Kindle「Ask this Book」始動、権利者オプトアウト不可が波紋:生成AI読書機能の透明性は

Amazon「Kindle Scribe Kindle Scribe Colorsoft」発表:AIノート検索とカラー書き込みで“読む+書く”を再定義 - innovaTopia - (イノベトピア)

便利な“読書アシスタント”が、著者や出版社にとっては「勝手に常時オンの生成AI」になり得る――Kindleの新機能「Ask this Book」をめぐって、そんな火種が上がっています。

権利者がオプトアウトできないとされる点や、仕組みの説明が十分でない点は、読書体験の進化と知財・透明性の衝突を象徴しています。


Amazonは2025年12月10日、Kindle Scribeの新ラインナップとしてKindle Scribe(フロントライトあり/なし)と初のカラー機Kindle Scribe Colorsoftを発表した。Kindle Scribeは厚さ5.4mm、重さ400gで、書き込みとページめくりが40%高速化し、11インチのグレアフリーディスプレイを搭載する。Google DriveとMicrosoft OneDrive対応、AI-powered search、Alexa+送信、OneNote共有、Workspaceなどを提供する。

Ask this Bookは米国のKindle iOSアプリで、英語の書籍数千冊に提供される。価格はKindle Scribeが499.99ドルから、Kindle Scribe Colorsoftが629.99ドルからで、フロントライトなしは2026年に429.99ドル。英国とドイツでも来年提供予定だ。

From: 文献リンクAmazon Kindle Scribe, now in color—redesigned for productivity

 - innovaTopia - (イノベトピア)
amazon公式ニュースより引用
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amazon公式ニュースより引用

【編集部解説】

Kindleの新機能「Ask this Book」は、読書体験を“検索”から“対話”へ寄せるアップデートです。本文の一部をハイライトして質問し、ネタバレを避けながら筋や人物関係、場面の意味をAIがその場で返すという設計は、読者にとっては理解の補助になり得ます。

ただし、Writer Bewareが取り上げている焦点は、機能の便利さではなく「権利者がオプトアウトできない」とされる点と、権利根拠や技術的な保護策(誤回答への対策、テキストの扱いなど)の説明が十分でない点です。生成AIが作品内部に入り込み、読者に“答え”を返す以上、著作権・契約実務の観点では派生利用(派生物)や侵害の評価に触れる可能性があります。ここが曖昧なままだと、読者が得る新体験の価値とは別に、著者・出版社側の不信が積み上がりやすくなります。

この論点は、同時に語られているKindle Scribeの「AI-powered search」にもつながります。Scribeはノートを横断検索し、要約し、追問できる方向へ進みます。これは“書いたメモを資産化する”という意味で実務的に強い一方、Drive/OneDrive連携、Alexa+へ送って会話(予定)といった外部接続が広がるほど、「どのデータがどこへ流れ、どこで処理され、誰が止められるのか」という統治の問題が前面に出てきます。

要するに、KindleのAI化は「端末のスペック競争」ではなく、「読書と執筆の境界」「メモとドキュメントの境界」をまたいで、権利とデータ取り扱いの前提を更新していく動きです。今後は、AI機能の追加そのもの以上に、オプトアウトや透明性の設計、説明の粒度が、プラットフォームへの信頼を左右する局面に入っていくはずです。

【用語解説】

Kindle Scribe
AmazonのKindleシリーズのうち、11インチのグレアフリーディスプレイとペン入力を備えるノート機能付き端末である。

Kindle Scribe Colorsoft
Kindle Scribeのカラーモデルで、Colorsoftディスプレイ技術を採用し、カラーでの書き込みを想定した端末である。

AI-powered search
ノートブックを横断して自然な言葉で検索し、簡単なAI summariesを返し、フォローアップ質問もできる機能として説明されている。

Ask this Book
本文の任意の箇所をハイライトし、人物の動機や場面の意味などをspoiler-free answersで質問できる機能である。

【参考リンク】

Amazon Kindle Scribe(製品ページ)(外部)
Kindle Scribeの購入導線とモデル選択、仕様確認ができるAmazon公式商品ページである。

Amazon Kindle Scribe Colorsoft(製品ページ)(外部)
Kindle Scribe Colorsoftの価格、バリエーション、購入導線を確認できる公式商品ページだ。

Amazon Kindle Scribe without a front light(製品ページ)(外部)
フロントライトなしモデルの提供時期や価格、購入導線を確認できるAmazonの商品ページだ。

Google Drive(外部)
Googleのクラウドストレージで、Kindle Scribeの文書取り込み元として言及されている。

Microsoft OneDrive(外部)
Microsoftのクラウドストレージで、Kindle Scribeの文書取り込み元として言及されている。

Microsoft OneNote(外部)
Kindle Scribeのノートを共有・編集する先として言及されたノートアプリの公式サイトである。

Ask this Book(提供範囲の説明)(外部)
Ask this Bookの提供状況や展開予定をAmazonが説明している公式記事である。

【参考記事】

Writer Beware:Ask this Book機能の権利面の懸念(外部)
Ask this Bookを巡る権利、透明性、オプトアウト等の懸念点を整理して提示する記事だ。

Slashdot:Ask this Bookと著者側の扱い(外部)
Ask this Bookに関する議論をまとめ、著者の関与やオプトアウトの話題にも触れる。

【編集部後記】

本を読んでいるときに、それまで読んでいた内容が少しあいまいになった時や、舞台や時代背景からくる描写について、調べたいとき、的確に、かつネタバレを避けて、しかも同じ端末上でそのまま調べられるという機能は非常に魅力的です。

しかし、その解説は個人で楽しむためのものとはいえ、AIの学習内容や出力について不明瞭であるということは、出版社、著者にとっては不安が大きい点なのは間違いないでしょう。

仮に、オプトアウトができるようになったとして、将来は書籍や作家の評価点として「AIの解説を許可しているか」という考え方が生まれるのかもしれません。

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りょうとく
趣味でデジタルイラスト、Live2Dモデル、3Dモデル、動画編集などの経験があります。最近は文章生成AIからインスピレーションを得るために毎日のようにネタを投げかけたり、画像生成AIをお絵描きに都合よく利用できないかを模索中。AIがどれだけ人の生活を豊かにするかに期待しながら、その未来のために人が守らなけらばならない法律や倫理、AI時代の創作の在り方に注目しています。

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