2026年3月3日、Fairy Devices株式会社とアスラテック株式会社は、ホームセンターで調達可能な汎用部材を用いて構築できる「オープンソース・スマートパワードスーツ基盤」の共同開発プロジェクトを始動した。
本プロジェクトでは、フェアリーデバイセズの知能化基盤「THINKLET Core」(仮称)とアスラテックのロボット制御システム「V-Sido」を統合し、状況に応じて制御・構成を動的に変更できるスマートパワードスーツの開発プラットフォームを提供する。コア部分はオープンソース化される。
第一弾のプロトタイプは2026年3月7日に東京ミッドタウン・ホールで開催される「未踏会議2026 MEET DAY」にて展示される。
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フェアリーデバイセズとアスラテック、ホームセンターの資材で製作可能な「オープンソース・スマートパワードスーツ」の共同開発プロジェクトを始動

【編集部解説】
パワードスーツという言葉を聞くと、多くの人がSFのイメージを思い浮かべるかもしれません。しかし今回の発表は、そのパワードスーツを「誰でも作れる時代」へと引き寄せる、極めて実践的なアプローチです。
今回の発表の本質は、完成品の販売ではなくプラットフォームの提供にあります。ホームセンターで入手できる部材を使い、コア部分をオープンソース化することで、これまで大企業や研究機関にしか手が届かなかったパワードスーツ開発の敷居を、個人・中小企業・スタートアップレベルにまで引き下げることを目指しています。この「民主化」という発想は、3DプリンターやRaspberry Piがたどってきた道と重なります。
技術的な構成も整理しておきましょう。今回の統合の核心は、「脳」と「脊椎」の役割分担です。Fairy DevicesのTHINKLET Coreが周囲の状況を認識・判断するAI層を担い、アスラテックのV-Sidoがその指令を受けて実際の関節制御・姿勢安定化を行います。アスラテック自身のFAQでも、V-SidoはAIではなく「ロボットの小脳」であると明言しており、AI判断機能は別途必要でした。今回の連携は、この両者の空白を埋める構成として理にかなっています。
ここで注目すべき背景があります。V-Sido自体は、2009年にIPA(独立行政法人情報処理推進機構)の「未踏IT人材発掘・育成事業」から生まれたシステムです。今回のプロトタイプ展示先が「未踏会議」であることは、単なる偶然ではなく、V-Sidoの出発点に立ち戻る象徴的な場でもあります。
ポジティブな側面として、産業現場への影響は大きいものがあります。建設・物流・農業・製造といった現場では、人手不足と高齢化が深刻であり、身体拡張技術への需要は切実です。従来の専用機型パワードスーツは構造が固定されているため、現場ごとの細かなニーズに応えにくく、かつ高価でした。オープンソースのプラットフォームとして提供することで、各現場が自分たちのニーズに合わせてカスタマイズできる余地が生まれます。
一方で、潜在的なリスクも見過ごせません。プレスリリース自体も「個別の組み立て結果や動作の安全性を保証するものではない」と明記しています。人体に直接装着する機器である以上、誤った組み立てや制御の不具合が身体的な被害につながるリスクは常に存在します。オープンソース化は自由度を高める反面、品質管理の責任をユーザー側に委ねることでもあり、安全基準や規制との整合性は今後の課題です。
規制面でも注目すべき点があります。現在パワードスーツは、ISO 13482(パーソナルケアロボットの安全性に関する国際規格)の「人間装着型(Physical assistant robot)」として安全評価の対象となりますが、日本ではパワードスーツ専用の法規制はまだ整備されていません。市場が拡大するにつれ、特にオープンソース型の機器に対してどのような規制的枠組みを設けるかという議論が、避けられないフェーズに入ってきます。
長期的な視点では、このプロジェクトが目指すのは「スマートパワードスーツを作る世界標準のプラットフォーム」となる可能性があります。世界のウェアラブルロボット・外骨格市場は複数の調査機関が急成長を予測しており(※後述の参考記事参照)、その成長局面においてオープンな開発基盤を先に押さえることは、エコシステム形成において大きなアドバンテージになり得ます。2026年3月7日の「未踏会議」での初プロトタイプ展示は、あくまでスタート地点に過ぎません。
【用語解説】
オープンソース
ソフトウェアやハードウェアの設計情報を公開し、誰でも自由に閲覧・改変・再配布できる開発スタイルのこと。LinuxやArduinoなどが代表例。今回は「コア部分をオープンソース化」することで、企業や個人が自由にパワードスーツを開発・改良できる基盤を提供する。
知能化基盤
センサーやカメラから得た現実世界の情報をAIが認識・判断し、接続された機器に最適な指示を出す仕組み全体を指す。今回のTHINKLET Coreはその役割を担い、パワードスーツの「脳」として機能する。
人間拡張プラットフォーム
ウェアラブルデバイスやロボット技術を活用して、人間の身体能力や認知能力を補助・拡張する技術基盤の総称。今回のプロジェクトはその産業現場向け実装を民主化しようとするものである。
ISO 13482
2014年にISO(国際標準化機構)が発行した「パーソナルケアロボット(生活支援ロボット)の安全性に関する国際規格」。人間装着型(Physical assistant robot)・移動作業型・搭乗型の3タイプを対象としており、パワードスーツは「人間装着型」として本規格の適用範囲に含まれる。日本ではパワードスーツ専用の法規制は存在せず、本規格が主な安全評価の参照基準となっている。
未踏IT人材発掘・育成事業(未踏事業)
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が運営する、突出したIT人材の発掘・育成を目的とした国の支援プログラム。今回展示会場となる「未踏会議」はその成果発表の場であり、V-Sido自体も2009年に本事業から生まれた技術である。
【参考リンク】
Fairy Devices株式会社 公式サイト(外部)
「Empower AI to Empower Humans」をビジョンに掲げる東京都文京区のAIスタートアップ。首掛け型ウェアラブルデバイスTHINKLETを中心に現場DX向けAIプラットフォームを開発・提供。2007年設立。
アスラテック株式会社 公式サイト(外部)
ロボット制御システム「V-Sido(ブシドー)」を中核とするソフトバンクグループのロボット専業メーカー。2013年設立。ロボット開発支援・コンサルティングも手がける。
THINKLET 開発者ポータル(外部)
Fairy DevicesによるTHINKLET向けアプリ開発の公式ドキュメントサイト。SDK・APIの仕様、サンプルコード、開発ガイドが公開されている。
V-Sido 製品ページ(アスラテック)(外部)
リアルタイム性と安定性を特徴とするV-Sidoの公式製品ページ。多様な形状・サイズのロボットに対応し、主に法人向けライセンスで提供されている。
未踏会議2026 公式サイト(IPA)(外部)
IPAが主催する未踏人材育成事業の成果発表イベント公式サイト。本プロジェクトのプロトタイプが初公開された場。2026年3月7日、東京ミッドタウン・ホールにて開催。
【参考記事】
Wearable Robotic Exoskeleton Market Size, Share [2026-2034] | Fortune Business Insights(外部)
世界のウェアラブルロボット外骨格市場規模を予測。2025年の約24.9億ドルから、2034年には642.3億ドルへ成長、CAGRは43.7%と試算されている。
Wearable Robots and Exoskeletons Market | Mordor Intelligence(外部)
市場規模は2025年に約33.7億ドル、2030年までに135.2億ドルへ達すると予測。CAGRは32.05%。アジア太平洋地域が最も高い成長率を示すとみられる。
Exoskeleton Market by Component – Global Forecast to 2030 | MarketsandMarkets(外部)
外骨格市場は2025年の5.6億ドルから2030年に20.3億ドルへ成長(CAGR 29.4%)。AI統合や医療用外骨格のFDA承認が拡大の主要因とされている。
V-Sido OS | アスラテック株式会社(英語版)(外部)
V-SidoのリアルタイムスタビリティとAI非依存の制御設計を説明した公式ページ。複数メーカーのサーボモーター・油圧・空圧に対応する汎用性が強みである。
Humanoid ASRA C1 and V-Sido Robot Operating System Unveiled by SoftBank | IEEE Spectrum(外部)
アスラテックとV-SidoをIEEEが取り上げた技術解説記事。ASRA C1とV-Sidoのリアルタイム制御の仕組みが詳述されている。
OpenExo: An open-source modular exoskeleton to augment human function | Science Robotics(外部)
オープンソース外骨格フレームワーク「OpenExo」の学術論文。設計情報の完全公開で研究参入障壁を下げる試みを報告。今回のプロジェクトと問題意識を共有している。
サービスロボット(ISO 13482)| JQA(日本品質保証機構)(外部)
ISO 13482の適用範囲・3タイプ・認証プロセスを解説。パワードスーツが「人間装着型(Physical assistant robot)」として対象となることが確認できる。
【編集部後記】
「ホームセンターの部材でパワードスーツが作れる時代」——この言葉を聞いて、何を感じましたか?ワクワクした方も、少し不安を覚えた方もいるかもしれません。
身体拡張技術が”誰かの専有物”から”みんなの道具”へと変わっていくとき、私たちは何を作り、どう使っていくのか。もしあなたが自由にパワードスーツを設計できるとしたら、どんな現場で、誰のために使いたいですか?ぜひ一緒に考えてみてください。







































