Metaは、オープンソースのLlamaシリーズに代わる次世代フロンティアAIモデル「Avocado」の開発を進めており、このモデルはプロプライエタリ(非公開)になる可能性があることが明らかになった。
当初2025年末のリリースを見込んでいたが、2026年第1四半期に延期される予定である。同社は2025年6月、Scale AI創業者のAlexandr Wangと複数のトップエンジニア・研究者を143億ドルで獲得し、AI戦略を大幅に転換した。
Wangは最高AI責任者に就任し、8月にはAvocadoを開発するエリート組織「TBD Lab」の責任者となった。元GitHub CEOのNat FriedmanがMeta Superintelligence Labs(MSL)のプロダクト部門を統括し、ChatGPT共同開発者のShengjia Zhaoも参画した。この人事刷新に伴い、20年在籍したChris Coxは、Llama 4の失敗後にAI部門の監督から外れた。
最高AI科学者Yann LeCunは2025年11月に退社した。同社の2025年設備投資額は700億〜720億ドルに引き上げられている。
From:
From Llamas to Avocados: Meta’s shifting AI strategy is causing internal confusion
【編集部解説】
今回のMetaの戦略転換は、単なる組織再編を超えて、AI業界全体のパワーバランスを揺るがす出来事として注目に値します。同社が2024年7月まで「オープンソースこそが未来」と謳っていたのに、わずか1年で143億ドルを投じてプロプライエタリモデル開発へ舵を切った背景には、複数の構造的な問題が絡んでいます。
最も象徴的なのが、中国DeepSeekのR1モデルがLlamaのアーキテクチャを利用して競合製品を開発した事例でしょう。オープンソース戦略の理想は「共創によるエコシステムの拡大」ですが、現実には自社の技術資産が競合の武器になるリスクを露呈しました。この事件は社内に大きな衝撃を与え、戦略転換の引き金のひとつになったと報じられています。
注目すべきは、Zuckerbergが外部人材に全権を委ねた点です。Scale AIのAlexandr Wang、元GitHub CEOのNat Friedman、ChatGPT共同開発者のShengjia Zhaoといった面々は、いずれもインフラストラクチャとシステム設計のエキスパートであり、消費者向けアプリ開発の専門家ではありません。これはMetaが「製品体験」よりも「モデルの計算性能」を優先する方針へ転換したことを示唆しています。
しかし、この急激な変化は社内に深刻な混乱を生んでいます。週70時間労働の常態化、600人規模のレイオフ、20年在籍のChris Coxや最高AI科学者Yann LeCunといった重鎮の実質的な排除は、組織文化の断絶を物語ります。特にWangのTBD Labが社内SNS「Workplace」すら使わず、独立したスタートアップのように機能している点は、Meta本体との統合リスクを抱えています。
投資家の視点では、年間1600億ドルを超える広告収益が年率20%以上成長している状況で、なぜ700億ドル超の設備投資が必要なのかという疑問が残ります。OpenAI、Google、Anthropicとの競争は激化していますが、Nvidia CEOのJensen Huangが決算説明会で主要モデルを列挙した際にLlamaを一切言及しなかった事実は、市場での存在感低下を如実に示しています。
Avocadoが2026年第1四半期にリリースされたとしても、それが真にゲームチェンジャーとなるかは未知数です。むしろこの事例は、Big Techが「オープンイノベーション」と「独占的優位性」の間で揺れ動く現代AI競争の本質を浮き彫りにしています。
【用語解説】
フロンティアAIモデル
現時点で最も高度な能力を持つ大規模言語モデルの総称。GPT-5、Gemini 3、Claude Opus 4.5など、推論能力や創造性において既存モデルを大幅に上回る性能を目指して開発される。
オープンソース vs プロプライエタリ
オープンソースは誰でも自由にコードや重み(学習済みパラメータ)にアクセスできるモデル。プロプライエタリは企業が独占的に管理し、外部からのアクセスを制限するモデル。前者は技術の民主化、後者は競争優位性の確保を重視する。
モデルの重み(Weights)
AIモデルが学習プロセスで獲得したパラメータの集合。この重みを公開するかどうかが、オープンソースとプロプライエタリを分ける決定的な違いとなる。
MSL(Meta Superintelligence Labs)
Metaが2025年に新設したAI研究開発の中核組織。外部から招聘した高額人材を中心に、次世代フロンティアモデルの開発を担う。
TBD Lab
Alexandr Wangが率いるMeta内のエリートAI開発チーム。Avocadoモデルの開発を担当し、Zuckerbergのオフィス近くで独立スタートアップのように運営されている。
FAIR(Fundamental Artificial Intelligence Research unit)
Metaの基礎AI研究部門。Yann LeCunが長年リードしてきたが、2025年10月のレイオフで600人が削減され、LeCun退社の一因となった。
【参考リンク】
Meta公式サイト(外部)
Facebook、Instagram、WhatsAppを運営。AI研究とメタバース開発に巨額投資を行い、Llamaシリーズをリリース。
Scale AI(外部)
AI開発のためのデータラベリングとインフラサービスを提供。創業者Alexandr WangがMetaに移籍。
OpenAI(外部)
ChatGPTやGPT-5を開発するAI研究企業。Meta、Google、Anthropicと共にフロンティアAI開発競争の最前線に立つ。
Anthropic(外部)
Claude AIシリーズを開発するAI安全性重視の企業。2025年11月にClaude Opus 4.5をリリース。
GitHub(外部)
世界最大のソフトウェア開発プラットフォーム。元CEOのNat FriedmanがMetaのMSLでプロダクト部門を統括。
Nvidia(外部)
AI向けGPU(グラフィックス処理ユニット)の世界的リーダー。MetaやOpenAIなど主要AI企業に計算インフラを提供。
【参考記事】
Meta shifts gears on AI, pursues new model(外部)
MetaがオープンソースのLlamaからクローズドなAvocadoモデルへ方針転換している背景を分析。
Meta’s shifting AI strategy causing internal confusion(外部)
KeyBanc Capital Marketsのアナリスト分析を引用し、Metaの立場変化を投資家視点で指摘。
Meta shifts from open Llama to closed Avocado(外部)
MetaのオープンソースからクローズドAI戦略への転換が競争にどう影響するかを考察。
Meta Resets AI, Hardware Plans As ‘Avocado’ Delays(外部)
Avocadoの開発遅延、リーダーシップの混乱が数十億ドル規模のコストをもたらしている状況を報告。
【編集部後記】
Metaのこの大転換は、私たちが当たり前に使っているInstagramやWhatsAppの裏側で、どれほど激しいAI開発競争が繰り広げられているかを物語っています。オープンソースという理想と、ビジネスとしての競争優位性。この二つの間で揺れるテック企業の姿は、今後のAI技術が誰のものになるのかという問いにも直結しています。
皆さんは、AIモデルは広く公開されるべきだと思いますか?それとも企業が独自に管理すべきでしょうか?この議論、ぜひ一緒に考えていきたいです。






























