NVIDIA「Jetson Orin Nano 2」発表|推論性能2倍、省電力でロボットの生成AIを実機へ

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ロボットがクラウドに頼らず、その場で見て、考え、動くには何が必要なのでしょうか。Jetson Orin Nano 2は、性能だけでなく省電力化によって、生成AIを実機側へ載せる条件をどう変えるのか。その意味を整理します。


2026年8月25日、NVIDIAはエッジAI向けロボティクスコンピュータ「Jetson Orin Nano 2」を発表した。

78 TOPSのAI性能、8GBメモリ、8コアArm CPUを備え、Jetson Orin Nano Super比で推論性能を2倍に向上。15Wモードでは同等性能時の消費電力を40%削減する。ロボットや配送・点検ドローン、Vision AIを想定し、Maticなどが採用・評価を進める。モジュールと開発者キットは2027年前半に提供予定だ。

From: 文献リンクNVIDIA Announces Jetson Orin Nano 2 Robotics Computer to Redefine Entry-Level Edge AI

【編集部解説】

Jetson Orin Nano 2で注目したいのは、単純な演算性能の向上だけではありません。NVIDIAが今回示しているのは、LLMやVLMをクラウド側だけで処理するのではなく、ロボットやドローンといった実機側で動かす範囲を広げる方向です。NVIDIAは、Jetson Orin Nano 2でメモリ効率を考慮して最適化されたLLMやVLMを実行でき、NVIDIA Cosmos、NVIDIA Nemotron、Gemma 4、Qwen 3などを対応例として挙げています。

ロボットでは、画像認識だけでなく、物体検出、マッピング、人との会話、周囲の状況理解など複数の処理を同時に動かす必要があります。一方、エッジ機器ではデータセンターのように大量のメモリや電力を用意できません。NVIDIAも2026年4月の技術ブログで、エッジ環境ではCPUとGPUが限られたメモリ資源を共有し、メモリ使用量の増大が遅延やシステム停止につながり得ると説明しています。

そのためJetson Orin Nano 2の意味は、「より大きなAIを載せられる」というよりも、限られた電力・メモリの中で、認識や推論をロボット本体に組み込みやすくすることにあります。

Jetson Orin Nano 2は78 TOPSのAI演算性能、8GBメモリ、8コアArm CPUを備えます。NVIDIAはJetson Orin Nano Superと比較して推論性能が2倍になったとしています。

ただし、「78 TOPSになったから性能が2倍」という意味ではありません。Jetson Orin Nano Superは67 Sparse TOPS、8GBメモリ、6コアArm CPUを搭載していました。一方、新型は78兆回/秒のAI演算性能と公表されていますが、今回の発表では両数値の精度やsparsity条件が同一であることは示されておらず、単純比較はできません。NVIDIAが示す「推論性能2倍」は、改良されたTensor Coreやメモリ帯域幅の向上を含めた実際の推論処理についての主張です。

一方、今回の発表では2倍という性能値について、使用モデルや量子化方式、入力条件などを含む詳細なベンチマーク条件は示されていません。したがって、あらゆるAI処理が一律に2倍高速になると解釈するのは避けるべきでしょう。

もう一つ重要なのが消費電力です。NVIDIAによれば、Jetson Orin Nano 2は15Wモードで、Jetson Orin Nano Superと同等の性能を40%少ない消費電力で実現します。

バッテリーで動くロボットやドローンでは、AI演算に使用する電力を増やせば、その分だけ稼働時間や熱設計との調整が必要になります。今回の省電力化は、演算性能を増やすだけではなく、限られた電力枠の中でAIに割り当てられる処理を増やすための改善と見ることができます。

実例として、Matic RobotsはJetson Orin Nano 2を家庭用清掃ロボットに採用し、会話AI、ジェスチャー検出、高精度マッピング、空間の意味理解、自律清掃などをエッジ側で処理する用途を示しています。Wingも現在利用しているJetson Orin Nano Superから、Jetson Orin Nano 2を評価する計画を明らかにしています。

こうした用途を見ると、今回の製品が狙っているのは単一の画像認識処理を高速化するだけではなく、複数のAI処理を実機上で組み合わせるロボットです。

もっとも、Jetson Orin Nano 2のメモリ容量は8GBです。NVIDIA自身も、数十億パラメーター規模のモデルをエッジ機器で実行する際には、量子化やメモリ管理などの最適化が重要だと説明しています。

つまり、データセンター向けの巨大モデルをそのままロボットへ移せるわけではありません。モデル側の小型化と、ハードウェア側の性能・メモリ効率・省電力化が同時に進むことで、ロボットがローカルで扱えるAIの範囲が広がっている段階です。

Jetson Orin Nano 2のモジュールと開発者キットは2027年前半に提供予定ですが、2026年8月27日時点で価格は発表されていません。日本向けの価格や具体的な販売時期も今回の発表では示されていません。現行のJetson Orin Nano Super Developer Kitは249ドルで販売されているため、後継機がどの価格帯に設定されるかは、エントリー向けロボット開発環境としての普及を考えるうえで重要な確認点になります。

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【編集部後記】

ロボット向けAIというと、どうしても「どこまで賢くなったか」に目が向きがちです。ただ、今回個人的に面白いと感じたのは、性能向上と同時に消費電力まで削ってきたところでした。実際のロボットでは、AIの性能だけ高くても、電力や発熱、メモリの制約からは逃れられません。
そう考えると、Jetson Orin Nano 2は派手な新機能よりも「実機に載せやすくする」方向の進化に見えます。生成AIが画面の中だけでなく、身の回りの機械へ入っていくには、こうした地味な改善の積み重ねが一番重要なのかもしれません。
2027年に実際の製品へどう組み込まれていくのか、個人的にもかなり気になるところです。


【参考リンク】

NVIDIA Jetson|NVIDIA(外部)
ロボティクスやエッジAI向けのJetsonシリーズを紹介する公式ページ。Jetson Orin Nano 2を含むハードウェア、ソフトウェア、開発環境、エコシステムを確認できる。

NVIDIA Jetson Developer Kits|NVIDIA Developer(外部)
Jetsonシリーズの開発者キット、ドキュメント、導入情報をまとめた開発者向け公式ページ。

Wing(外部)
Alphabet傘下のドローン配送企業。現在Jetson Orin Nano Superを配送ドローンに利用し、Jetson Orin Nano 2を評価する計画を示している。

Matic(外部)
家庭向け清掃ロボットを開発する企業。Jetson Orin Nano 2を採用し、会話AI、ジェスチャー検出、マッピング、環境理解などをローカル処理する構成を示している。

【参考記事】

Maximizing Memory Efficiency with Agent Skills to Run Bigger Models on NVIDIA Jetson|NVIDIA Technical Blog(外部)
メモリ容量が限られるJetson上でLLM・VLMを実行する際の課題と、量子化、OS、推論ランタイムなど複数レイヤーでのメモリ最適化を解説。

NVIDIA Jetson Orin Nano Developer Kit Gets a “Super” Boost|NVIDIA Technical Blog(外部)
前世代Jetson Orin Nano Superの67 Sparse TOPS、8GBメモリ、6コアCPU、249ドルという仕様を確認できる公式記事。Jetson Orin Nano 2との差分比較に使用。

Buy the Latest Jetson Products|NVIDIA Developer(外部)
NVIDIAが販売中のJetson製品をまとめた公式ページ。Jetson Orin Nano Super Developer Kitの価格が249ドルであることを確認できる。

【用語解説】

NVIDIA Jetson
NVIDIAが提供するロボティクス・エッジAI向けコンピューティングプラットフォーム。GPU、CPU、メモリなどを小型モジュールにまとめ、JetPack SDKなどのソフトウェアと組み合わせてAI推論やロボット制御に利用。

Jetson Orin Nano 2
NVIDIAが2026年8月25日に発表したエントリークラスのエッジAI向けロボティクスコンピュータ。78 TOPSのAI演算性能、8GBメモリ、8コアArm CPUを搭載し、2027年前半の提供開始を予定。

TOPS(Tera Operations Per Second)
1秒間に何兆回の演算を処理できるかを表す指標。AI向けプロセッサの演算性能を示す際に使われる。ただし、TOPSだけで実際のAIモデルの処理速度を直接比較できるわけではない。

エッジAI
クラウド上のサーバーではなく、ロボット、カメラ、車両などデータが発生する機器やその近くでAI処理を実行する仕組み。通信を介さずにリアルタイム処理できることが特徴。

LLM(Large Language Model)
大量のテキストデータを学習し、文章の理解や生成などを行う大規模言語モデル。Jetsonではメモリ容量に合わせた量子化や推論最適化を行ってエッジ上で実行する。

VLM(Vision Language Model)
画像・映像と自然言語を組み合わせて扱うAIモデル。カメラ映像の内容理解や、画像についての質問への回答などに利用され、ロボットの環境認識にも応用される。

Tensor Core
NVIDIA GPUに搭載されるAI・行列演算向けの演算ユニット。Jetson Orin Nano 2ではTensor Coreの改良が、前世代からの推論性能向上の要因の一つとされる。

Physical AI(フィジカルAI)
現実世界の状況を認識・理解し、ロボットや自律機械などを通じて物理的な行動につなげるAI。ロボティクス、自動運転、産業機械などが主な応用領域。

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。

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