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米陸軍がSalesforceと56億ドル契約――エージェントAI導入の基盤整備に着手

[更新]2026年1月28日

Salesforceは2026年1月26日、米陸軍と最大56億ドル、10年間の契約を締結したと発表した。契約の中核は2025年9月に立ち上げた製品ポートフォリオMissionforceで、クラウドデータ解析システムを提供し、将来的なエージェントAI導入の基盤を構築する。

Salesforce MissionforceおよびGovernment CloudのCEOであるKendall Collinsは、陸軍全体にMissionforceを運用化し、データと解析を統合すると説明した。エージェントAIの実装は将来の計画であり、現時点での展開ではない。

国防総省は既に2025年3月にScale AIと契約を結び、AndurilとMicrosoftの支援を受けて計画・作戦分野にエージェントAIを導入している。Salesforceは以前から陸軍人事司令部や採用環境に技術を統合しており、2025年の採用者数は数年ぶりに急増した。

From: 文献リンクSalesforce signs $5.6B deal to inject agentic AI into the US Army

【編集部解説】

Salesforceと米陸軍の56億ドル契約は、民間テクノロジー企業と軍事組織の関係性における新たな段階を示しています。今回の契約で注目すべきは、エージェントAIそのものではなく、その「基盤構築」に焦点が当てられている点です。

契約の中核となるMissionforceは、2025年9月に立ち上げられた製品ポートフォリオで、国防、情報、航空宇宙機関のニーズに対応するために設計されています。この契約は10年間のIDIQ(不定数量契約)で、5年の基本期間と5年のオプション期間から構成されています。重要なのは、56億ドルという金額は上限であり、保証された購入額ではない点です。実際の支出は発注が行われるたびに計上されます。

注目すべき点は、エージェントAIの実装が「将来の計画」として位置づけられていることです。現段階で提供されるのはクラウドデータ解析システムであり、データの統合とワークフローの効率化が優先されています。これは技術的に妥当なアプローチです。エージェントAIを効果的に機能させるには、まず質の高いデータ基盤が不可欠だからです。

Salesforceはこの契約以前から米陸軍との関係を築いてきました。Army Human Resources Command(陸軍人事司令部)のコールセンター近代化プロジェクトでは、予定より4か月早く、予算より100万ドル以上少なく完了させた実績があります。現在は3,000人のArmy HRC職員と兵士にAIサポートエージェントを提供する計画が進行中です。

また、Army Accessions Information Environment(陸軍採用情報環境)では、28,000人の採用担当者向けにSalesforce CRM、Slack、MuleSoftを統合し、採用パイプラインの最適化を図っています。この取り組みは既に成果を上げており、2025年の採用者数は数年ぶりに急増しました。ただし、高い離職率の問題は依然として解決していません。

一方、国防総省全体でもエージェントAI導入の動きが加速しています。2025年3月には、Defense Innovation Unit(国防イノベーション部門)がScale AIにThunderforgeプロジェクトの契約を授与しました。このプロジェクトでは、Scale AI、Anduril、Microsoftが協力し、軍事計画と作戦にエージェントAIを統合する取り組みが進められています。最初の展開先は米インド太平洋軍と米欧州軍です。

トランプ大統領は2025年9月5日に大統領令を発令し、国防総省(DoD)の二次的な呼称として「戦争省(Department of War)」を使用できるようにしました。これは1789年の設立時の名称への回帰であり、法的には依然としてDepartment of Defenseですが、非法定文書ではDepartment of Warが使用されています。

今回のSalesforceの契約は、軍事分野におけるエージェント型AI導入の第一歩として位置づけられます。しかし、これは新しい領域の開拓というよりも、既に進行中のトレンドへの参入です。国防総省は既に複数の企業と契約を結び、AI技術の軍事応用を推進しています。

技術的な観点から見ると、Missionforceが提供する統合データプラットフォームは、採用から退職までの人事管理、データソースの統合による意思決定の高速化、ワークフローの効率化を実現します。これらは全て、将来的なエージェントAIの効果的な運用に必要な基盤となります。

長期的な視点では、この契約は軍事組織のデジタル変革における重要な一歩です。しかし、エージェントAIの軍事応用には倫理的な課題も伴います。人間の監督下で運用されることが強調されていますが、自動化の範囲や意思決定への関与度については、今後も慎重な議論が必要でしょう。

【用語解説】

エージェントAI(Agentic AI)
従来のAIとは異なり、明確な指示がなくても自律的にタスクを実行できるAIシステム。目標を与えられると、そのために必要な手順を計画し、ツールを使用し、結果を評価して次の行動を決定する能力を持つ。軍事分野では、戦略立案、シミュレーション、データ分析などに応用される。

IDIQ契約(Indefinite Delivery Indefinite Quantity)
不定数量契約。一定期間内に不特定の数量やサービスを提供する政府契約形態。最小・最大数量や契約期間を定めるが、具体的な発注は必要に応じて行われる。発注がなければ支出も発生しないため、柔軟性が高い。

Computable Insights LLC
Salesforceが米国の情報機関および国家安全保障市場向けに設立した完全子会社。特定の政府契約の下でAI、CRM、データ解析機能を提供する専門組織として機能する。

Defense Innovation Unit(DIU)
国防総省のシリコンバレーへのアウトリーチ部門。商業的なベストプラクティスを活用し、新興技術を迅速に開発、テスト、展開することを目的とする。Thunderforgeプロジェクトなどを主導している。

Thunderforgeプロジェクト
国防総省がScale AI、Anduril、Microsoftと共同で進めるエージェントAI統合プロジェクト。軍事作戦および戦域レベルの計画にAIを統合し、大規模なデータ処理、複数の行動計画の生成、AI駆動のウォーゲーミングを実現する。

【参考リンク】

Salesforce公式プレスリリース(外部)
米陸軍との56億ドル契約に関する公式発表。Missionforceの詳細や契約内容について記載されている。

Salesforce Missionforce製品ページ(外部)
政府の国防、情報、航空宇宙機関向けに設計されたMissionforce製品ポートフォリオの概要と機能説明。

Defense Innovation Unit Thunderforgeプロジェクト(外部)
国防総省のThunderforgeプロジェクトに関する公式情報。AI駆動の意思決定システムの詳細を提供。

ホワイトハウス大統領令14347(外部)
国防総省を「戦争省」として二次的に呼称することを認めたトランプ大統領の大統領令全文。

【参考記事】

U.S. Army Awards Salesforce $5.6B Contract to Accelerate Military Modernization and Department of War Readiness(外部)
Salesforceの公式プレスリリース。契約の詳細、Missionforceの機能、陸軍での実績を記載している。

AI for war plans: Pentagon innovation shop taps Scale AI to build ‘Thunderforge’ prototype(外部)
2025年3月発表のThunderforgeプロジェクトの詳細。Scale AI、Anduril、Microsoftの協力体制を解説。

Pentagon to give AI agents a role in planning, operations(外部)
ThunderforgeプロジェクトにおけるAIエージェントの役割について解説した記事。人間の監督下での運用を強調。

The Department of War? Not Legally – What Trump’s Executive Order Really Does(外部)
大統領令の法的意味を詳細に解説。Department of Defenseが依然として法的名称である点を明確化。

【編集部後記】

軍事とテクノロジーの融合は、私たちの社会にとって避けられない現実となっています。今回のSalesforceと米陸軍の契約は、エージェントAIという新しい技術が、どのように既存の組織構造に組み込まれていくのかを示す興味深い事例です。技術の軍事応用には賛否両論がありますが、その進展を理解することは、私たち市民にとっても重要ではないでしょうか。皆さんは、民間企業が開発したAI技術が軍事分野で活用されることについて、どのようにお考えですか。

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Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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