Anthropicは2026年1月26日、AIアシスタントのClaude内で直接ビジネスアプリケーションを操作できる機能を発表した。
統合されたのはAmplitude、Asana、Box、Canva、Clay、Figma、Hex、Monday.com、Slackの9つで、Salesforceは近日公開予定である。技術基盤はMCP Apps(Model Context Protocolの拡張)で、オープンソースのエコシステムの一部となる。
機能は有料プラン(Pro、Max、Team、Enterprise)で利用可能だが、追加料金は発生しない。機能はWebとデスクトップで利用可能で、Claude Coworkのサポートは後日となる。
Anthropicは100億ドルの資金調達を計画中で、評価額は3500億ドルと報じられている。Claudeの総Web視聴者数は2024年12月以降2倍以上となり、デスクトップでの1日のユニークビジター数は年初来で世界的に12%増加した。
【編集部解説】
今回のアップデートは、AIアシスタントの進化における重要な転換点を示しています。これまでのAIチャットボットは「会話して答えを得る」ツールでしたが、AnthropicはClaudeを「仕事そのものを実行するプラットフォーム」へと変貌させようとしています。
この変化の核心にあるのが「MCP Apps」という技術です。MCPは2024年にAnthropicがオープンソース化したModel Context Protocolの拡張版で、AIアシスタントが外部アプリケーションの画面を自分のチャット画面内に表示し、直接操作できるようにします。重要なのは、これがオープンスタンダードである点です。OpenAIもこの規格を採用しており、業界標準となる可能性を秘めています。
実際にできることは驚くほど実用的です。たとえばAsanaとの統合では、Claudeとの会話を自動的にプロジェクトタイムラインに変換し、チームメンバーが即座にアクセスできるタスクとして展開します。Slackでは、メッセージを下書きし、フォーマットをプレビューしてから送信できます。Hexとの統合では、自然言語でデータに関する質問をすると、対話型のチャートや表を含む回答が返ってきます。つまり、タブを切り替えることなく、すべてをClaude内で完結できるのです。
しかし、AIが自律的に行動できるようになると、新たなリスクも生まれます。たとえば、誤って未レビューのメッセージを送信してしまったり、重要なファイルを削除してしまう可能性があります。Anthropicはこれに対し、「同意プロンプト」という仕組みを実装しました。Claudeがアクションを実行する前に、ユーザーに確認を求めるのです。またエンタープライズ管理者は、組織内でどのツールを使用可能にするかを制御できます。
セキュリティ専門家が指摘する「プロンプトインジェクション」という攻撃手法にも注意が必要です。これは攻撃者がWebコンテンツに悪意のある指示を隠し、AIの動作を操作する手法です。Anthropicはこれに対し、一部機能を仮想マシンで実行するなど、複数のセキュリティレイヤーを実装しています。
この動きをより広い文脈で見ると、エンタープライズAI市場における戦略的な陣取り合戦が見えてきます。Anthropicは、Claudeを単なるAIプロバイダーではなく、「仕事の流れを統制するレイヤー」として位置づけようとしています。従業員が日常的に使うツールとのインターフェースをClaudeにすることで、企業が他の競合サービスに乗り換えることを難しくする「ロックイン効果」を狙っているのです。
この戦略が成功すれば、AIアシスタントは単なる質問応答ツールから、仕事そのものの「オペレーティングシステム」へと進化します。かつてSalesforceが顧客データの記録システムとして、Slackが職場コミュニケーションの中心として成長したように、Claudeは「仕事のデフォルトの出発点」になろうとしているのです。
競合他社の動向も無視できません。OpenAIには独自のエンタープライズ戦略があり、GoogleはGeminiを生産性スイート全体に統合し、MicrosoftはOfficeアプリケーションでCopilotを深化させています。しかし、オープンスタンダードであるMCPをベースにすることで、Anthropicは広範なエコシステムを構築し、ネットワーク効果を享受できる立場にあります。
報道によれば、Anthropicは評価額3500億ドルで100億ドルの資金調達を計画中です。これは2025年9月の評価額1830億ドルからわずか数カ月でほぼ2倍になったことを意味します。Claude Codeの成功が追い風となり、Claudeの総Web視聴者数は2024年12月以降2倍以上に増加しました。
長期的に見れば、今回の発表が示唆するのは、仕事の基本単位そのものの変化かもしれません。何十年もの間、仕事はアプリケーション単位で行われてきました。しかし将来は、それらすべての上位に位置するAIレイヤーが主役になる可能性があります。そのとき、すべてのソフトウェアベンダーが直面する問いはシンプルです。「ツールになりたいのか、それともツールを制御する存在になりたいのか」。Anthropicは明らかに後者を選択しました。
【用語解説】
MCP Apps(Model Context Protocol Apps)
Anthropicが開発したオープンソース技術で、AIアシスタントが外部アプリケーションの画面を自分のチャット画面内に表示し、直接操作できるようにする拡張機能。2024年にオープンソース化されたModel Context Protocolをベースとしており、OpenAIも採用している業界標準規格である。
プロンプトインジェクション
攻撃者がWebコンテンツや入力データに悪意のある指示を隠し、AIの動作を意図しない方向に操作するセキュリティ攻撃手法。AIが外部データを読み込む際に発生するリスクで、AIエージェントが自律的に行動できるようになるほど深刻な脅威となる。
ロックイン効果
特定の製品やサービスに依存することで、他の競合製品への乗り換えが困難になる現象。今回の場合、Claudeを通じて日常業務を行うことで、企業が他のAIサービスに切り替えにくくなることを指す。
【参考リンク】
Anthropic公式サイト(外部)
Claude AIを開発するAI研究企業。安全性を重視したAI開発を推進。
Claude公式サイト(外部)
対話型AIアシスタント。文章作成、コーディング、分析など幅広く対応。
Model Context Protocol公式サイト(外部)
AIと外部ツールを接続するオープンスタンダード。Linux Foundationに寄贈。
Asana(外部)
プロジェクト管理とチームコラボレーションのプラットフォーム。
Figma(外部)
デザインコラボレーションツール。UI/UXデザインと共同作業を支援。
Slack(外部)
ビジネス向けメッセージングプラットフォーム。Salesforce所有。
Box(外部)
企業向けクラウドストレージおよびコンテンツ管理プラットフォーム。
Canva(外部)
オンラインデザインツール。グラフィックデザインを簡単に作成可能。
Monday.com(外部)
ワークマネジメントプラットフォーム。プロジェクト追跡と自動化を提供。
【参考記事】
Anthropic signs term sheet for $10 billion funding round at $350 billion valuation – CNBC(外部)
評価額3500億ドルで100億ドル調達計画。2025年9月から評価額がほぼ2倍に。
Claude Code gives Anthropic its viral moment – Fortune(外部)
Claude Codeの成功を詳述。Web視聴者数2倍以上、デスクトップ訪問者12%増。
Anthropic launches interactive Claude apps, including Slack and other workplace tools – TechCrunch(外部)
MCP Apps発表の詳細。有料プラン向けに9つのアプリ統合を提供開始。
Claude supports MCP Apps, presents UI within chat window – The Register(外部)
MCP Appsの技術的詳細。アプリのUIをチャット画面内に表示可能に。
MCP Apps – Bringing UI Capabilities To MCP Clients – Model Context Protocol Blog(外部)
MCP Appsの公式発表。OpenAIとの協力により開発されたオープンスタンダード。
【編集部後記】
AIがチャットボットから「仕事のプラットフォーム」へと進化していく様子を、私たちも興味深く見守っています。みなさんの職場では、複数のツールを行き来しながら作業することに、どれくらいの時間を取られているでしょうか。
Claudeのような統合型AIが、その手間を本当に減らしてくれるのか、それとも新たな依存を生むだけなのか。実際に使ってみた方がいらっしゃれば、ぜひ感想を共有していただけるとうれしいです。私たちも引き続き、この技術がどのように現場で受け入れられていくのか、注目していきたいと思います。






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