富士通株式会社は2026年3月30日、生成AIを活用してCOBOL言語などのソースコードを解析し、設計書を自動生成するSaaS「Fujitsu Application Transform powered by Fujitsu Kozuchi」を日本国内で提供開始した。独自技術「Fujitsu ナレッジグラフ拡張RAG for Software Engineering」によりソースコード間を関連付け、設計書生成の時間を約30分の1に短縮し、網羅性を95%、可読性を60%向上させた。
2025年2月提供開始の前身サービス「設計書リバースサービス for アプリケーション資産」の実績を標準化したものであり、SMBC日興証券株式会社が共同検証に参加した。2026年度以降、リビルド・リライト・運用保守支援の各機能を順次提供予定である。
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ソースコードを解析し、設計書を自動生成する生成AIサービス「Fujitsu Application Transform powered by Fujitsu Kozuchi」を提供開始|富士通株式会社

【編集部解説】
今回のリリースを一言で表すならば、「40年分の眠れる設計書を、AIが掘り起こす」というものです。富士通が2026年3月30日に提供を開始した「Fujitsu Application Transform powered by Fujitsu Kozuchi」は、COBOL言語などで書かれたレガシーシステムのソースコードを生成AIで解析し、設計書を自動生成するSaaSです。
そもそも、なぜ今この発表が重要なのでしょうか。日本には「2025年の崖」という言葉があります。経済産業省が2018年のDXレポートで提起した概念で、レガシーシステムの老朽化・ブラックボックス化が放置されれば、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると警鐘を鳴らしたものです。その「崖」を、日本企業の多くは十分に乗り越えられないまま2026年を迎えています。同報告では、21年以上稼働している基幹系システムが2025年には全体の約6割を占めると指摘しており、問題は現在進行形です。
COBOLが特に厄介なのは、その歴史的な複雑さにあります。約40年にわたって改修が繰り返されてきたCOBOLコードは、当初の設計者がとうの昔に退職しており、システムの内部構造を把握できる人材が社内に存在しないケースが珍しくありません。経済産業省のDXレポートは2025年に約43万人のIT人材不足が生じると予測しており、特にCOBOLを扱える技術者の高齢化・引退は、この不足に拍車をかけています。
本サービスが解決しようとしているのは、モダナイゼーションの「入口」の問題です。システムを刷新しようとしても、まずそのシステムが「何をしているのか」が分からなければ手の打ちようがありません。富士通が独自技術として開発した「Fujitsu ナレッジグラフ拡張RAG for Software Engineering」は、大量のソースコード間の関係を紐付け、AIの弱点であるハルシネーション(誤情報の生成)と情報の抜け漏れを同時に抑制する仕組みです。その結果として、設計書生成にかかる時間を約97%(約30分の1)短縮し、網羅性を95%、可読性を60%向上させることを確認したとしています。
グローバルな競合文脈で見ると、このセグメントは今まさに主戦場となっています。Anthropicの「Claude Code」がCOBOLモダナイゼーションへの適用を発表した際、IBMの株価が13.2%下落したというエピソードは、業界がいかにこの問題を注視しているかを示しています。IBM Watson Code Assistant、GitHub Copilot Enterprise、Amazon Q Developerといった海外勢もCOBOLコードの解析・変換に力を入れており、富士通の今回のサービスはこうした競争の真っただ中に投入されたことになります。
もっとも、冷静に見ておくべき点もあります。IBMは自社ブログで「コードの翻訳とシステムのモダナイゼーションは同義ではない」と指摘しています。メインフレーム上のCOBOLは、z/OSやCICS、Db2といったプラットフォーム全体と密結合しており、設計書の生成やコードの翻訳だけでは、その価値と複雑さの本質には届かない部分があるという主張です。富士通のサービスも、現時点ではあくまでも「理解フェーズ」の自動化であり、リビルド・リライトといった後続機能は2026年度以降に順次提供予定とされています。設計書の自動生成はゴールではなく、長いモダナイゼーション行程の「出発点」と捉えるべきです。
また、AIが生成した設計書をそのまま信頼することのリスクも見逃せません。金融システムや決済・清算など規制の厳しい領域では、ドメイン知識を持つ人間によるレビューが依然として不可欠です。SMBC日興証券が「共同検証を進めた」という表現に留めており、あくまで可能性を実感したという段階のコメントにとどまっていることも、この慎重さを反映しているといえるでしょう。
長期的な視点では、このような技術の普及は日本のSI業界の構造変化を加速させる可能性があります。これまで大規模なシステム分析に大勢のエンジニアと数年の時間を費やしていたビジネスモデルは、AIによる自動化で根本から変わっていきます。一方で、その変化は「人が不要になる」ではなく「人が担うべき仕事の質が変わる」という方向に向かうものです。コードを読む仕事からシステムの価値を判断する仕事へ——そのシフトを促すツールとして、本サービスの意義を捉えるのが妥当な解釈でしょう。
【用語解説】
SaaS(Software as a Service)
ソフトウェアをインターネット経由でサービスとして提供する形態。自社でサーバーを用意せず、ブラウザなどからすぐに利用できる。今回の富士通サービスもSaaSとして提供されており、顧客が自社内でシステム解析を行えるようになった点が従来との大きな違いである。
COBOL(Common Business Oriented Language)
1959年に開発された、事務処理向けのプログラミング言語。銀行・保険・政府機関を中心に現在も世界で数千億行以上が稼働していると推計されている。可読性が高く業務処理に適している一方、習熟した技術者の高齢化・引退が加速しており、日本でも深刻な人材不足が続いている。
RAG(Retrieval-Augmented Generation)
生成AIの能力を、外部のデータソースと組み合わせて拡張する技術。AIが回答を生成する際、あらかじめ用意した知識ベースを検索・参照することで、精度や信頼性を高める。単体のLLMだけでは起きやすいハルシネーションを抑制する手段として広く使われている。
ナレッジグラフ
情報と情報の関係性をグラフ(ノードとエッジ)構造で表現した知識データベース。今回の富士通サービスでは、大量のソースコード間の依存関係や呼び出し関係をナレッジグラフとして構造化し、RAGと組み合わせることで解析精度を高めている。
ハルシネーション
AIが事実に基づかない情報をもっともらしく生成してしまう現象。「幻覚」とも訳される。設計書の自動生成においては、存在しない仕様を生成したり、コード間の関係を誤って記述したりするリスクがあり、ビジネス上の重大なミスにつながりかねないため、その抑制が技術的な核心課題となっている。
モダナイゼーション
老朽化したITシステムを現代の技術・アーキテクチャへ移行・刷新すること。単なるシステム更新にとどまらず、業務プロセスや組織体制の変革を伴うことが多い。日本では経済産業省が「2025年の崖」として警鐘を鳴らして以来、企業DXの最重要課題の一つとなっている。
2025年の崖
経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」で提起された概念。レガシーシステムの老朽化・ブラックボックス化と、それを維持できる技術者の不足が重なった場合、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると警告した。2026年現在も課題は継続中であり、モダナイゼーション需要の根本的な背景となっている。
【参考リンク】
富士通株式会社 公式サイト(外部)
日本を代表するITサービス企業。売上高3.6兆円、従業員約11万3,000人。AI・クラウド・モダナイゼーションを中心に展開。
Fujitsu Kozuchi|富士通AIサービス(外部)
富士通のクラウドベースAIサービス群。ハルシネーション抑制・ナレッジグラフ技術を含み、今回のサービスのコア技術基盤となっている。
SMBC日興証券株式会社(外部)
三井住友FG傘下の総合証券会社。2025年度より富士通と共同でCOBOLの設計書リバース検証を進めたパートナー企業。
経済産業省|レガシーシステムモダン化委員会総括レポート(外部)
2025年の崖の現状と対策を詳述した経産省の一次資料。富士通サービスが解決を目指す社会課題の背景理解に必須。
Fujitsu 資産分析・可視化サービス提供開始|富士通プレスリリース(2025年2月)(外部)
今回サービスの前身。ナレッジグラフ拡張RAG技術の詳細が記載された公式プレスリリース。
【参考記事】
Lost in Translation: What the AI Code Debate Keeps Getting Wrong|IBM(外部)
「コード翻訳≠モダナイゼーション」を論じるIBM公式ブログ。メインフレームの価値はプラットフォーム全体にあると主張する対抗視点。
The Mainframe Moment: How AI-Driven Modernization Is Reshaping the COBOL Economy|Domain-b(外部)
AnthropicのCOBOL対応発表でIBM株が13.2%下落したと報告。AI×COBOLが産業構造を揺るがす実態を伝える記事。
Anthropic Claude Accelerates COBOL Modernization with AI|Techzine Global(外部)
Claude CodeによるCOBOL解析・移行の概要を解説。グローバルな競合文脈を理解するための参考記事。
AI-Powered Legacy System Modernization in 2026|AppCloneScript(外部)
モダナイゼーション市場が2025年約250億ドル→2030年約560億ドルへ拡大すると試算した市場動向レポート。
Balancing Legacy Systems with Modern Platform Engineering|AI Infra Link(外部)
IDCデータとして2026年のモダナイゼーション予算の45%がAI主導と報告。複数の定量データを参照した記事。
Legacy System Modernization with AI | Zero-Disruption Strategy|To The New(外部)
Cognizant調査で生成AI活用企業が生産性70%向上・コスト30%削減を達成と報告。AIによる効果の定量根拠として参照。
【関連記事】
AnthropicのClaude Code、COBOL近代化に参入─IBM株13%急落、メインフレーム事業の構造的転換点か
富士通とは異なるアプローチでCOBOLモダナイゼーションに挑むAnthropicの動向。2026年2月公開。
【編集部後記】
あなたの会社や取引先のシステムも、実は40年前のコードで動いているかもしれません。「2025年の崖」は、もはや他人事ではないはずです。
AIが設計書を自動生成できる時代に、私たちはレガシーとどう向き合うべきか——ぜひ、皆さん自身の現場と重ねながら考えてみてください。







































