今日、2月1日は「テレビ放送記念日」です。 1953年(昭和28年)のこの日、NHK東京放送局が日本初となるテレビの本放送を開始しました。
当時の受信契約数は、わずか866件。 月給の数倍もする高価な受像機は、選ばれた富裕層や先端企業だけの「未来の箱」でした。そこから70年以上が経ち、テレビは「マスメディアの王様」として君臨しましたが、今、その玉座は静かに、しかし確実に揺らいでいます。
デバイスが「お茶の間の1台」から「個人の掌(スマホ)」に移った今、私たちはまだ旧来の「視聴率」という物差しでコンテンツを評価し続けていいのでしょうか?
メディアの価値測定の変遷と、AI時代における「新しいKPI」について考察します。

「お茶の間」という幻想と、世帯視聴率の限界
放送開始当時は、家族全員で1つの画面(お茶の間)を見るのが当たり前でした。そのため、「世帯(Household)」を視聴単位とする視聴率調査は合理的でした。
しかし、現代は「個」の時代です。 同じ屋根の下にいても、父親はリビングで野球中継を見ながら、娘は自室でスマホでYouTubeを見ている。この状況下で「世帯視聴率」をKPI(重要業績評価指標)にすることは、Webサイト解析で言えば、「ユニークユーザー(UU)」を見ずに「セッション数」だけを追っているようなものです。
「誰が」「どのくらいの熱量で」見ているかという、最も重要なコンテキストが欠落しているのです。
「見られている」から「動かした」へ
Webマーケティングの世界には、「バニティ・メトリック(Vanity Metrics:虚栄の指標)」という言葉があります。見栄えは良いが、実際のビジネス成果には直結しない数字のことです。これまで重視されてきた「PV(ページビュー)」や、テレビにおける「視聴率」も、現代ではこれに近づきつつあります。
現代のアテンション・エコノミーにおいて重要なのは、「何人が受動的にその画面をつけていたか」ではありません。「何人が能動的に心を動かされたか」です。
- 視聴後に検索行動を起こしたか?
- SNSでシェアしたか?
- 商品をカートに入れたか?
TVerなどのストリーミングサービスでは、すでに「完視聴率」や「エンゲージメント」が広告価値として認められ始めています。「なんとなくついている100万回」よりも、「食い入るように見られた1万回」の方が、ブランドにとって価値がある時代なのです。
次の「犯人」は誰か
メディアの歴史は、新しい技術が古いスターを殺す歴史でもあります。
1979年、バグルスは『Video killed the radio star(ラジオスターの悲劇)』と歌い、映像が音声メディアの王座を奪うことを予言しました。 それから半世紀。私たちは今、『Internet killed the video star』の時代を生きています。スマホとYouTube、そしてSNSは、お茶の間のテレビを過去のものにしました。
では、Internetを殺すのは誰でしょうか?
私は、それを成すのは「AI」だと考えています。
人々がブラウザでWebサイトを「回遊(サーフィン)」するのをやめ、AIエージェントとの対話だけで全てが完結するようになった時、私たちが知っている「インターネット(Web)」もまた、過去の遺物となるのかもしれません。
PVも、セッションも、視聴率も意味をなさなくなる「AI後の世界」。 1953年の今日、866件の契約から始まったテレビの歴史に想いを馳せつつ、私たちは今、次の時代の足音に耳をすませる必要があります。
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【用語解説】
KPI(重要業績評価指標)
組織やプロジェクトの目標達成度を定量的に測るための指標。記事内では、テレビ業界における「視聴率」が長らくこの役割を果たしてきたことを指している。
世帯視聴率
テレビを所有している世帯のうち、何世帯がその番組を視聴したかを示す割合。家族全員で一つのテレビを見ていた時代に定着した指標だが、個人の視聴実態を反映しにくいという課題がある。
ユニークユーザー(UU)
特定の期間内にWebサイトやアプリを訪問した「個人」の数。延べ訪問回数(セッション)とは区別され、純粋な利用者の規模を測るために用いられる。
セッション数
ユーザーがWebサイトなどを訪問してから離脱するまでの一連の行動を「1回」と数えたもの。同一人物が朝と夜にアクセスすれば、UUは1だがセッションは2となる。
バニティ・メトリック(虚栄の指標)
PV(ページビュー)やSNSのフォロワー数など、見かけの数字は大きいが、実際のビジネス成果(売上や利益)との相関性が低い指標のこと。
アテンション・エコノミー(関心経済)
情報の受け手の「関心(アテンション)」を希少な資源と捉え、メディアや企業がその獲得を競い合う経済活動の概念。
Video killed the radio star(ラジオ・スターの悲劇)
イギリスのバンド「バグルス」が1979年に発表したヒット曲。テレビ(映像)の台頭によってラジオ(音声)のスターが過去のものになる哀愁を歌っており、メディアの世代交代を象徴するフレーズとして引用される。
AIエージェント
ユーザーの意図を理解し、検索や予約、購入などのタスクを自律的に実行するAIシステム。記事では、これが普及することで従来の「Web検索」という行動自体がなくなる可能性を示唆している。
【参考リンク】
日本放送協会(NHK)(外部)
1953年2月1日、東京・内幸町の東京放送会館から日本初のテレビ本放送を開始しました。当時の第一声や放送開始時の映像は、同協会のアーカイブスでも一部紹介されています。
NHK放送博物館(外部)
世界最初の「放送専門の博物館」として東京・愛宕山に所在。1953年当時のテレビカメラや、当時の受信機(テレビ受像機)の実物など、放送の歴史を物語る貴重な資料が展示されています。






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