英国政府は2026年1月27日、米Meta社から100万ドル(約72万8,000ポンド)を受け取り、防衛・国家安全保障・交通分野のAIシステム開発に活用をスタートした。
資金は政府出資のアラン・チューリング研究所が調整する英国AI専門家の報酬に充てられ、医療、警察、交通システムの近代化に取り組む。ガーディアン紙の調査では、Meta幹部は過去2年間で閣僚と複数の会合を持っていた。この発表は政府が16歳未満のソーシャルメディア使用禁止を検討している時期に重なり、テクノロジー正義団体Foxgloveなどは政府とシリコンバレー企業の緊密な関係を批判している。また政府はAI企業Anthropicとも提携を発表し、求職者向けキャリアアドバイスツールをgov.ukで試験運用する予定である。
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UK ministers accept $1m from Meta amid social media ban consultation
【編集部解説】
英国政府によるMeta社からの資金受領は、テクノロジー企業と政策立案機関の複雑な関係性を浮き彫りにする事例となっています。表面上は公共サービスの近代化という目的を掲げていますが、その裏側には利益相反の懸念が存在します。
最も注目すべき点は、タイミングの問題です。政府が16歳未満のソーシャルメディア使用禁止を検討している最中に、その規制対象となるInstagramを運営するMetaから資金を受け取るという構図は、政策決定の独立性に疑問を投げかけます。Meta側は資金が禁止案の前に割り当てられていたと説明していますが、過去2年間で閣僚との会合を複数回重ねてきた実績は、同社の政府へのアクセス能力の高さを示しています。
活動家団体Foxgloveが指摘する「無料のランチは存在しない」という警告は、的を射ています。企業が政府に資金提供する際、何らかの見返りや影響力を期待するのが常です。特にMetaのような巨大テック企業にとって、100万ドルという金額は決して大きな投資ではありません。しかしこの投資により、政策立案プロセスへのアクセスや、将来的な規制環境への影響力を確保できる可能性があります。
一方で、政府が民間企業の専門知識やリソースを活用すること自体は、必ずしも否定されるべきではありません。AI技術の急速な発展において、公共部門が民間の先進技術を取り入れることは、行政サービスの効率化や国家競争力の維持に不可欠です。問題は、その協力関係が透明性を持ち、公共の利益を最優先にしているかどうかという点にあります。
Anthropicとの提携も同様の文脈で理解できます。2025年10月、元英国首相リシ・スナクが評価額1,830億ドルのAI企業Anthropicの顧問に就任しました。この事実は、政治とテクノロジー企業の回転ドア現象を象徴しています。公職を離れた政治家が即座にテック企業の顧問となる構造は、在職中の政策決定に影響を与えていた可能性を示唆します。
この事例が示唆する長期的な懸念は、英国のAI主権の問題です。批評家が指摘するように、政府が米国シリコンバレー企業に過度に依存することで、自国のAI産業育成の機会を失い、貴重な公共データを海外企業に提供してしまうリスクがあります。特に国家安全保障や防衛分野でのAI活用において、外国企業への依存は戦略的脆弱性を生み出す可能性があります。
同時に、著作権保護とAI学習データの問題も浮上しています。政府はクリエイターの著作権保護とAI企業の利益のバランスを取る政策を策定する立場にあり、その政策決定プロセスにAI企業自身が深く関与している状況は、公正性の観点から問題があります。
この問題の本質は、デジタル時代における民主主義のガバナンスにあります。テクノロジー企業が莫大な資金力と専門知識を武器に政策決定に影響を及ぼす能力を持つ中で、いかに公共の利益を守り、政策の独立性を維持するかが問われています。透明性の確保、利益相反の厳格な管理、独立した専門家による政策評価など、制度的な防護措置が必要となるでしょう。
【用語解説】
DSIT(Department for Science, Innovation and Technology / 科学・イノベーション・技術省)
英国政府の省庁で、科学技術政策、イノベーション推進、デジタル政策を担当する。2023年に設立された比較的新しい省庁で、デジタル・文化・メディア・スポーツ省から分離して誕生した。
アラン・チューリング研究所(Alan Turing Institute)
英国政府が出資する国立のデータサイエンスおよびAI研究機関。2015年に設立され、ロンドンに本部を置く。名称は現代コンピュータ科学の父とされるアラン・チューリングに由来する。
Llama(Large Language Model Meta AI)
Meta社が開発したオープンソースの大規模言語モデル。テキスト、動画、画像、音声などのデータを処理できる。最新版はLlama 3.5で、政府機関や研究機関も利用可能。
Foxglove
英国を拠点とするテクノロジー正義キャンペーン団体。テクノロジー企業の権力濫用や政府との不透明な関係を監視し、デジタル権利の擁護活動を行う。
Smartphone Free Childhood
英国の保護者が主導する運動で、子どもにスマートフォンを持たせない、またはソーシャルメディアの使用を制限することを推進する。2024年頃から急速に拡大している。
16歳未満のソーシャルメディア使用禁止
オーストラリアが2025年12月に導入した世界初の包括的な規制。英国も2026年1月20日から3か月間の公開検討を開始し、同様の禁止を検討している。年齢確認技術の導入が必要となる。
デジタル同意年齢(Digital Age of Consent)
子どもが保護者の同意なしに自身のデータ使用に同意できる年齢。現在英国では13歳だが、16歳への引き上げが検討されている。
【参考リンク】
Department for Science, Innovation and Technology (DSIT)(外部)
英国政府の科学・イノベーション・技術省の公式サイト。デジタル政策、AI戦略、サイバーセキュリティなどの最新情報を提供している。
The Alan Turing Institute(外部)
英国国立のデータサイエンス・AI研究機関。基礎研究から応用研究まで幅広く手がけ、政府や産業界との連携プロジェクトも多数実施している。
Foxglove(外部)
テクノロジー企業の監視と市民のデジタル権利擁護を行う英国の非営利団体。訴訟やキャンペーンを通じて政策変更を求める活動を展開。
Meta(外部)
FacebookやInstagramを運営する米国のテクノロジー企業。マーク・ザッカーバーグがCEOを務め、AI研究やメタバース開発にも注力している。
Anthropic(外部)
サンフランシスコを拠点とするAI企業。元OpenAI幹部が創業し、安全で解釈可能なAIシステムの開発を目指す。Claude AIモデルを提供している。
Smartphone Free Childhood(外部)
子どもへのスマートフォン提供を遅らせることを推奨する英国の保護者主導キャンペーン。学校や地域コミュニティでの実践例を共有。
【参考記事】
UK announces Meta-backed AI team to upgrade public services | MarketScreener(外部)
英国政府がMetaの資金提供を受けたAI専門家チームを発表。交通、公共安全、防衛分野のツール開発に1年間取り組む。Meta Llamaのオープンソースモデルを使用し、政府がツールを所有する形式。
House of Lords votes to ban social media for Brits under 16 | The Register(外部)
2026年1月21日、英国貴族院が261対150で16歳未満のソーシャルメディア禁止を可決。政府は1月20日に3か月間の検討を開始し、デジタル同意年齢の13歳から16歳への引き上げも検討中。
Former UK Prime Minister Rishi Sunak to advise Microsoft and Anthropic | TechCrunch(外部)
リシ・スナク元英国首相が2025年10月にMicrosoftとAnthropicの上級顧問に就任。政府任用諮問委員会は不公平な優位性への懸念を表明したが、2年間のロビー活動禁止条件付きで承認。
Meta Backs $1 Million Initiative to Get UK’s Best AI Talent | Meta(外部)
Metaが2025年7月にOpen Source AI Fellowshipを発表。100万ドルの資金をアラン・チューリング研究所に提供し、英国のトップAI人材を政府部門に配置。公共部門で最大450億ポンドの生産性向上が見込まれる。
UK Social Media Ban for Under-16s: Implications and Implementation Challenges | BISI(外部)
英国の16歳未満ソーシャルメディア禁止の影響と実施上の課題を分析。オーストラリアでは470万アカウントが削除されたが、VPN回避や年齢確認技術によるプライバシー侵害の懸念が指摘されている。
【編集部後記】
公共サービスの向上という名目で、テクノロジー企業が政府に資金提供する構図は、いつの時代も複雑な問題を孕んでいます。今回の事例は、その最前線で起きている出来事です。政府が民間の専門知識を活用すること自体は合理的ですが、その相手が規制対象となる企業である場合、公共の利益が本当に守られるのか、私たち市民が注視する必要があります。特に子どもの安全に関わる政策決定においては、透明性と独立性がこれまで以上に重要になってくるでしょう。皆さんは、この問題をどのように捉えますか。






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