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ブッダロイド|京都大学が開発した仏教AIヒューマノイドロボットが「身体性」を獲得

AIとロボティクスの進歩により、人間の知識や価値観を「対話できる存在」として具現化する試みが現実のものになりつつある。宗教や哲学といった伝統的な知の領域も例外ではなく、AIが精神的な対話相手となる可能性が模索され始めている。

その象徴的な事例の一つが、京都大学の研究チームなどが開発を進めている仏教AIヒューマノイドロボット「ブッダロイド」だ。このプロジェクトは2026年2月25日に公表されたもので、Unitree Robotics社製のヒューマノイドロボット「Unitree G1」に、仏教対話AI「ブッダボット」を組み込んだものとなっている。

ブッダロイドは、従来のチャットボットやAR・VRによる宗教体験とは異なり、実体を持つロボットとして人と向き合う「身体性」を備える点が特徴だ。対面環境での存在感を伴うコミュニケーションにより、仏教的な教えや精神的対話を新しい形で提供することが目指されている。

本研究は2026年2月5日に開催された国際シンポジウム「University of Zurich – Kyoto University Symposium 2026」で紹介され、同年2月25日付の産経新聞および毎日新聞でも報じられている。

From: 文献リンク仏教AIヒューマノイドロボット「ブッダロイド」の開発―身体性を獲得した仏教AIと対面での触れ合いを実現―|京都大学

【編集部解説】

「ブッダロイド」という名前だけを聞くと、SF映画の一場面を想起させるかもしれません。しかし、この研究が生まれた背景には、日本の宗教インフラが直面する極めて現実的な危機があります。

日本には現在、約7万5,000か所の仏教寺院が存在しますが、その多くが深刻な後継者不足に悩んでいます。地方における人口減少と若年層の宗教離れが重なり、2040年までに仏教寺院の約30%が消滅すると予測されています。僧侶が常駐できない寺院では、葬儀や法要といった宗教儀礼の提供そのものが困難になりつつあり、「ブッダロイド」はこうした社会的文脈のなかで生まれたプロジェクトです。

技術的な観点から見ると、ブッダロイドの対話システムは「BuddhaBot-Plus」と呼ばれ、OpenAIのChatGPTをベースに構築されています。まず仏教経典のフレーズを用いて回答の骨格を生成し、そこにOpenAIの大規模言語モデルによる解釈・補足説明を加えるという二段構えの構造を持ちます。ロボット本体にはUnitree Robotics(中国・浙江省杭州市)製の「Unitree G1」を採用。荘厳な歩行動作、礼拝姿勢、合掌といった仏教的所作を実行できるよう専用のトレーニングが施されています。

これに先行する宗教ロボットとして、2019年に京都の高台寺に導入された観音菩薩型ロボット「マインダー(Mindar)」があります。ただしマインダーは制作費約1億円をかけて作られたにもかかわらず、事前収録された説法を再生するにとどまっていました。ブッダロイドが一線を画すのは、リアルタイムの双方向対話と身体的存在感を組み合わせた点にあります。青蓮院門跡での公開デモでは、「現代社会にはどのような教えが必要か」という問いに対し、ブッダロイドは「内なる平和を培い、互いを傷つけず、ルールに従うことが重要だと考えます」と応じました。

ポジティブな可能性として特筆すべきは、24時間対応という点です。常駐僧侶のいない寺院でも継続的な精神的サポートを提供できる可能性があり、また人間には打ち明けにくい個人的な悩みを相談しやすい環境が生まれる、という側面も期待されています。

一方、潜在的なリスクと課題も見過ごせません。「機械が人間の苦しみを本当に理解できるのか」という根本的な問いは、仏教者のあいだでも賛否が分かれています。また、ブッダロイドはOpenAIのインフラに依存していますが、生成AIが宗教的な文脈で誤った、あるいは教義から逸脱した回答を生成するリスクへの対策については、現時点で明確な情報は公開されていません。現在はまだテスト段階にあり、エンジニアが回答を監視しながら改善を続けているとのことです。

宗教×AIロボットという組み合わせは、規制面でも新たな議論を呼びます。宗教的権威や儀礼の定義、AIによる宗教行為の法的・倫理的位置づけをどう整理するかは、日本のみならず国際社会でも前例のない課題となるでしょう。熊谷教授は「伝統知テック」という言葉を用い、仏教にとどまらずさまざまな宗教・哲学とテクノロジーを融合させる研究を続ける姿勢を示しています。

長期的な視点では、ブッダロイドの意義はロボット仏教という一点にとどまりません。経営哲学や経済理論を学習した「哲学的AIヒューマノイドロボット」への応用可能性が研究チームから示唆されており、コンサルティングや倫理的意思決定支援など、宗教以外の領域への展開も視野に入り始めています。テクノロジーが人間の「知恵の継承」そのものを担う時代の入り口に、私たちは今立っています。

【用語解説】

ブッダボット(BuddhaBot)/BuddhaBot-Plus
京都大学熊谷ラボとテラバースが開発した仏教対話AIシステム。初代ブッダボット(2021年)は仏教経典の文言をそのまま返す仕組みだったが、BuddhaBot-Plusでは経典フレーズによる回答生成とOpenAIの大規模言語モデルによる解釈・補足説明を組み合わせた二段構えの構造へと進化している。

身体性(エンボディメント)
認知科学・哲学における概念で、思考や感情が脳だけでなく身体全体を通じて形成されるという考え方。ブッダロイドの文脈では、テキストや音声だけのやり取りでは生まれにくい「物理的な存在感」を指す。人間は身体を持つ存在と対面することで、画面越しの対話とは異なる心理的・感情的な印象を受けるとされている。

伝統知テック
熊谷誠慈教授が提唱するコンセプト。仏教・儒教・神道などの伝統的な宗教・哲学の知恵と、AIやロボティクスなどの先端テクノロジーを融合させ、新たなデジタル文化・プロダクトを生み出す研究・開発の方向性を指す。

AR(拡張現実技術)
現実の映像にデジタル情報を重ね合わせて表示する技術。ブッダロイドの前段階となる「テラ・プラットフォームver1.0」(2022年)では、このAR技術を用いて視覚・聴覚コミュニケーションを実現していた。

マインダー(Mindar)
2019年に京都の高台寺に導入された観音菩薩型のアンドロイドロボット。制作費は約1億円。事前収録された法話を再生する形式で、自由な双方向対話や自律歩行はできない。ブッダロイドと対比して語られることが多い先行事例である。

【参考リンク】

京都大学 人と社会の未来研究院(外部)
熊谷誠慈教授が所属する研究機関。ブッダロイドをはじめ宗教AIプロダクトの研究拠点として知られる。

株式会社テラバース(外部)
伝統知とテクノロジーの融合をミッションとする京都発AIスタートアップ。熊谷教授がCIOを兼任している。

株式会社XNOVA(外部)
京都市に本社を置くロボティクス・AIスタートアップ。ブッダロイドのハードウェア統合と制御設計を担当した。

Unitree Robotics 公式サイト(外部)
2016年創業の中国・杭州市発ロボティクス企業。ブッダロイドのベースとなったUnitree G1を製造・販売している。

Unitree G1 製品ページ(外部)
ブッダロイドの本体に採用されたヒューマノイドロボットの公式ページ。身長約132cm・重量35kg・最大43自由度を持つ。

【参考動画】

Euronews Next|Meet Buddharoid: Japan’s AI-powered robot monk
青蓮院門跡でのブッダロイド公開デモと熊谷教授へのインタビューを収録した、Euronews(仏)による英語レポート映像。

【参考記事】

Kyoto University Researchers Introduce AI-Powered ‘Buddharoid’|Buddhistdoor Global(外部)
仏教専門メディアによる分析記事。約7万5,000か所の寺院と後継者不足の社会的背景を詳しく論じている。

Meet ‘Buddharoid,’ an AI-Powered Robot Monk|Tokyo Weekender(外部)
2040年の寺院消滅予測約30%や高台寺Mindar(制作費約1億円)との比較など、数値を交えた考察を含む。

AI Robot ‘Buddharoid’ Brings 24/7 Spiritual Guidance to a Kyoto Temple|TechTimes(外部)
24時間対応のメリットと「機械が苦しみを理解できるか」という信仰上の問いを同時に論じた記事。テスト段階の詳細も明記。

Japan unveils humanoid robot monk trained in Buddhist scriptures|Interesting Engineering(外部)
MindarとブッダロイドのAI技術差異を比較。生成AIと汎用ヒューマノイドの「二つの波の同時到来」という視点が鋭い。

Japan Unveils First AI Buddhist Monk Robot|Greek Reporter(外部)
青蓮院でのデモ詳細とBuddhaBot-PlusのChatGPTベース構成を明記。「補助であり代替ではない」という開発姿勢を丁寧にレポート。

【編集部後記】

ロボットに悩みを打ち明けるとき、あなたはどんな気持ちになるでしょう?人間だから話せないこと、逆に機械だから話せることが、きっとあるはずです。

テクノロジーと精神文化の交差点に生まれたブッダロイドは、私たちに「対話とは何か」を静かに問いかけているように思えてなりません。みなさんはどう感じますか?

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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