ChatGPTでもGeminiでもない——日本生まれのAIが、国の行政基盤に採用される時代が静かに始まろうとしている。NECが2年かけて磨き上げた「cotomi v3」が、その最前線に立った。
2026年3月9日、日本電気株式会社(NEC)は、同社開発のLLM「cotomi v3」がデジタル庁の公募「ガバメントAIで試用する国内大規模言語モデル(LLM)」に選定されたと発表した。今後、NECは政府が進める試用評価に連携・協力する。
cotomiの特長は、高い日本語性能、軽量・高速なモデル設計、独自の学習方法による業界特化モデルへの対応、AIエージェント向けの推論性能の4点だ。安全性面では、AIガードレール機能の整備、学習データの法令順守、包括的な評価体制など複数の取り組みを進めている。
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NEC、「ガバメントAIで試用する国内大規模言語モデル(LLM)」に選定

【編集部解説】
cotomi v3の前身を振り返ると、その進化の速さが際立ちます。2023年7月にv1として登場した際は130億パラメータ、日本語理解ベンチマークJGLUEで知識量81.1%・文書読解力84.3%を記録しました。2024年12月のv2では、Japanese MT-BenchでClaude・GPT-4・Qwenに匹敵する精度を達成しつつ、GPU演算効率を2倍に向上させ消費電力を従来比1/2に削減。わずか2年足らずで国際的な水準に肩を並べた軌跡は、cotomiの開発スピードを端的に示しています。
2025年7月リリースのv3では、従来のPro/Fastという2モデル構成を一本化し「Fast並みの速度とPro並みの性能」を統合した上で、エージェント機能を大幅に強化しています。具体的にはAIエージェントのプロトコル標準であるMCP(Model Context Protocol)に準拠し、入出力トークン長を128K(日本語換算で約20万語)に拡大。複雑な業務指示や複数制約条件を同時処理できる設計が、行政現場での「複数システムを横断した情報収集・文書生成・承認フロー」といった複合業務に対応する基盤となっています。
業界特化モデルへの展開にも注目が必要です。cotomiは独自のデータ加工・学習方法により、特定業種の専門知識を効率的に学習する仕組みを持っています。行政実務の試用評価で成果を上げれば、「官公庁特化モデル」として医療・金融に続く業種特化の展開が加速する可能性があります。
慎重に見るべき点もあります。今回の公募ではcotomiを含む国内LLM7件が横並びで評価されるという競争構造になっており、2027年度の本格調達に向けて他モデルとの差別化を実証する必要があります。また、政府のガバメントクラウド上での動作や「機密性2情報」への対応は、試用評価を経て初めてその実力が検証されます。「源内」全体のプロジェクトについては、当メディアの関連記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。
【用語解説】
LLM(大規模言語モデル)
Large Language Modelの略。膨大なテキストデータを学習し、文章生成・要約・質問応答などを行うAIモデルの総称である。cotomiもこのLLMの一種だ。
AIエージェント
ユーザーの指示に基づき、AIが自律的にタスクを分解・計画し、外部サービスやシステムと連携しながら業務を自動実行する仕組みだ。cotomi v3はこのエージェント機能の強化を主要な改良点のひとつとしている。
MCP(Model Context Protocol)
AIエージェントが外部ツールやサービスと連携する際の通信プロトコル標準だ。MCP準拠により、異なるAIシステムや業務アプリとの統合が容易になる。cotomi v3はこの規格に対応している。
AIガードレール
AIが不適切・有害な出力をしないよう制御する安全機構の総称だ。行政文書への誤情報混入や機密情報の漏洩リスクを低減するために設けられる。
BluStellar(ブルーステラ)
NECが掲げる価値創造モデルの名称で、業種横断の知見と最先端技術を組み合わせたNECの事業戦略フレームワークだ。cotomiはこのモデルのコアテクノロジーに位置づけられている。
【参考リンク】
NEC 生成AI「cotomi」公式サイト(外部)
cotomiの技術仕様・特長・活用シーンを詳解するNEC公式ページ。v3の強化ポイントやエージェント性能が確認できる。
NEC 生成AI総合ページ(外部)
NECが提供する生成AIサービス全体の入口となる公式ページ。cotomiを中核としたAIサービスの全容を把握できる。
内閣府「人工知能基本計画」(外部)
「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」を目指す日本政府の基本計画。NECが賛同を表明している政策方針の一次資料だ。
【関連記事】
全府省庁18万人へ—国産LLM7選で始まる日本のAI主権(innovaTopia関連記事)
ガバメントAI「源内」全体の選定プロセスと7モデルの競争構造を解説した既報記事。本記事と合わせてご覧ください。
【参考動画】
【参考記事】
NEC開発の生成AI「cotomi」—v2/v3の最新バージョン情報とAIエージェント機能の概要(外部)
cotomi v1〜v3の性能変遷を時系列で整理。JGLUEスコアやGPU効率2倍など具体的な数値データを含む解説記事。
NEC、生成AI「cotomi」の性能強化でAIエージェントの活用を加速(NEC公式プレスリリース)(外部)
2025年7月発表のcotomi v3公式リリース。MCP準拠・128Kトークン対応など技術強化内容を詳解する一次資料。
NEC、独自開発LLM「cotomi」のエージェント性能を強化──128K対応とMCP準拠(外部)
cotomi v3のエージェント性能強化を技術的観点から解説。128Kトークン長対応とMCP準拠の意義をまとめた記事。
ガバメントAIで試用するLLMを選定──5月から政府職員18万人で実証(外部)
選定された7件のLLMの実証試験開始と2027年3月までの評価・検証の全体像を報じたZDNet Japan記事。
Digital agency to begin testing AI use for administrative tasks in May(外部)
2026年5月からの行政AI試験の開始時期・規模・背景をJapan Timesが英語で報道。国際的な文脈から読み解ける。
【編集部後記】
「日本製のAI」と聞いて、みなさんはどんな印象を持つでしょうか。ChatGPTやGeminiに慣れた目には、少し地味に映るかもしれません。でも、v1からv3へのわずか2年間の進化—GPU効率の倍増、GPT-4水準への到達、そしてエージェント機能の実装—を追うと、cotomiが着実に「使える国産AI」へと育ってきたことが見えてきます。
この実証の先に、私たちの行政サービスや日常がどう変わっていくのか、一緒に見守ってみませんか。







































