プロダクションAIのコントロールプレーンを手がけるPortkey(カリフォルニア州サンフランシスコ)は2026年3月24日、同社のゲートウェイを完全オープンソース化したと発表した。これまでSaaSサブスクリプションが必要だったガバナンス、可観測性、認証、コスト管理に加え、新たなMCPゲートウェイもオープンソース化された。
同ゲートウェイは現在、1日あたり1兆トークン以上・1億2,000万件以上のAIリクエストを処理し、年換算で1億8,000万ドル以上のAI支出を管理、世界24,000以上の組織を支援している。新機能として、使用ポリシー、モデルカタログ、リアルタイムメトリクス、MCPレジストリ、OAuth 2.1およびOAuth 2.0に対応したエンタープライズグレードの認証が追加された。
同社はElevation Capital主導、Lightspeed参加のシリーズAにて1,500万ドルを調達済みである。
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Portkey’s Gateway is Now Fully Open Source, Processing over 1 Trillion Tokens Every Day
【編集部解説】
「AIゲートウェイ」という言葉に馴染みがなくても、その役割を理解すると重要性がよく分かります。企業がAIを使う場面を想像してください。OpenAI、Anthropic、Googleなど、複数のAIモデルに対してリクエストが飛び交う中、それぞれのコストを誰が管理し、どこで障害を検知し、どのAPIキーが何にアクセスしているのかを把握するのは容易ではありません。AIゲートウェイとは、すべてのAIリクエストが通過する「関所」のような存在です。その関所をPortkeyが今回、完全に無料で誰でも使えるオープンソースとして開放した、というのが今回の発表の核心です。
これまでPortkeyのゲートウェイは、ガバナンス(統治)・可観測性・認証・コスト管理といった企業が必要とする主要機能を使うには、有料のSaaSサブスクリプションが必要でした。今回のオープンソース化により、これらすべてが無償で利用できるようになります。さらに注目すべきは、MCPゲートウェイも同時にオープンソース化された点です。
MCPとは「Model Context Protocol」の略で、AIエージェントが外部のツールやシステム——Slackや社内データベース、APIなど——と連携するための規格です。エージェント型AIが単なる「質問に答えるツール」から「自律的にタスクを実行するシステム」へと進化するにつれ、このMCPを管理・制御する仕組みの重要性は急速に増しています。Portkeyの今回の動きは、エージェント時代を見据えた基盤機能の拡充を進めていることを示しています。
ポジティブな側面として、これまでエンタープライズグレードの制御機能を導入するには相応のコストがかかっていたため、スタートアップや中小規模の開発チームには敷居が高い面がありました。完全オープンソース化により、コスト面における導入のハードルは下がります。開発者コミュニティへの貢献を通じてエコシステムの拡大を狙うPortkeyにとって、これはコミュニティ獲得とブランド構築を同時に達成する戦略と言えます。
一方で、潜在的なリスクも見落とせません。競合との比較を見ると、ゲートウェイ市場にはLiteLLM、Kong AI Gateway、TrueFoundryなど多数の選択肢がすでに存在しており、競争環境は多様化しています。Kongの自社ベンチマークでは処理速度で大きな差が示されており、「機能の充実」と「パフォーマンス」は別の評価軸であることを念頭に置く必要があります。また、オープンソース化によりコードが公開される分、脆弱性の発見・悪用のリスクも生まれます。セキュリティ要件の厳しい企業が採用する際には、継続的な監査体制が求められるでしょう。
規制の観点から見れば、エンタープライズAIのガバナンス強化は、欧州のAI Actをはじめとする各国規制の方向性とも一致しています。「誰が何のAIを使い、どれだけコストをかけているか」をリアルタイムで把握・制御できる仕組みは、コンプライアンス対応の文脈でも重要性が高まる可能性があります。
長期的な視点に立つと、AIが企業の基幹インフラとなる時代においてその制御レイヤーを握ることは、かつてのデータベースやAPIゲートウェイ市場に似た「次世代インフラ覇権争い」に似た競争構造の形成であると考えられます。今回オープンソース化によって開発者の支持を広く集め、商用版での収益化(オンプレミスや高度なエンタープライズ機能)へ誘導するというPortkeyの動きは、HashiCorpやElastic社がかつて辿った道筋とも重なります。そのビジネスモデルが長続きするかどうかは、今後のコミュニティの広がりと、エンタープライズ向け有償機能の競争力にかかっています。
【用語解説】
コントロールプレーン(Control Plane)
ネットワーク工学の用語で、システム全体の動作や通信経路を管理・制御する層のこと。AI文脈では、すべてのモデルリクエストとエージェントの動作を一元管理するインフラ層を指す。
可観測性(Observability)
システムの内部状態を外部の出力データから把握する能力。AIシステムにおいては、リクエストのログ、コスト、レイテンシー、エラーなどをリアルタイムで追跡・分析できる状態を意味する。
MCP(Model Context Protocol)
Anthropicが公開したオープン標準で、AIエージェントが外部のツールやシステム(データベース、APIなど)と連携するための通信プロトコル。AIエージェントと外部システムを接続する共通仕様として採用が広がっている。
OAuth 2.1 / OAuth 2.0
デジタルサービス間でアクセス権限を安全に委譲するための認証・認可フレームワーク。AIエージェントがエンタープライズツールにアクセスする際のセキュリティ基盤として機能する。
オープンソース(Open Source)
ソフトウェアのソースコードを公開し、誰でも自由に閲覧・利用・改変・再配布できる開発・公開の形態。自社サーバーへの自己ホスティングが可能になるため、データの管理権やカスタマイズ性が高まる。
EU AI Act(欧州AI規制法)
欧州連合が策定した世界初の包括的なAI規制法。AIシステムをリスクレベルで分類し、高リスクAIに対してガバナンスや監査証跡の整備を義務付ける。2026年現在、段階的に適用が進んでいる。
シリーズA(Series A)
スタートアップの資金調達ラウンドの段階名。プロダクトの市場適合性が一定程度確認された後に行われる、本格的な事業拡大を目的とした最初の大型外部調達ラウンドを指す。
【参考リンク】
Portkey 公式サイト(外部)
AIゲートウェイ・可観測性・ガバナンス・コスト管理を統合したプロダクションAIコントロールプレーンの開発企業。サンフランシスコ拠点。
Portkey Gateway(GitHubリポジトリ)(外部)
今回オープンソース化されたAIゲートウェイのソースコード。多数のLLMへのルーティングや自己ホスティングに対応する。
Elevation Capital(外部)
インドを代表するベンチャーキャピタル。Meeshoなど多数の著名スタートアップを輩出し、PortkeyシリーズAをリードした。
Lightspeed Venture Partners(外部)
Snap・Affirm・Nutanixなど多くの投資実績を持つグローバルVC。PortkeyシリーズAに参加した。
Kong AI Gateway(外部)
APIゲートウェイ大手Kong社が提供するAIゲートウェイ製品。PortkeyやLiteLLMと競合するエンタープライズ向けソリューション。
【参考記事】
The Gateway Grew Up(Portkey公式ブログ)(外部)
Gateway 2.0開発の背景とエージェントAI時代の課題、新機能の技術詳細を解説したPortkey公式ブログ記事。
AI Gateway Benchmark: Kong AI Gateway, Portkey, and LiteLLM(Kong公式ブログ)(外部)
KongがPortkey・LiteLLMと処理速度をベンチマーク比較した技術記事。定量的な性能差のデータを掲載している。
Understanding Portkey AI Gateway Pricing For 2026(TrueFoundry)(外部)
Portkeyの料金体系と制約を詳述した競合他社による分析記事。オープンソース化で何が変わるかを理解するうえで参照。
A Definitive Guide to AI Gateways in 2026(TrueFoundry)(外部)
2026年時点のAIゲートウェイ市場の競合構造を整理した解説記事。Kong・Portkey・LiteLLMの位置づけを比較する。
Best Open Source AI Gateway in 2026(DEV Community)(外部)
オープンソースAIゲートウェイ5製品を性能・機能・デプロイ面で比較した記事。各製品の定量データが詳細に記されている。
【編集部後記】
AIがいよいよ「使うもの」から「動くもの」へと変わりつつある今、その裏側を支えるインフラにも目を向けてみると、技術の見え方が変わってくるかもしれません。
みなさんの組織やプロジェクトでは、AIのコストや動作をどのように把握していますか?







































