTopiaの読者の皆さんには、希望と現実のバランスを理解した上で、この技術の発展を見守っていただきたいと考えています。

【用語解説】

視覚野(しかくや)
大脳皮質の後頭葉に位置する、視覚情報を処理する脳の領域。網膜から視神経を経由して送られてくる電気信号を受け取り、形、色、動きなどを認識する。視覚補綴装置は、この視覚野を直接電気刺激することで、損傷した眼や視神経を迂回して視覚体験を生み出すことを目指している。

脳コンピュータインターフェース(BCI)
Brain-Computer Interfaceの略。脳の神経活動を電気信号として読み取り、外部機器の制御や情報伝達を可能にする技術。または逆に、外部からの信号を脳に送り込むことで感覚や運動機能を補助・拡張する双方向の技術を指す。医療分野では、麻痺患者の運動機能回復や視覚・聴覚の補助などへの応用が研究されている。

画期的医療機器指定(Breakthrough Device Designation)
米国FDAが、生命を脅かす状態や不可逆的な状態を治療する可能性のある医療機器に与える特別な指定。この指定を受けると、開発段階でFDAの専門家から継続的なフィードバックを受けられ、審査プロセスが優先的に進められる。ただし、安全性や有効性が証明されたことを意味するものではなく、あくまで開発を促進するための制度である。

視覚補綴装置(しかくほてつそうち)
失われた視覚機能を人工的に補う医療機器の総称。カメラで捉えた画像を電気信号に変換し、網膜や視覚野に埋め込んだ電極を通じて脳に伝達することで、光や形の知覚を生み出す。アプローチには網膜刺激型と視覚野刺激型があり、NeuralinkのBlindsightは後者に分類される。

phosphene(フォスフェン、光点)
眼球を圧迫したときや電気刺激によって知覚される、光の点や閃光のような視覚現象。視覚補綴装置が視覚野を電気刺激すると、このphospheneが生じ、複数のphospheneのパターンによって形や動きの認識が可能になる。現在の技術では、自然な視覚というよりも、このような光点のパターンとして視覚情報が知覚される。

電極アレイ(でんきょくアレイ)
複数の微小電極を配列した装置。脳コンピュータインターフェースでは、脳の神経活動を記録したり、逆に脳に電気刺激を与えたりするために使用される。NeuralinkのN1インプラントは最大3,072個の電極を持つとされ、既存の視覚補綴装置(Second SightのOrionは60個)と比較して大幅に多い電極数を特徴としている。

【参考リンク】

Neuralink(外部)
イーロン・マスクが2016年に設立した神経工学企業。脳コンピュータインターフェース技術を開発。

Neuralink – Visual Prosthesis Clinical Trials(外部)
Blindsightの臨床試験情報ページ。米国、カナダ、英国で参加者を募集中。

Cortigent – Orion Visual Cortical Prosthesis(外部)
Second SightのOrion視覚補綴装置を継承したCortigentの公式サイト。

U.S. Food and Drug Administration (FDA)(外部)
米国食品医薬品局の公式サイト。医療機器の安全性評価と承認を行う連邦機関。

Cleveland Clinic Abu Dhabi(外部)
Neuralinkと提携し、UAEでのBlindsight臨床試験を予定する国際医療機関。

【参考記事】

Neuralink’s Blindsight Implant Won’t Deliver Natural Sight – IEEE Spectrum(外部)
専門家による技術評価。マスクの主張に対し「自然な視覚は実現できない」と指摘。

From Paralysis to Neuroscience: How 21 People are Using Neuralink in 2026(外部)
2026年1月時点で複数人が臨床試験に参加。Blindsightは規制承認待ち。

Neuralink’s ‘breakthrough device’ clearance from FDA does not mean it has cured blindness – TechCrunch(外部)
FDA指定の実態を解説。

Second Sight Medical Products Announces Two-Year Results of its Orion Study(外部)
Orionの2年間臨床試験結果。5人中5人が白い四角形の識別に成功。

Second Sight Reveals Two-Year Results from Orion Study – MD+DI(外部)
Second Sightの経営難に関する詳細。2020年代初頭に従業員解雇と事業縮小。

Neuralink obtains breakthrough designation from FDA for Blindsight device(外部)
2024年9月18日のFDA指定取得報道。初期段階は低解像度になると説明。

Neuralink Blindsight human trials expected to start in the UAE(外部)
2025年後半から2026年初頭にUAEで最初の人体埋め込み実施予定。

Elon Musk provides update on Blindsight implant trials – MobiHealthNews(外部)
サルへの埋め込みが3年間安定。6〜12ヶ月以内に人体への埋め込み予定。

【編集部後記】

2025年7月にBlindsightのFDA画期的医療機器指定取得を報じました。あれから約半年が経過し、2026年中の臨床試験開始という具体的なタイムラインが示されたことで、この技術は確実に前進しています。

しかし、視覚を失った方々に光を届けるという挑戦の道のりは、想像以上に複雑です。「超人的な視覚」という華々しい宣伝と、「光点のパターンを認識する」という現実の間には、まだ大きな隔たりがあります。皆さんは、この技術がどこまで進めば「成功」と呼べると思いますか。歩道の縁石を認識できるだけでも十分に価値があるのか、それとも私たちが当たり前に持つ視覚体験に近づくまで待つべきなのか。

この半年間の進展を追いながら、、技術の進化だけでなく、Second Sightのような先行企業が直面した課題、透明性や倫理的な監視の必要性についても、皆さんと一緒に考え続けていきたいと思います。

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Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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