Rivianは自社開発のAIアシスタントを2026年初頭に全てのEV(R1TとR1Sを含む)へ無償で展開する計画である。Palo Altoのイベントで披露されたこのシステムは、会話ベースでエアコンや音楽、車両情報を操作できるほか、agenticな仕組みにより他アプリと連携してタスクを実行する。
ローンチ時にはGoogle Calendarと連携し、Rivian独自モデルとGoogleのGeminiやVertex AIを組み合わせて文脈理解と推論精度を高める。基盤となるRivian Unified Intelligence(RUI)は、将来の自動運転や内部診断も見据えた統合AIレイヤーであり、ArmとTSMCと協業する5nmカスタムチップ開発も進行中である。多くの自動車メーカーがソフトウェア更新を新車販売に結びつけるのに対し、Rivianは既存車両を継続的にアップグレードするアプローチを取っている。
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Rivian wants your truck to talk back, and it’s happening in 2026
【編集部解説】
Rivianが発表した「agentic framework(エージェンティック・フレームワーク)」は、単なる音声認識の進化ではありません。従来の車載アシスタントがキーワードを拾って事前設定されたコマンドを実行するのに対し、エージェント型AIは複数のアプリやサービスと連携しながら文脈を理解してタスクを「実行」します。例えば「次のミーティングまで時間ある?」と聞けば、Google Calendarを参照して到着時間を計算し、必要なら経路案内まで自動で開始する仕組みです。
注目すべきは、Rivianが自社開発の5nmプロセッサ「RAP1(Rivian Autonomy Processor)」をArmおよびTSMCと共同開発している点でしょう。このチップは毎秒1,600兆回の演算と50億ピクセルの画像処理能力を持ち、将来的にはレベル3からレベル4の自動運転に対応する設計です。ソフトウェアだけでなくハードウェアレイヤーまで垂直統合する戦略は、TeslaやAppleが実証してきた競争優位性の源泉と同じアプローチといえます。
一方でリスクも存在します。RUIはサードパーティのエージェントを統合する設計ですが、外部APIの障害やセキュリティ脆弱性が車両制御に波及する可能性があります。また、AIによる診断支援は整備士の作業効率を向上させる反面、誤診断時の責任の所在や、ブラックボックス化による修理の透明性低下といった課題も指摘されています。
長期的には、Rivianのモデルが業界標準となる可能性があります。現在、Mercedesがレベル3の認証を取得し、Teslaがカメラのみのアプローチを推進する中、Rivianはマルチモーダルなセンサー構成とAI統合プラットフォームで第三の道を示しています。既存オーナーへの無償展開という姿勢は、車を「売り切り製品」から「継続的にアップデートされるプラットフォーム」へ転換する業界全体の流れを加速させるでしょう。
【用語解説】
agentic framework(エージェンティック・フレームワーク)
AIが単なる応答ではなく、複数のアプリやサービスと連携して自律的にタスクを実行する設計思想。従来の音声アシスタントとの最大の違いは行動の自律性にある。
RUI(Rivian Unified Intelligence)
Rivianが開発した統合AIプラットフォーム。自社モデルと外部AI(GeminiやVertex AI)を組み合わせ、車載アシスタントから自動運転まで一元管理する基盤システム。
Vertex AI
Google Cloudが提供するAI開発プラットフォーム。機械学習モデルの構築、デプロイ、管理を統合的に行い、企業向けAIアプリケーション開発を支援する。
RAP1(Rivian Autonomy Processor)
RivianがArm、TSMCと共同開発する自動運転向けカスタムプロセッサ。毎秒1,600兆回の演算能力を持ち、レベル4自動運転を見据えた設計。
垂直統合
ハードウェア設計からソフトウェア開発まで自社で一貫して手がける戦略。外部依存を減らし、最適化と差別化を追求するアプローチ。
レベル3/レベル4自動運転
SAE規格による自動運転の段階。レベル3は条件付き自動運転で緊急時は人間が介入、レベル4は特定条件下で完全自動運転が可能な水準。
【参考リンク】
Rivian公式サイト(外部)
Rivianの企業情報、車両ラインナップ、技術開発の最新情報を提供。AIアシスタントやカスタムシリコン開発の公式発表も掲載。
Rivian Newsroom – Custom Silicon発表(外部)
2025年12月10日のAutonomy & AI Dayで発表されたカスタムシリコン、次世代自動運転プラットフォーム、AI統合に関する公式プレスリリース。
Google Cloud Vertex AI(外部)
RivianのRUIシステムに統合されているVertex AIの技術仕様、機能、導入事例を紹介するGoogle公式ページ。
【参考動画】
Rivian公式チャンネルによる2025年12月のイベントハイライト。AIアシスタント、カスタムチップ、自動運転技術のデモンストレーションを収録。
【参考記事】
Rivian’s AI assistant is coming to its EVs in early 2026 | TechCrunch(外部)
TechCrunchによる詳細レポート。RUIアーキテクチャ、agenticフレームワークの仕組み、Google CalendarやGemini統合の技術的背景を解説。
Rivian Autonomy & AI Day | Rivian Stories(外部)
Rivian公式ブログによるイベント総括。AIアシスタント開発の経緯、エンジニアリングチームへのインタビュー、今後のロードマップを紹介。
Rivian AI & Autonomy Day: In-house chip, AI platform, and LiDAR | Electrek(外部)
EV専門メディアElectrekの分析記事。RAP1チップの性能仕様、LiDARセンサー構成、レベル4自動運転への技術的道筋を詳述。
Rivian unveils custom AI chip and next level of automated driving | Electrive(外部)
欧州EV業界誌による報道。5nmプロセスRAP1の製造パートナー、Armアーキテクチャ採用の戦略的意義、競合比較を含む包括的レビュー。
Rivian (auto company) has a custom 5nm chip now too – RAP1 | SemiWiki(外部)
半導体業界フォーラムでの技術的考察。TSMCの5nmプロセス、演算性能1,600TOPS、画像処理能力50ギガピクセル/秒の技術的意味を分析。
【編集部後記】
車が「プロダクト」から「ソフトウェア付きプラットフォーム」に変わるとき、所有体験はどこまでアップデートされると面白いでしょうか。
音声で完結する操作、走るほど賢くなる診断、クラウド連携だらけの車内環境──その快適さと引き換えに、どこまでデータを預けられるか、どのレイヤーまでは自分でコントロールしていたいか。自分の理想の「話しかけたくなる車」の条件を、具体的に思い描いてみたくなります。































