アマゾンは2025年2月26日、デジタルアシスタントAlexaを生成AIで刷新した「Alexa+」を発表した。月額19.99ドルのサブスクリプション制だが、Primeメンバーは無料で利用できる。来月早期アクセスが開始される。Alexa+はコンサートチケットの購入、食料品の注文、ディナーの予約、レシピ提案などのタスクを実行でき、学習ガイドの読み上げやクイズ出題、手書き文書の整理も可能だ。システムは完全な再アーキテクチャが施され、アマゾン独自のNovaモデルやAnthropicなどのサードパーティモデルを使用する。展開はEcho Showデバイスから始まる。
2014年に発売されたAlexaは世界で5億台以上が販売されたが、収益化には至らず、アマゾンのデバイス事業は数百億ドルの損失を出している。OpenAIのChatGPT登場後、音声アシスタントの刷新が急務となっていた。
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Amazon unveils revamped Alexa with AI features for $19.99 per month, free for Prime members
【編集部解説】
アマゾンがついにAlexaの本格的な刷新に踏み切りました。2022年末のChatGPT登場から約2年半、音声アシスタントの先駆者として君臨してきた同社が、生成AIの波に対応するための答えを示した形です。
今回発表されたAlexa+の最大の特徴は、単なる「質問応答ツール」から「自律的に行動するAIエージェント」への進化です。従来のAlexaは、天気予報の確認や音楽再生といった単純なタスクに使用されることがほとんどでした。しかしAlexa+は、オーブンの修理業者を調べて予約を完了させるなど、複数のステップを要する複雑なタスクを人間の介入なしに遂行できます。
技術的な基盤も大きく変わりました。アマゾンは「完全な再アーキテクチャ」という表現を使っていますが、これは既存のAlexaシステムに大規模言語モデルを単純に接続したわけではないことを意味します。Alexa+はAmazon Bedrockを活用し、自社開発のNovaモデルと、出資先であるAnthropicのClaudeモデルを含む複数の最先端AIモデルを組み合わせて動作します。この「マルチモデル戦略」により、タスクの性質に応じて最適なAIモデルを選択する仕組みを実現しています。
収益化への転換も重要なポイントです。アマゾンは2014年のAlexa発売以来、一度も利用料金を徴収してきませんでした。デバイスは製造コストと同等かそれ以下で販売し、Alexaを通じた他の商品購入を期待していましたが、この戦略は成功しませんでした。ウォールストリート・ジャーナルの報道によれば、アマゾンのデバイス事業は数百億ドルの損失を計上しています。月額19.99ドル(約3000円)という価格設定は、OpenAIのChatGPT Plusやクロードの有料版と同水準であり、AI開発の高コストを相殺する狙いがあります。
ただし、Prime会員には無料で提供される点が戦略的です。アマゾンは既に世界で5億台以上のAlexaデバイスを販売しており、膨大なユーザーベースを持っています。Prime会員にAlexa+を無料提供することで、年会費139ドルの価値を高め、会員維持と新規獲得につなげる構想と考えられます。
一方で課題も見えてきています。初期テストでは応答時間が最大10秒に達するケースがあり、目標の2〜4秒を大きく上回っていたとの報道があります。また、食料品の音声注文など宣伝されていた機能の一部が、発表時点では実装されていない状況も指摘されています。
競合環境も厳しさを増しています。GoogleはGeminiを統合した次世代アシスタントを既に展開しており、2025年の予測では米国内でGoogleアシスタントが9240万人、Alexaが7760万人のユーザー数とされています。また、OpenAIは66億ドル規模のハードウェア事業を計画しており、音声アシスタント市場の勢力図は大きく変動する可能性があります。
Alexa+は3月から段階的に展開され、当初はEcho Show 8、10、15、21の所有者が優先的にアクセスできる予定です。アマゾンがこの大胆な方向転換で、AIエージェント時代における音声アシスタントの主導権を取り戻せるかどうか、今後数カ月の展開が注目されます。
【用語解説】
生成AI(Generative AI)
テキスト、画像、音声などのコンテンツを自動生成できる人工知能技術。大規模言語モデル(LLM)などを基盤とし、ChatGPTやClaudeなどが代表例。従来のAIが分類や予測を行うのに対し、生成AIは新しいコンテンツを創造できる点が特徴だ。
大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)
膨大なテキストデータで学習された自然言語処理のAIモデル。人間のように文章を理解し、生成する能力を持つ。GPT、Claude、Geminiなどが該当し、Alexa+の技術基盤となっている。
AIエージェント(AI Agent)
ユーザーの指示を受けて、複数のステップを自律的に実行できるAIシステム。単なる質問応答ではなく、情報収集、判断、実行までを一貫して行える。Alexa+が目指す機能の中核概念だ。
Amazon Bedrock
アマゾンが提供するAI開発プラットフォーム。Anthropic、Meta、Mistral AIなど複数のAI企業のモデルに単一のAPIでアクセスでき、企業が独自のAIアプリケーションを構築できる。Alexa+もこの基盤を活用している。
Nova(ノヴァ)
アマゾンが2024年に発表した独自の基盤モデルシリーズ。Nova Micro、Nova Lite、Nova Proなどがあり、テキスト、画像、動画など多様なモダリティに対応する。Alexa+の動作にも使用されている。
Echo Show
アマゾンが販売するタッチスクリーン付きのスマートディスプレイ。画面サイズにより複数のモデルがあり、Alexa+の早期アクセスはEcho Show 8、10、15、21が優先される。
【参考リンク】
Amazon Alexa公式サイト(外部)
アマゾンの音声アシスタントAlexaの公式サイト。Alexa+の詳細情報や対応デバイス、新機能の紹介が掲載されている。
Anthropic公式サイト(外部)
AIの安全性研究を専門とする企業。Claudeシリーズを開発し、アマゾンから数十億ドルの出資を受けている。
Amazon Bedrock(外部)
AWSが提供する生成AI開発プラットフォーム。複数のAIモデルを統合し、企業向けにセキュアなAI構築環境を提供。
OpenAI公式サイト(外部)
ChatGPTを開発したAI研究企業。2022年11月のリリースが音声アシスタント市場に大きな影響を与えた。
Amazon Prime(外部)
アマゾンの有料会員サービス。年会費139ドルで配送特典やPrime Video、Alexa+も追加料金なしで利用可能。
【参考記事】
Introducing Alexa+, the next generation of Alexa(外部)
アマゾン公式による発表。Amazon BedrockとNovaモデル、ClaudeによるAIエージェント機能を詳細解説。
The all-new Alexa+ and more: All the news from Amazon’s 2025 devices event(外部)
2025年2月26日のイベント詳細。Sunoとの音楽生成統合やAlexa AI Multi-Agent SDKも発表された。
Amazon’s Alexa is getting a major upgrade for the AI chatbot era(外部)
CNNの報道。Alexa+はユーザーの個人的文脈を理解し、Echo Showのカメラで視覚的な質問にも回答可能。
Amazon Alexa event as it happened – Alexa+ subscription service officially announced(外部)
TechRadarによるライブブログ。展開はEcho Show優先。2023年の発表後、静かだったが実現に至った経緯。
Amazon’s $25 Billion (and counting) Alexa Bet: Too Little, Too Late?(外部)
内部文書によればテスターは7点満点中4.57点評価。応答時間は最大10秒で目標を大幅超過との指摘。
Claude 4.5 models from Anthropic available in Amazon Bedrock(外部)
AWS公式発表。Claude Opus 4.5、Sonnet 4.5がBedrockで利用可能。Alexa+にも採用されている。
Amazon has sold more than 500 million Alexa-enabled devices(外部)
2023年5月時点でAlexaデバイスの販売台数が5億台を突破。前年比35%の使用増加も報告された。
【編集部後記】
音声アシスタントが「エージェント」として自律的に動く時代が、いよいよ現実のものとなりつつあります。みなさんは、AIに任せたいタスクと、自分でコントロールしたいタスクの境界線をどこに引きますか?Alexa+のような技術が普及すれば、日常の雑務から解放される一方で、AIへの依存度も高まります。
便利さと引き換えに失うものはないのか、あるいは人間の時間をより創造的なことに使えるようになるのか。みなさんの生活にAIエージェントが入ってくるとしたら、どんな使い方を想像されますか?ぜひご意見をお聞かせください。































