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ガバメントAI「源内」、全府省庁18万人へ—国産LLM7選で始まる日本のAI主権

18万人の官僚がAIと共に働く時代が、いよいよ現実のものとなる。日本政府が「源内」と名付けた国産AI基盤を全府省庁へ展開し、霞が関のかたちを根本から変えようとしている。


デジタル庁は、生成AI利用環境「源内(げんない)」の大規模実証を2026年5月から2027年3月まで実施すると3月6日に発表した。対象は全府省庁の約18万人の政府職員だ。2025年12月19日開催の第3回人工知能戦略本部において、高市内閣総理大臣が2026年5月から10万人以上の政府職員が活用できる環境の整備を指示した。

同年12月23日のAI基本計画閣議決定でも、政府自らが先導的にAIを利活用することが決定された。令和7年度補正予算を活用し、国会答弁作成支援AIの開発、厚生労働省雇用環境・均等局との連携AIアプリ構築、大規模データセット整備など複数のプロジェクトを並行して推進する。2027年度に源内の本格利用を開始する予定だ。国産LLMの育成・強化および源内に係るソースコードのOSS化も検討中だ。

From: 文献リンク全府省庁の約18万人の政府職員を対象としたガバメントAI(源内)の大規模実証を開始します|デジタル庁

【編集部解説】

「源内」という名前は、江戸時代の発明家・平賀源内に由来します。電気という未知の力を操った人物の名を冠したこのAIプラットフォームが、今度は18万人の官僚たちの働き方を根本から変えようとしています。

今回のニュースで最も注目すべきは、単なる「AIツール導入」ではなく、日本政府がAI主権(AI Sovereignty)を明確に意識した動きだという点です。デジタル庁は国産LLMの公募を実施し、応募15件の中から7件を選定しました。選ばれたのはNTTデータの「tsuzumi 2」、KDDIとELYZAの共同応募「Llama-3.1-ELYZA-JP-70B」、ソフトバンクの「Sarashina2 mini」、NECの「cotomi v3」、富士通とCohere Inc.が共同開発した「Takane 32B」、Preferred Networksの「PLaMo 2.0 Prime」、そしてカスタマークラウドの「CC Gov-LLM」の7モデルです。なお、大規模実証自体は2026年5月に始まりますが、この国産LLM7モデルの源内への試用開始は2026年8月頃を予定しており、段階的に組み合わされていく設計です。ChatGPTやGeminiといった海外製AIではなく、国産モデルを軸に据えることで、データ主権とセキュリティを確保しようという強い意志が読み取れます。

商用AIとの最大の差異は「機密情報へのアクセス権限」です。源内は政府が内製したシステムであるため、機密性2情報(一般の職員が業務上扱う非公開情報)を取り扱える設計になっています。海外の商用AIサービスでは原則として機密データを入力できないため、ここが官民の決定的な分岐点となります。

業務への具体的な影響として特に興味深いのが、国会答弁作成支援AIの開発です。霞が関では従来、一つの国会質問に対して複数の想定問答を夜遅くまで準備するのが常態化していました。AIが草案と想定追加質問への回答を自動生成し、職員がレビューする形に移行すれば、深夜残業の大幅削減が期待されます。富士通とCohere Inc.が共同開発した「Takane」を使った実証では、約12万字のパブリックコメントデータの分類・集約を約10分で処理できたという結果も出ています。

一方で、リスクの側面も無視できません。最大の懸念はハルシネーション(AIの誤情報生成)です。行政文書に誤った情報が混入した場合、その影響は市民生活に直結します。デジタル庁が選定基準にハルシネーション対策を明記したのはそのためですが、18万人規模の利用環境では一定の誤用や誤情報混入は避けられないでしょう。ガバナンス体制、すなわちCAIO(最高AI責任者)によるモニタリングがどこまで機能するかが鍵を握ります。

源内のソースコードをOSS(オープンソースソフトウェア)化する方針も検討中です。実現すれば、地方自治体や民間企業が同じ基盤を活用できるようになり、日本全体のAI活用インフラとして波及する可能性があります。これは単なる政府DXを超えた、AIエコシステム構築への布石と見ることができます。

長期的な視点では、2027年度の本格導入後に蓄積されるフィードバックデータが、国産LLMの性能向上に直結します。政府が「大口顧客」として国産AIを継続的に調達することで、民間のAI投資も喚起される好循環が生まれる設計です。日本がAI分野でグローバルな自律性を確保できるかどうか、その試金石が今まさに始まろうとしています。

NotebookLMで解説動画を作成しました

【用語解説】

LLM(大規模言語モデル)
Large Language Modelの略。膨大なテキストデータを学習させた人工知能の基盤技術だ。ChatGPTやGeminiもLLMを核に構築されており、文章生成・翻訳・要約など多様な言語タスクをこなす。今回の源内は国産LLM7種を評価・活用する。

ハルシネーション
生成AIが事実と異なる情報を、あたかも正確であるかのように出力してしまう現象だ。「幻覚」とも訳される。行政文書への混入リスクがあるため、デジタル庁は選定基準にハルシネーション対策を明記した。

OSS(オープンソースソフトウェア)
ソースコードを一般公開し、誰でも閲覧・改変・再配布できるソフトウェアのことだ。源内のOSS化が実現すれば、地方自治体や民間企業も同じ基盤を活用・改良できるようになる。

CAIO(最高AI責任者)
Chief AI Officerの略。各府省庁においてAI活用の方針策定・ガバナンス・リスク管理を統括する責任者のことだ。今回の大規模実証ではCAIOによる監理体制の構築が義務付けられる。

AI主権(AI Sovereignty)
AIシステムの開発・運用・データに関する自律的な管理権のことだ。外国製AIに依存せず、自国でLLMを育成・調達することで、安全保障上のリスクを低減する概念として国際的に注目されている。

機密性2情報
政府が定める情報セキュリティ基準で、「関係者以外に流出した場合に業務上の支障が生じる可能性がある情報」を指す。外部の商用AIクラウドには原則入力できないが、政府内製の源内ではこの水準の情報を扱える設計となっている。

【参考リンク】

デジタル庁(外部)
日本のデジタル改革を推進する政府機関。ガバメントAI「源内」の開発・運営主体であり、全府省庁のDX・AI利活用を統括する。

富士通株式会社(Takane)(外部)
「Takane 32B」をCohere Inc.と共同開発した日本最大手のITベンダー。行政向け実証で12万字を10分で処理する実績を持つ。

Preferred Networks(PLaMo)(外部)
「PLaMo 2.0 Prime」と翻訳モデル「PLaMo Translate」を開発した日本のAIスタートアップ。源内に稼働実績あり。

ELYZA(外部)
KDDIとの共同応募でガバメントAI源内に採用された東京大学発の日本語LLM「ELYZA」の開発元スタートアップ。

NEC(cotomi)(外部)
日本語特化LLM「cotomi v3」を開発し源内向け国産7モデルに選定された大手IT企業。政府・公共分野に実績を持つ。

【参考動画】

【参考記事】

Japan to Roll Out Government-Built AI Tool to Ease Bureaucrats’ Workload(外部)
日本政府が官僚の業務負担軽減のため内製AI「源内」を展開すると報じる英語記事。機密データへの対応や商用AIとの違いも解説している。

Fujitsu’s Takane LLM Successfully Piloted in Central Government(外部)
富士通とCohere共同開発LLM「Takane」の実証レポート。約12万字のパブコメを約10分で処理した数値データを含む英語公式記事。

Digital Agency to Begin Testing AI Use for Administrative Tasks in May(外部)
2026年5月から行政AIのテストを開始すると報じたJapan Timesの記事。国会答弁作成支援AIへの言及もあり。

Japan’s ‘Gennai’ AI Initiative: A Leap Towards Digital Governance by 2026(外部)
源内の命名由来(平賀源内)やAI基本計画との連携・AI主権の観点から源内を詳細に分析した英語解説記事。

PFN’s PLaMo Translate to Be Adopted by Japan’s Government AI Project(外部)
PLaMo TranslateがデジタルAI源内に採用された経緯と技術的位置付けを解説するPreferred Networks公式英語記事。

OpenAI Announces Strategic Collaboration with Japan’s Digital Agency(外部)
OpenAIと日本デジタル庁の戦略的連携を報じる公式記事。源内初期に活用された経緯と国産LLMへのシフトの背景が読み解ける。

【編集部後記】

「源内」という名前を聞いて、みなさんはどんな未来を想像しますか?

18万人の官僚がAIと共に仕事をする社会は、私たちの公共サービスをどう変えていくのでしょう。国産AIが政府の中枢で育ち、やがて社会全体に広がっていく—そんな変化の入り口に、私たちは今立っているのかもしれません。ぜひ、みなさんの声を聞かせてください。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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