Slackが8月20日に発表したSlack Codeは、AIでもエージェントでもありません。エージェントが働くための場所です。すべてのSlackプランで使えると案内されていますが、実際に動かすClaudeやDevinには別の契約条件が待っています。Slack上で増え続けるAIの名前とあわせて、この製品の正体を整理します。
Slackは2026年8月20日、Slack Codeを発表した。コーディングエージェントをメンションすると、コードチャンネルと呼ぶ専用スペースが自動で立ち上がり、コードの差分、計画ドキュメント、ライブHTMLプレビューをそれぞれのタブに表示する。
作業が終わるとチャンネルは自動でアーカイブされ、監査ログのように参照できる記録として残る。既存の権限と管理者コントロールを継承する。Anthropic、Cognition、GitHub、OpenAI、Vercelとともにローンチした。Slackはコードチャンネルの70%以上が1日以内に完結するとしている。
Salesforceによると、すべてのSlackプランで利用でき、各パートナーエージェントへのアクセスが別途必要となる。
Slack Codeとは何か
エージェントではなく、エージェントの居場所
Slack Codeを理解するうえで最初に押さえたいのは、これがAIモデルでもエージェントでもないという点です。Slackが作ったのは、エージェントが仕事をするための場所と、それを支える仕組みでした。
コードチャンネルは、エージェントをメンションした瞬間に生成される一時的なチャンネルです。そこにコードの差分やライブプレビューが並び、作業が終われば自動でアーカイブされる。中で実際に手を動かすのは、Claude、Devin、Copilot、Vercelのエージェントであり、Slack自身ではありません。
この構造は、Slackがこれまで積み上げてきたものの延長線上にあります。チャンネルという器を用意し、その中身は使う側とパートナーが決める。Slack Codeは、その器をエージェントの作業単位に合わせて作り直したものだと言えます。
コードチャンネルで実際に起きること
Salesforceの発表資料には、具体的な流れが書かれています。プロダクトマネージャーがチャンネルでバグ報告を見つけ、エンジニアを待たずにコーディングエージェントへ相談する。エージェントはコードチャンネルを立ち上げ、そこまでの会話やスクリーンショット、共有済みのドキュメントを読んだうえで修正案を出す。プロダクトマネージャーがエンジニアを呼び、差分を確認しプレビューを動かして、プルリクエストの作成とマージまで進む。
ここで効いているのは、専用タブという設計です。会話、計画、コードの差分、ライブプレビューがそれぞれの場所を持つため、スレッドのように情報が流れて埋もれません。エージェントが誤った前提で進み始めたら、チャンネルにいる誰でも途中で止めて向きを変えられます。
Slackが繰り返し強調しているのは、この場が作業を始めた一人に閉じていない点です。既存の権限設定の範囲で、コードチャンネルに参加するメンバーが同じ画面を見ながら進められます。プライベートなブラウザタブでエージェントと二人きりになる働き方への、明確な対案として設計されています。
セキュリティの扱いも、この設計思想に沿っています。コードチャンネルはSlackの既存の権限モデルを引き継ぎ、エージェントがSlack内で参照できる会話や情報も、ワークスペース側の既存のコントロールに従います。エンタープライズ向けのEKM、DLP、Discovery APIも適用されます。本番反映のような重い変更では、チャンネル内で担当者が承認する流れも用意されています。Slack Code側では、新たな専用のセキュリティ基盤を用意するのではなく、既存のSlack管理の延長で扱える構図です。
Slack上のAIを整理する
Slackを日常的に使っている方ほど、名前の多さに戸惑うかもしれません。現在この場所には、性格の異なるAIが並んでいます。
Slackbotは、Slackが提供するパーソナルAIエージェントです。Claude Tagは、Anthropicがチャンネルに常駐させる同僚型のAIで、2026年8月3日に従来のClaude in Slackを置き換えました。この2つは、実際に仕事を担うエージェントです。
Agentforceは、少し性格が違います。単一のエージェントではなく、Salesforce上でカスタムエージェントを構築し、Slackへ展開するための基盤です。
そしてSlack Codeは、さらに役割が異なります。エージェントでも、エージェントを作る基盤でもなく、対応するエージェントと人が共同作業するための場所です。現在組み合わせられるのは、対応済みのパートナーエージェントに限られます。
提供条件はエージェントごとに違う
Salesforceは、Slack CodeをFreeを含むすべてのSlackプランで利用できると案内しています。器そのものを使い始めるうえで、Slackの契約プランを上げる必要はないという説明です。
一方で同じ案内には、利用するパートナーエージェントへのアクセスが別途必要だと明記されています。ここから先の条件は、エージェントごとに異なります。
たとえばClaude Tagは、ClaudeのTeamプランとEnterpriseプランでベータ提供されており、チャンネルでの利用は人数ではなく利用量にもとづいて組織へ請求されます。設定できるのは、Claude組織のPrimary OwnerまたはOwnerだけです。
つまり見るべきなのは、Slack Codeを使えるかどうかだけではありません。選ぶエージェントの対象プラン、課金方式、管理者要件までが一組です。Slack Code自体が全プラン向けでも、実際の導入条件は組み合わせるエージェントによって変わります。
70%という数字の読み方
Slackは、コードチャンネルの70%以上がアイデアからプルリクエストのマージまで1日以内に完結すると述べています。置かれている文脈も、あわせて見ておく価値があります。
この数字は、自社チームの必要からコードチャンネルを作った、とSlackが説明する段落に置かれています。社内での利用に由来する可能性は高いとみられますが、原典は対象となったコードチャンネルの母集団を明示していません。収集時期や件数、計測方法も、現時点では公表されていません。
この数字が測っているのは所要時間です。Slack自身も、エンジニアが早く作業に戻れることの根拠としてこれを置いています。開発の速さを何で測るかは、エージェント時代に業界全体でこれから練られていく論点です。
ChatGPTの提供状況は資料によって幅がある
同日に公開された公式資料の間で、OpenAIのChatGPTについての記述に幅があります。Slackのブログは本文でChatGPTを含む5つのエージェントを挙げ、提供状況の欄では近日中の対応予定としています。Salesforceの発表ページは創業パートナーに含め、Slackの機能ページのFAQは4つの名前を挙げています。
公式資料の間で記述が一致していないため、使いたいエージェントの提供状況は、その提供元でも確認するのが確実です。
コードの外へ
あわせてSlackは、スレッド、DM、コードチャンネルにまたがるエージェントとの会話を一元管理する「エージェントとツール」タブも用意しました。エージェントの状態を確認したり、止まっているものを見つけたりする場所です。そのうえでSlackは、コードチャンネルのAPIを開発者コミュニティに開放する予定を示しています。想定されている広がりは、マーケティングキャンペーンの制作、法務の契約レビュー、ITのオンボーディングです。
コードチャンネルという名前のとおり、現在のSlack Codeはソフトウェア開発から始まっています。ただ、その設計はコードだけに閉じたものではありません。複数人とエージェントが同じ成果物を囲み、途中経過を見せ合いながら進め、終わったら閉じて検索できる状態で残す。この形自体は、企画書でも契約書でもデザインでも成立しうるものです。
エージェントを個人の生産性ツールとして使う段階から、チームの一員として共同作業の場を用意する段階へ。Slack Codeは、その場がどんな形をしているかについての、ひとつの具体的な回答です。器の設計を見れば、その会社が働き方をどう捉えているかが見えてきます。
【関連記事】
Claude Tag とは?Slack 連携を刷新するAnthropicの常時オンAI、8月3日に移行
今回コードチャンネルを起動する当のAI。8月3日にClaude in Slackを置き換えるまでの経緯を詳しく解説している。
AnthropicのClaude Code、Slack連携で開発ワークフロー革新へ
2025年12月の発表。@Claudeのメンションでコーディングセッションを起動する、今回の仕組みの原型にあたる記事である。
【編集部後記】
Salesforceの発表ページには、本文で触れなかった一覧があります。NanoClawやLovable、n8nなど10のサービスで作ったエージェントを、数クリックでSlackに配備できる「Add to Slack」の対応先です。
エージェントを増やすことは、もう難しくありません。難しいのは、どこで何をしているかを把握するほうです。Slack Codeが、まず共同作業の「場所」から設計されたのは、そのためだと考えています。あなたのワークスペースには今、いくつのAIが入っているでしょうか。
【用語解説】
コードチャンネル
コーディングエージェントをメンションすると自動生成される、一時的な専用チャンネル。会話、計画、コードの差分、ライブプレビューを個別のタブに持つ。作業完了とともに自動でアーカイブされ、検索可能な記録として残る。
コードの差分
変更前と変更後のコードを並べて表示したもの。旧い行に打ち消し線を引き、新しい行を隣に置くことで、何が書き換わったかを一目で確認できる。
ライブプレビュー
書かれたコードを実際に動かし、その結果をその場で表示する機能。Slack Codeでは、HTMLの出力をコードチャンネル内で実行して確認できる。
プルリクエスト(PR)
コードの変更をチームに提案し、レビューを受けるための単位。承認されると本体のコードへ統合(マージ)される。
EKM(Enterprise Key Management)
暗号鍵を企業側で管理し、必要に応じて失効させられる仕組み。Slackの上位プラン向け機能である。
DLP(Data Loss Prevention)
機密情報や個人情報など、設定したルールに反する共有を検知し、警告や非表示などの制御を行うデータ損失防止機能。
Discovery API
Enterprise環境で、承認済みの外部コンプライアンスツールがSlackのメッセージやファイルを取得・処理し、eDiscovery、アーカイブ、DLPなどに利用するためのAPI。
Claude組織のPrimary Owner/Owner
ClaudeのTeam/Enterprise組織における管理ロール。Claude Tagのアクセスやチャンネルを設定できるのはPrimary OwnerまたはOwnerで、Adminロールでは行えない。Slackにも同名のロールがあるが、別の体系である。
オンボーディング
新しく加わったメンバーが業務を始められる状態にするまでの一連の作業。アカウントの発行、機器の準備、アクセス権の設定などを含む。
【参考リンク】
Slack Code: Where Your Team and Agents Build Together(Slack公式ブログ)(外部)
Slack Codeの発表記事。コードチャンネルを作った経緯、4つのパートナーそれぞれの実装内容、提供状況までを記している。
Slack Code(Slack機能ページ)(外部)
Slack Codeの製品ページ。利用できるエージェント、非技術者の参加可否、セキュリティの扱いをFAQ形式で示している。
Claude Tag(Anthropic)(外部)
チャンネルに常駐し、自らの識別子で作業するAnthropicのAI。Slack Codeでコードチャンネルを起動する側の製品。
Slackbot(Slack機能ページ)(外部)
Slackが提供するパーソナルAIエージェントの製品ページ。共同作業の場所であるSlack Codeとは役割がはっきり異なる。
Agentforce(Slack機能ページ)(外部)
Salesforce上でカスタムエージェントを構築し、Slackへ展開するための基盤。それ自体は単一のエージェントではない。
【参考記事】
Introducing Slack Code: Agentic Coding for Teams(外部)
Salesforce側の発表ページ。全Slackプランで利用できるが、各エージェントへのアクセスは別途必要だと明記する。
What is Claude Tag?(Anthropic Help Center)(外部)
Claude TagがTeam・Enterpriseのベータであること、人数ではなく利用量にもとづき課金されることを記す。
Set up and manage Agentforce in Slack(Slack Help Center)(外部)
Agentforceが単一のエージェントではなく、Salesforceでエージェントを構築し追加する仕組みだと説明する。
Slack Code:チームとエージェントが一緒に作る場所(Slack公式ブログ日本語版)(外部)
同じ発表の日本語版。コードチャンネルやエージェントとツールタブなど、本記事における日本語表記はこのページに合わせて統一した。


















