NTT西日本株式会社は2026年3月16日、AI音声事業「VOICENCE」を活用した音声CMシリーズ「知っている2人」を各種音声配信サービスで公開した。CMでは俳優・別所哲也の声をAIで再現し、上司と部下の2役を1人で演じる掛け合い形式を採用した。同日、CM全6編とメイキング映像を収録した特設サイト(https://www.ntt-west.co.jp/brand/voicence/)も公開された。
NTT西日本公式Xでは3月16日から19日まで参加型企画「上司に言われたいひとこと」を実施し、選ばれたフレーズは別所哲也のAI音声で読み上げるコンテンツとして公開予定だ。VOICENCEカンパニーは2025年10月27日に設置された社内独立組織で、カンパニー長兼CEOは花城高志。本社は大阪市都島区東野田町四丁目15番82号QUINTBRIDGE 3Fに置く。
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【NTT西日本】AI音声で別所哲也が1人2役!NTT西日本が「VOICENCE」を活用した音声CMを展開

【編集部解説】
今回のニュースの表層は「別所哲也さんのAI音声を使ったCM」ですが、本質はもっと深いところにあります。NTT西日本がここで問いかけているのは、「声というものをどう権利化し、どう経済圏に変えるか」という、生成AI時代の根本的な問いです。
VOICENCEという名称は、Voice(声)・Licence(権利)・Essence(本質)を組み合わせた造語です。今回の音声CMは、その事業の「見せ方」のひとつに過ぎません。NTT西日本が本当に構築しようとしているのは、「声の正規ライセンス市場」そのものです。
技術的な核心は「トラスト技術」にあります。これはパブリックブロックチェーンとVC(Verifiable Credentials=検証可能な資格情報)を組み合わせた3層構造で、①声の出所(本人が公認した声であること)、②トレーサビリティ(どのAIモデルから生成されたか)、③用途証明(どんな契約条件で使われるか)を改ざん不可能な形で記録します。NTTテクノクロスの特許技術を採用したこの仕組みは、2025年度のNEDO「GENIAC-PRIZE」でも採択されており、第三者からの外部評価も得ています。
なぜこれが重要かといえば、日本には現時点で「声の権利」を直接保護する明文法が存在しないからです。現行法では肖像権・パブリシティ権や不正競争防止法での対応が限界であり、著作隣接権はAIによる模倣音声には原則適用されません。著名人以外の一般人が無断でAI音声を生成された場合の救済手段は、著名人以上に限られています。2025年6月にAI新法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)が公布されましたが、これはあくまで基本法的なものであり、EUのAI Actのような具体的な規制条項とは大きく異なります。法整備が追いつかない状況の中、VOICENCEは「技術で先に信頼基盤を作る」という戦略をとっています。
ポジティブな側面として、このプラットフォームが普及すれば、俳優・声優・アーティストは自分の声をIPとして安全に商業活用できるようになります。多言語対応(日本語・英語・中国語・韓国語・フランス語・スペイン語の6カ国語)も備えており、日本のコンテンツを声ごとグローバルに届けるインフラになり得ます。経済産業省の調査では、国内コンテンツ産業の市場規模は約17兆円に上り、海外売上はこの10年で約3倍に拡大しています。VOICENCEが狙う「声の経済圏」は、その成長の延長線上にあります。
一方、潜在的なリスクとして、契約条件の透明性や交渉力格差が新たな課題になる可能性があります。プラットフォームが普及するにつれ、契約力の弱い若手実演家が不利な条件で声を提供させられるリスクは無視できません。また、「本人公認のAI音声である」という証明が技術的に担保されても、その声を使ったコンテンツの内容・文脈まで実演家が管理できるかどうかは、別の問題です。
中長期的な視点では、VOICENCEが「声の真正性が担保されたAI音声コンテンツのデファクトスタンダード化」を目指していることが重要です。今後、声優・俳優の所属事務所や放送局、広告代理店がこのプラットフォームに乗ってくれば、日本独自の「声のIPエコノミー」が形成されます。それは単なるAI音声ビジネスにとどまらず、デジタル時代における「人の表現・存在をどう権利化するか」という問いへの、日本からの一つの回答になるでしょう。
【用語解説】
トラスト技術
NTT西日本が独自開発した真正性証明技術(特許出願中)。パブリックブロックチェーンとVC(Verifiable Credentials)を組み合わせた3層構造で、①声の出所(データ真正性)、②生成過程の追跡(トレーサビリティ)、③利用条件の記録(用途証明)を改ざん不可能な形で管理する。NTTテクノクロスの特許技術も採用している。
VC(Verifiable Credentials)
W3C(World Wide Web Consortium)が標準化を進めるデジタル証明書の形式。「誰が・何を・いつ証明したか」をデジタルで検証可能にする仕組みで、学歴証明や資格証明など幅広い分野で活用が進んでいる。VOICENCEでは「この声は本人が公認したAI音声である」という証明に使われている。
音声IP(音声アイテムプロパティ)
実演家の音源データ・AIモデル・生成されたAI音声コンテンツを一体として扱う知的財産の概念。VOICENCEプラットフォームでは、これを一元管理し、正規ライセンス市場として流通させる仕組みを構築している。
パブリシティ権
著名人の氏名・肖像・声などが持つ顧客吸引力(経済的価値)を無断で商業利用されない権利。日本では判例法上の概念として発展してきたが、法文への明文化はなく、「声の権利」への直接適用には限界がある。
NEDO GENIAC-PRIZE
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が運営する懸賞金活用型プログラム。革新的な技術・ビジネスアイデアを公募・評価する仕組みで、VOICENCEのトラスト技術は2025年度の領域03トライアル審査で採択された。
【参考リンク】
VOICENCE 公式サイト(外部)
NTT西日本VOICENCEカンパニーの公式サイト。AI音声事業の概要・技術・パートナー情報・導入事例を掲載。
NTT西日本 VOICENCE音声CM特設サイト(外部)
音声CMシリーズ「知っている2人」の全6編とメイキング映像、別所哲也へのインタビューを公開している特設ページ。
NTT西日本 VOICENCE事業開始プレスリリース(2025年10月27日)(外部)
VOICENCEカンパニー設立と事業開始を告知した公式リリース。背景・技術詳細・売上目標・パートナー情報を含む一次資料。
NTT技術ジャーナル「VOICENCEカンパニー始動」(外部)
NTTグループ公式技術誌によるVOICENCE解説。トラスト技術の3層構造と音声処理技術を詳しく説明している。
【参考記事】
NTT西日本、真正性証明技術にブロックチェーン採用の音声AI事業「VOICENCE」開始|あたらしい経済(外部)
ブロックチェーン・VC技術の詳細とNEDO GENIAC-PRIZEへの採択を詳報。技術構造の把握に最も参考にした記事。
NTT西が「本人公認」の声優ボイスAI、電子証明書や声色調整で市場創出へ|日経クロステック(外部)
売上目標(2027年度10億円・2030年3月期100億円)を明記。花城高志CEOの会見コメントを含む数値根拠記事。
NTT西日本が声のIPを保護する「VOICENCE」 権利保護とAI活用を両立|BUSINESS NETWORK(外部)
NTTグループで将来1,000億円規模を目指す目標数値と段階的な売上計画を詳しく報じた記事。
NTT西日本が”声の権利”を守り、”声の価値”を高める音声AI事業「VOICENCE」を開始|NTT西日本公式(外部)
国内コンテンツ産業の市場規模(約17兆円)など解説で使用した数値の一次資料。事業背景・技術仕様を網羅。
声が資産になる時代へ NTT西「VOICENCE」の挑戦|日経トレンディ(外部)
KizunaAIとの発表会デモや別所哲也のコメントを交えVOICENCEのビジネスモデルと市場戦略を詳報した記事。
【関連記事】
NTT西日本「VOICENCE」始動、声優・俳優の声をIPとして保護する音声AIプラットフォーム
2025年10月のVOICENCE事業立ち上げを報じた記事。今回のCM展開の前日譚として、事業の背景と技術を解説している。
NTT「FutureVoice」新版、数秒の音声から自社でAI音声生成が可能に──6言語対応で声の権利保護も強化
VOICENCEの技術基盤であるFutureVoiceの新バージョンを解説。6言語対応と自社生成機能の強化について報じた技術面の補足記事。
ElevenLabs「Iconic Voice Marketplace」有名人の声をライセンス化
海外でのAI音声ライセンス化の動きを報じた記事。VOICENCEと同じ「声の権利×AI活用」という潮流を別の角度から捉えた比較対象として参考になる。
【編集部後記】
「自分の声はどこまで自分のものか」——そんな問いを、みなさんはふと考えたことはありますか?AIが誰かの声を再現できる時代に、私たちはどこかまだその問いと正面から向き合えていない気がします。
VOICENCEの取り組みは、技術の話である以上に、声という人間の根幹に関わるものの価値をどう守り、次の時代に手渡すかという、深いテーマを内包しています。みなさんはどう感じましたか?







































