熟練技能者の高齢化、技術継承の断絶――製造業が直面する危機に、日本のスタートアップと世界的IT企業が挑む。対話するAI加工機が切り拓く、ものづくりの新時代。
アルム株式会社と日本マイクロソフト株式会社は、Azure OpenAIを活用した次世代切削加工機「TTMC Origin」の開発で技術協力を進めると2026年1月28日に発表した。
同機は自然言語による対話を通じて加工機を制御できる仕組みで、機械制御、工程設計、NCプログラム生成、工具・素材準備、自動加工実行といった一連のプロセスを統合的に操作できる環境を目指す。
アルムは2021年より製造業向けAIモデル「ARUMCODE」を提供し、2024年には全12工程を自動化したマシニングセンタ「TTMC Type-F」を市場投入している。「TTMC Origin」は2026年7月より予約受付開始予定で、想定本体価格は3,000万円(税抜)、初年度は100台規模の販売を目標としている。2027年以降、米国、韓国、インドを皮切りに段階的な海外展開を計画している。
From:
アルム、日本マイクロソフトと協力し、Azure OpenAIを活用した次世代切削加工機「TTMC Origin(オリジン)」の開発を推進
【編集部解説】
製造業におけるAIと完全自動化の領域で、また一つ大きな節目が訪れました。石川県金沢市に本社を置くスタートアップ、アルムが日本マイクロソフトと手を組み、Azure OpenAIを活用した次世代切削加工機「TTMC Origin」の開発を進めると発表したのです。
これまでの切削加工機は、CAD/CAMソフトを使ってNCプログラムを作成し、工具や材料を準備し、機械を操作する――このすべてのプロセスに熟練技能者の知識と経験が必要でした。しかし「TTMC Origin」は、この一連の流れを自然言語での対話を通じて実行できる可能性を秘めています。つまり「この部品を加工してほしい」と話しかけるだけで、機械が最適な工程を設計し、プログラムを生成し、加工を完了させる――そんな未来が見えてきたのです。
アルムはこれまでも製造業向けAI「ARUMCODE」を開発し、図面データからNCプログラムを自動生成する技術を磨いてきました。通常1〜2時間かかるプログラミング作業を3分に短縮し、製造原価の約50%を占めるとされるこの工程の自動化を実現してきた実績があります。2024年には全12工程を自動化した「TTMC Type-F」を市場投入しており、今回の「TTMC Origin」はその進化系と位置づけられます。
今回の協業で注目すべきは、Azure OpenAIという大規模言語モデルの導入です。これまでのARUMCODEが持つ加工データ、工程ノウハウ、NCプログラム生成技術に、自然言語処理の能力が加わることで、製造現場のユーザー体験が根本から変わる可能性があります。熟練技能者でなくても、学生や子どもたちでも、対話を通じて高精度な加工を実現できる――これはまさに製造業における民主化と言えるでしょう。
製造業が直面している人手不足と技能継承の問題は深刻です。2007年問題として知られる団塊世代の大量退職以降、熟練技能者の高齢化は進み、彼らが持つ「暗黙知」をいかに形式知化するかが業界全体の課題となっています。「TTMC Origin」が目指すのは、まさにこの暗黙知の形式知化です。AIが熟練技能者のノウハウを学習し、誰でもアクセス可能な形で提供することで、技術の継承と製造現場の生産性向上を同時に実現しようとしています。
一方で、セキュリティと信頼性も重要な要素です。製造現場では企業秘密や顧客情報を扱うため、クラウドベースのAIサービスに対する懸念も存在します。Azure OpenAIは、Microsoftの堅牢なセキュリティ基盤の上で動作し、オンプレミスとクラウドのハイブリッド運用にも対応する予定です。これにより、企業は安心してAI技術を導入できる環境が整います。
価格設定も興味深いポイントです。本体価格3,000万円(税抜)という設定は、中小企業にとって決して安価ではありませんが、代表の平山氏が「教育機関や研究機関にも導入しやすい価格帯」と述べているように、従来の高額な産業用機械に比べれば導入障壁は低いと言えます。初年度100台という販売目標は、市場の反応を見極めながら段階的に展開する堅実な戦略を示しています。
2026年7月からの予約受付開始、2027年以降の米国、韓国、インドへの展開――このロードマップは、日本発の製造AI技術が世界市場に挑戦する姿を示しています。グローバルな製造業DXの文脈において、自然言語での機械制御という新しいインターフェースがどこまで受け入れられるか、その試金石となるでしょう。
【用語解説】
Azure OpenAI
Microsoftが提供する、OpenAIの大規模言語モデルをAzure上で利用できるクラウドサービス。GPT-4などの最先端AIモデルを企業向けのセキュリティと信頼性を確保した環境で使用できる点が特徴である。
NCプログラム
数値制御(Numerical Control)プログラムの略。工作機械に対して加工手順や工具の動きを指示するためのコード。従来は熟練技能者が手作業で作成していたが、近年はCAD/CAMソフトやAIによる自動生成が進んでいる。
マシニングセンタ
フライス加工、穴あけ、タップ加工などを1台で行える多機能工作機械。工具を自動交換する機構を持ち、複雑な形状の部品を効率的に製造できる。
形式知と暗黙知
形式知は言葉や数式で表現できる知識、暗黙知は経験や勘に基づく言葉にしにくい知識を指す。製造業では熟練技能者の暗黙知をいかに形式知化するかが技能継承の鍵となっている。
CAD/CAM
CADはComputer-Aided Design(コンピュータ支援設計)、CAMはComputer-Aided Manufacturing(コンピュータ支援製造)の略。設計から製造までをコンピュータで支援するシステムである。
同時3軸・5軸加工
3軸加工はX、Y、Z方向への直線移動、5軸加工はこれに回転軸を加えた複雑な立体加工を可能にする。5軸加工は航空機部品など高度な精度が求められる分野で活用される。
【参考リンク】
アルム株式会社(外部)
製造AI「ARUMCODE」と完全自動化加工機「TTMC」を開発・提供するスタートアップ企業の公式サイト
Azure OpenAI Service(外部)
Microsoftが提供するOpenAI技術のエンタープライズ向けクラウドサービス。高度なセキュリティと信頼性を実現
日本マイクロソフト株式会社(外部)
MicrosoftのAzureプラットフォームやAIサービスを日本市場で展開する日本法人の公式サイト
【参考記事】
NCプログラム自動生成のAIソフトウェアを提供するアルム株式会社にリード出資(外部)
DIMENSION株式会社によるアルムへの投資発表。製造AIの実現に向けた10年間のデータ蓄積と実行力を評価
アルムが総額7.6億円の資金調達を実施(外部)
2024年5月の資金調達発表。旋盤や研磨加工への対応、グローバル展開を視野に入れた開発加速を目指す
Azure OpenAI Serviceは何ができる?メリットや注意点、具体的な活用事例も解説(外部)
製造現場での口頭指示によるロボット操作など、Azure OpenAI Serviceの製造業での活用方法を詳しく解説
製造業の人手不足|浮き彫りになる問題とその解決策(外部)
熟練技能者の動作可視化や生成AIによる暗黙知の形式知化など、製造業の人手不足解消策を詳細に紹介
【編集部後記】
製造業の現場で、AIと人が自然な言葉で対話しながら複雑な加工を実現する――そんな未来がすぐそこまで来ています。アルムと日本マイクロソフトの取り組みは、技術の民主化という観点からも注目に値します。専門知識がなくても、学生でも、子どもでも、対話を通じて製造の世界に触れられる。この変化は、製造業の裾野を大きく広げる可能性を秘めています。一方で、AIが人の仕事をどこまで代替できるのか、熟練技能者の価値はどう変わっていくのか、といった問いも生まれます。みなさんは、この「対話する工作機械」が製造業にもたらす変化をどのように捉えますか? 技術の進化と人の役割について、一緒に考えていきましょう。






がもたらす「アンテザード・ソサエティ」の衝撃-300x200.png)





























