7月、中国当局がApple Intelligenceを認可したとき、その頭脳はアリババのQwenだと報じられました。ところが8月、Apple自身も中国専用の大規模言語モデルを訓練していたことが明らかになります。どちらが何をどこまで担うのか、その内訳はまだ公表されていません。
Appleが中国市場向けに独自の大規模言語モデルを訓練したと、Reutersが2026年8月14日、関係者3人の話として報じた。開発はアリババグループとの提携により、同社の支援を受けて行われたという。AppleはApple Intelligenceの中国展開にあたり現地企業のモデルに依存してきたため、中国専用モデルの自社訓練は今回が初報道となる。
Apple Intelligenceは、iOSのアップデートを経て数か月以内に中国で提供が始まる見通し。Reutersはこれを外国企業としては異例の「デュアルトラック戦略」と位置づけた。実現すれば、独自のAIモデルの中国国内提供を政府に認められた初の外国企業となる。
AppleとアリババはReutersのコメント要請に応じていない。
From:
Apple trains its own AI model for China market with Alibaba’s support, sources say
【編集部解説】
2026年7月15日、中国のインターネット規制当局である国家インターネット情報弁公室(CAC)が、Apple Intelligenceを备案(登録)済みの生成AIサービスとして公表しました。登録主体はApple Technology Development (Shanghai) Co., Ltd.で、同日のリストにはHuawei、Xiaomi、OPPO、vivo、Samsung、Nubiaを含む7件の端末向け生成AIサービスが並んでいます。
このとき報じられたのは、中国版Apple IntelligenceにアリババのQwenやBaiduの技術が組み込まれる、という構成でした。Apple自身のモデルを併用するかどうかは、そこでは明らかになっていません。
8月14日のReuters報道は、その空白に一つの部品を置くものです。Appleは中国市場向けの大規模言語モデルを、アリババの支援を受けて訓練していた。Reutersはこれを、これまで報じられていなかった事実だと明記しています。7月の情報が覆ったのではなく、構成図に新しい層が書き加えられた、という受け止め方が正確です。
ただし、Apple独自のモデル、Qwen、Baiduの技術が、それぞれどの処理を担うのか。その配分は公表されていません。Reutersが「デュアルトラック戦略」と呼んだ構成の内訳は、まだ開かれていない部分です。中国のiPhoneユーザーにとって最も知りたいところが、そのまま残されています。
中国では2023年8月15日に生成AIサービスの暫定管理規則が施行され、国内の公衆向け生成AIサービスが規制の対象となりました。世論属性や社会動員能力を持つサービスには、安全評価やアルゴリズムの备案が求められます。公開されたアプリや機能には、利用している备案済みモデルの名称と备案番号を表示する義務もあります。アリババのQwen(通義千問)とBaiduのモデルは、いずれもこの备案リストへの掲載実績を持ちます。
「独自AIモデルの提供を中国政府に認められた初の外国企業」という一節は、媒体によって断定と条件付きに分かれています。Reuters配信をそのまま載せた記事の多くは「そうなれば初の外国企業となる」という将来形で書いています。実現すれば、外国企業として初の事例になります。ただし、承認がすでに完了しているのか、これから完了するのかは、公表情報からは確定できません。
Reutersは、AppleがHuaweiなど現地勢にシェアを奪われてきたと書いています。長い時間軸ではそのとおりですが、直近の数字は別の姿を見せます。IDCが7月14日に公表した2026年第2四半期の暫定値では、中国のスマートフォン出荷台数は前年同期比4.3%減の約6600万台で、5四半期連続の減少となりました。そのなかでAppleのシェアは前年同期の13.9%から18.1%へ4.2ポイント上がり、出荷台数は24.4%増えています。首位のHuaweiは22.6%です。IDCはこの伸びを、価格を据え置いたことと、下半期の値上げを見越した駆け込み需要によるものと分析しています。同じ四半期をOmdiaは出荷6610万台・前年比2%減、Appleのシェア19%と推計しており、調査会社によって幅があります。
Appleは端末では数字を取り戻しつつあり、AIだけが空白として残っていました。今回の報道は、その空白が埋まる直前の局面を伝えるものだと読めます。
ここから先が、日本の読者にとって重要な部分だと考えています。
Apple Intelligenceの提供機能は、以前から言語や地域によって異なります。対応言語の順次拡大も、地域ごとの機能差も、これまでにあったことです。今回新たに明らかになったのは、Apple自身が中国市場向けの専用モデルを訓練していたことです。Reutersはこれを、中国で第三者のモデルに依存してきた方針からの転換と位置づけています。
innovaTopiaでは「ソブリンAI(AI主権)」という言葉で、国や地域が自国のAI基盤を持とうとする動きを追ってきました。今回の件は、その要求に外資がどう応じうるのかを示す具体例の一つです。日本でも、デジタル庁が2026年6月に生成AIの調達・利活用ガイドラインを改訂するなど、制度の整備が進んでいます。「どのモデルを、どの国の管理下で動かすのか」という問いは、これから日本の企業や行政にも同じ形で降りてきます。
IDCは、次の本格的な買い替えの波について、ハードウェア、OS、エコシステム、オンデバイスの大規模モデルが一体になり、AIが概念から日常の道具へ移ったときに来ると見ています。時期は2028年から2029年ごろという読みです。中国専用モデルの訓練は、その4要素のうち「大規模モデル」を中国市場向けに整える動きの一つと見ることができます。
Reutersによれば、Apple Intelligenceの中国展開は今後数か月以内が見込まれています。制約から始まった取り組みが技術の蓄積につながるかは、実際の提供後に、中国のユーザー体験を通じて見えてくることになります。
【関連記事】
アップル・アリババのAI提携にトランプ政権が警鐘 – 米中テクノロジー覇権争いの最前線
今回の協業の出発点にあたる2025年の提携が、米中双方でどのように受け止められたかを扱った記事。前史としてあわせて読みたい。
Siri × Gemini × NVIDIA|Apple「プライバシーの約束」を守るための三社連合の実態
中国以外の市場でAppleがどのようにモデルを調達しているかを扱った記事。今回の中国向けの構成とちょうど対になる内容になる。
MacBook Airにも半導体不足の波|Appleは中国製メモリの調達も模索
Appleと中国のサプライチェーンをめぐる緊張を扱った記事。AI以外の領域でも同じ構図が繰り返されていることが読み取れる。
【編集部後記】
削除されたサポートガイドのことが、頭の隅に残っています。8月10日、Appleは中国のMacユーザー向けに、QwenをSiriと作文ツールにつなぐ手順を中国語で公開し、1日と経たずに取り下げました。理由の説明はありません。
準備が整う前に扉が少し開いて、すぐ閉じた。その4日後に、独自モデルの訓練が明らかになります。中国版Apple Intelligenceは、まだ形が固まりきっていない段階にあるのだろうと思います。
【用語解説】
大規模言語モデル(LLM)
大量のテキストで学習し、文章の理解と生成を行うAIモデル。Apple Intelligenceの各機能を背後で支える中核部品にあたる。
デュアルトラック戦略
Reutersが今回の報道で用いた表現。Apple独自のモデルと現地企業のモデルという2系統を併用してAI機能を提供する構成を指す。Appleの公式な呼称ではない。
备案(びあん)
中国の生成AIサービスに求められる届出・登録の手続き。公開されるアプリや機能には、利用している备案済みモデルの名称と备案番号の表示が求められる。
ソブリンAI(AI主権)
国や地域が、自国の管理下にあるAI基盤を持とうとする考え方。データの所在、モデルの管理主体、法制度への適合を自国で決められる状態を目指す。
オンデバイス
クラウドに送らず、端末そのものの上でAIの処理を行う方式。応答が速く、データが端末外に出ない利点がある。
【参考リンク】
Apple Intelligence(Apple)(外部)
Apple Intelligenceの機能一覧を掲載する公式ページ。使える機能が言語や地域によって異なることも明記されている。
Qwen(Alibaba Cloud)(外部)
Apple Intelligenceに組み込まれるQwen(通義千問)を、開発元のAlibaba Cloudが日本語で解説する公式ページ。
生成式人工智能服务管理暂行办法(CAC)(外部)
中国の生成AIサービス暫定管理規則の原文。安全評価と算法备案を求める規定は第17条に置かれており、本記事の制度説明はここに基づいている。
IDC(外部)
中国スマートフォン市場の四半期出荷データを公表している調査会社の公式サイト。本記事で用いた第2四半期の暫定値もここから公表された。
Omdia(外部)
同じ四半期について別の推計値を公表している調査会社の公式サイト。IDCとの数値の幅を確認するために参照した情報源にあたる。
デジタル庁(外部)
日本政府の生成AI調達・利活用ガイドラインを所管する行政機関の公式サイト。国内における制度整備の現在地をここから確認できる。
【参考記事】
China Smartphone Market Decline Hits Q2 2026(外部)
2026年第2四半期の中国スマートフォン市場の分析。出荷約6600万台、前年比4.3%減、Appleのシェア18.1%という暫定値を示す。
Mainland China smartphone market shipments decline 2% in 2Q26, Huawei and Apple buck the trend(外部)
同じ四半期を出荷6610万台、前年比2%減、Appleのシェア19%と推計した発表。調査会社による数値の幅を確認するために参照した。
Apple Intelligence China Registration Clears Hurdle(外部)
7月8日の登録申請から15日の公表に至る経緯と、同日のリストに並んだ7件の内訳、登録主体の社名までを整理した記事にあたる。
Apple Trained Its Own AI for China With Alibaba, Winning Unprecedented Beijing Clearance(外部)
中国の生成AI登録制度の成り立ちと、登録簿に並ぶ事業者の顔ぶれがどう推移してきたかを、今回の報道の背景として整理した記事。
Apple trains its own AI model for China market with Alibaba’s support, sources say(外部)
Reuters配信をそのまま掲載した記事。今回の報道の原文がどのような言い回しと時制で書かれているかを確認するために参照した。
Apple Trained Own AI Model for China Market With Help From Alibaba(外部)
同じReuters報道を扱いながら「初の外国企業となった」と現在形で伝えた記事。媒体による確度の差を確認できる材料になる。
Apple Posts Guide for Connecting Siri to Qwen AI in China, Then Pulls It(外部)
8月10日に中国語で公開され、1日と経たずに取り下げられたQwen接続ガイドの経緯を伝える記事。編集部後記で触れた出来事にあたる。

















