2018年12月3日、ニューヨーク。国連総会で1月24日を「教育の国際デー」とする決議が採択されました。翌2019年から始まったこの日は、世界の平和と発展における教育の役割を再確認する日として定められました。
7年後の今、世界では約2億5000万人の子どもが学校に通えず、7億6300万人の大人が読み書きできません。一方、日本では2024年度、不登校児童生徒が35万3970人に達し、12年連続で増加しました。
これは「危機」なのか、それとも「転換点」なのか。
AIと教育——人間の主体性を維持できるか
2025年のテーマは「AIと教育:自動化の世界において人間の主体性を維持する」でした。国連事務総長グテーレスは警告します。「AI主導のシステムがより力を増すにつれて、機械の主導による影響が人間の意図から容易に外れてしまうおそれが出てきています」
数字が現実を物語ります。14歳から18歳の3分の2が宿題にAIを使用する一方、テクノロジーの倫理的使用に関するガイドラインを持つ学校はわずか10%。教師向けAIトレーニングコースを開発した国は、2022年時点で世界でわずか7か国でした。
日本でも2025年、生成AIの教育活用が本格化しました。さいたま市では約6000名規模で校務AI「おたすけ学校AI」を導入、文書作成時間の大幅な削減に成功しました。英国では、AIを活用した個別最適化学習プラットフォーム「Century Tech」を週20分以上利用した生徒は、英語・数学でグレード4以上の達成率が89%(全国平均65.1%)と大幅に上回りました。
しかし、成果の陰で新たな格差も生まれています。デジタルリテラシーの差が、そのまま学習成果の差となり、将来の収入格差につながる可能性が指摘されています。
私はinnovaTopiaのライターになる前は、育つ地域による教育格差を是正する一翼を担えればと考え、離島で学習塾を開業して島の子供たちに勉強を教えていました。オンライン教育の可能性も模索しましたが、通信環境の制約が学びの機会を限定する現実がありました。GIGAスクール構想により一人一台端末は実現しましたが、それを活かす環境には、依然として地域差があります。AI時代の教育格差は、従来の経済格差に加え、デジタル環境の格差という新たな層を重ねています。
学びの場が、拡散している
2024年度、日本の小中学生の35万3970人が不登校でした。10年前と比べ、小学生は約5.5倍、中学生は約2.2倍。1000人あたり小学校で21.4人、中学校で67.1人という数字は、1クラスに2人以上が学校に通っていない計算になります。
けれども、これを単純に「問題」と呼ぶことはできません。
2017年、教育機会確保法が施行されました。この法律は、学校復帰が唯一のゴールではないことを明記しています。「不登校は問題行動ではない」と文科省が明示したことで、保護者の意識も変化しました。無理に登校させるのではなく、子どもの心の声に耳を傾ける選択が広がっています。
学びの場も多様化しています。2025年12月、東京都内で開催されたフェア「FandAフェア2025」には、18団体・19のフリースクールやオルタナティブスクールが集結し、約140名が来場しました。全国には797件のフリースクールが存在し、24時間対応の施設も登場しています。
興味深いのは、不登校児童だけが利用しているわけではないことです。私立中高一貫校に在籍しながら、週1〜2回フリースクールに通うことで学校生活を維持している生徒もいます。オンラインのフリースクールも増加し、場所を選ばない学びが可能になりました。
教育支援センターは全国に1743カ所設置されていますが、利用できているのは不登校児童生徒のわずか8.8%。一方で、公立小中学校の46.1%に「校内教育支援センター」が設置され、学校の中にも多様な学びの場が生まれています。
「どこで学ぶか」の選択肢は、確実に増えています。
若者が教育を共創する
2026年、今年のテーマは「教育を共創する若者の力」です。
世界人口の半分以上が30歳未満。彼らは持続可能な発展、革新、社会変革の原動力であるにもかかわらず、貧困、不平等、質の高い教育や適切な雇用の機会を得にくいという問題の影響を過度に受けています。
このテーマは、2025年の問いへの応答かもしれません。AIが「何をどう学ぶか」を提案する時代に、人間の主体性をどう維持するのか。その答えは、教育を「受ける」ものから「創る」ものへと転換することにある。
東京大学の鈴木寛教授は指摘します。「教育におけるAIの価値は、答えを与えることではなく、問いや試行錯誤をサポートすることにある」
教師の役割も変化しています。知識を一方的に伝える存在から、学びを引き出すファシリテーターへ。答えを与えるのではなく、問いを投げかけ、考えるプロセスを支援する。
「誰が教えるか」の定義が、揺らいでいます。
「どこで学ぶか」は多様化しました。教室、フリースクール、オンライン、自宅。選択肢は増え続けています。
「誰が教えるか」も変わりつつあります。教師の役割は、知識を伝える存在から、学びを引き出すファシリテーターへ。AIは最高のチューターにはなれても、真の教師にはなれないと、UNESCOは強調します。
では、「何を学ぶべきか」。
OECDは「学習者エージェンシー」という概念を提示しています。変革を起こすために目標を設定し、振り返りながら責任ある行動をとる能力。働きかけられるのではなく、自ら働きかける。型にはめ込まれるのではなく、自ら型を作る。
興味深いのは、この概念が東日本大震災後の「OECD東北スクール」から生まれたことです。日本の子どもたちと教師が共同で考えた「2030年に向けた新しい学校教育」が、世界の羅針盤となりました。
暗記や計算はAIが代替します。では人間は何を学ぶのか。創造性、共感力、倫理的判断。問いを立てる力。言語化し、協働する力。健全な懐疑心。そして、言葉にできない暗黙知を、人から人へと伝える営み。
2026年のテーマ「若者が教育を共創する」は、こうした問いへの応答かもしれません。学びは、もはや一方向ではありません。
Information
【参考リンク】
支援団体
• 認定NPO法人カタリバ
不登校支援、被災地・困窮家庭の子どもへの学習支援。オンライン不登校支援「room-K」も運営。
• 認定NPO法人キッズドア
経済的に困難な家庭の子どもへの無料学習支援。子どもの貧困・教育格差問題に取り組む。
• フリー・ザ・チルドレン・ジャパン
国内外の教育支援、子どもの権利擁護。SDG4教育キャンペーンの運営にも参画。
• 教育支援センター(適応指導教室)
各自治体の教育委員会が設置する公的な不登校児童生徒の学習・相談支援施設。
オンライン学習プラットフォーム
• Coursera
スタンフォード、イェールなど世界トップ大学の講座。日本語字幕対応多数、無料聴講可能。
• edX
MIT、ハーバードなど名門大学による無料オンライン講座。修了証の取得も可能。
• gacco
日本の大学・企業による無料オンライン講座。ビジネス、教養、資格対策など幅広い分野。
• Schoo
大人のための生放送コミュニティ。ビジネススキル、テクノロジー、教養を学べる。
• 放送大学
通信制大学。学位取得可能。科目履修生として1科目から学習できる。
公式資料・報告書
- UNESCO「教育の国際デー」公式サイト(英語)
- OECD Learning Compass 2030 日本語仮訳
- 文部科学省「不登校児童生徒への支援の在り方について」
- 文部科学省「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」
研究・情報プラットフォーム
【参考記事】
国連広報センター「教育の国際デー(1月24日)に寄せる アントニオ・グテーレス国連事務総長メッセージ」2025年1月23日
文部科学省「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」2025年10月29日
「小・中学生の不登校、過去最多35万人超に―文科省調査」2025年10月31日
School Voice Project「文科省調査で過去最多の35万超え。不登校児童生徒の現状と、今ある支援を紹介」2025年11月17日
東洋経済education×ICT「不登校『12年連続増加』の傍で増える”学校以外の学びの場”」2025年12月22日
日経BP「AIの時代に教育改革の重要性を訴えた2つの基調講演——New Education Expo 2025」
メンバーズ「AIで教育サービスはどう進化する?国内外8事例が示すEdTech次の一手」2025年12月19日
OECD「Student Agency for 2030(2030年に向けた生徒エージェンシー)」日本語仮訳
【用語解説】
教育機会確保法
正式名称「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」。2017年施行。不登校児童生徒の休養の必要性を認め、学校以外の学びの場の重要性を明記。学校復帰ではなく「社会的自立」を目標とする。
GIGAスクール構想
2019年に文部科学省が開始した、児童生徒1人1台の端末と高速ネットワーク環境を整備する計画。2025年からは「NEXT GIGA」として第2期に入り、AI活用や個別最適化学習の推進が進む。
フリースクールとオルタナティブスクール
フリースクールは主に不登校児童の居場所・学習支援を目的とした民間施設。オルタナティブスクールは特定の教育哲学(モンテッソーリ、シュタイナーなど)に基づく教育を実践する学校。両者の境界は曖昧になりつつある。
学習者エージェンシー(Student Agency)
OECDが提唱する概念。「変革を起こすために目標を設定し、振り返りながら責任ある行動をとる能力」。単なる主体性ではなく、社会を理解し、世界に影響を与えることまでを含む。日本の新学習指導要領の「学びに向かう力、人間性等」と連動。
教育支援センター(適応指導教室)
教育委員会が設置する、不登校児童生徒の学習支援・相談を行う公的施設。全国に約1743カ所。一部では「学校復帰」ではなく「社会的自立」を目標に転換しつつある。
個別最適化学習
AIやデータ分析を活用し、一人ひとりの理解度や学習スタイルに合わせて学習内容・進度を調整する教育手法。学習履歴から最適な復習タイミングや次に学ぶべき内容を自動提案する。



































