ユベントス、Tetherによる2000億円規模の買収提案を即座に却下―アニェッリ家の決断

[更新]2025年12月16日

ユベントス、Tetherの1200億円買収提案を即座に却下―アニェッリ家の決断 - innovaTopia - (イノベトピア)

ステーブルコイン発行会社Tetherによるイタリアのサッカークラブ、ユベントス・フットボール・クラブの買収提案が、オーナーのExorに拒否された。Exorは2025年12月13日(土曜日)、取締役会がTetherから提出された提案を全会一致で却下したと発表した。Tetherは12月12日(金曜日)、Exorが保有する65.4%の支配株式に対して拘束力のある全額現金での提案を提出し、合意が得られれば残りの株式に対しても同じ価格で公開買付を行うとしていた。

ロイターによると、Tetherは1株あたり2.66ユーロを提示し、これによりユベントスの企業価値は10億ユーロ強となる。Exor CEOのジョン・エルカンは「ユベントス、我々の歴史、そして我々の価値観は売り物ではない」と述べた。アニェッリ家の持株会社であるExorは100年以上にわたってユベントスを所有している。

Tetherは2025年2月にユベントスの株式を取得し、4月には10%以上に引き上げていた。

From: 文献リンクJuventus Football Club owner rejects Tether’s takeover bid

【編集部解説】

今回のニュースは、暗号資産業界の巨人と伝統的なヨーロッパサッカークラブの間で起きた、象徴的な衝突を浮き彫りにしています。

Tetherは2025年に入ってから驚異的な業績を記録しています。第3四半期までの純利益は100億ドルを超え、年末には150億ドルに達する見込みです。これはゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーといったウォール街の名門投資銀行に匹敵する収益力を示しています。

このような潤沢な資金力を背景に、Tetherは暗号資産事業の枠を超えた多角化戦略を積極的に展開してきました。AI、ロボティクス、ビットコインマイニング、さらにはヒューマノイドロボット企業への投資など、テクノロジー分野全般への進出を図っています。

スポーツ界への参入もその一環です。Tetherは2025年2月にユベントスの株式を取得し、4月には10%超まで持ち株を増やしていました。11月には取締役会にフランチェスコ・ガリーノ氏を送り込むことにも成功しています。このステップバイステップのアプローチは、最終的な完全買収への布石だったと考えられます。

一方、ユベントスは深刻な財務問題を抱えています。過去7年間で10億ユーロ以上の資本注入を必要としており、選手移籍での会計操作疑惑、給与支払いの不正処理など、複数のスキャンダルに見舞われてきました。

財務的に見れば、Tetherの提案は魅力的でした。1株2.66ユーロという提示価格は、金曜日の終値2.19ユーロから約21%のプレミアムを上乗せしたものです。加えて、買収成立後にさらに10億ユーロを投資するという約束もありました。

しかし、アニェッリ家は即座にこれを拒絶しました。Exor CEOのジョン・エルカンがチームのパーカーを着て発表したビデオメッセージは印象的です。「ユベントスは102年間、我が家族の一部であった」という言葉には、単なる経済的資産を超えた、文化的・歴史的アイデンティティへの強い執着が表れています。

この拒絶は、暗号資産業界が伝統的なスポーツ界に進出する際の大きな壁を示唆しています。財務的な魅力だけでは、100年以上の歴史と伝統を持つ組織の支配権を獲得することはできないという現実です。

特にヨーロッパのサッカークラブは、地域コミュニティや文化的アイデンティティと深く結びついています。暗号資産企業による買収は、ファンや地域社会から「文化の商品化」として抵抗を受ける可能性が高いのです。

Tetherにとっては、戦略的な選択肢が限られています。現在の11.5%の少数株主としての立場を維持するか、公開市場でさらに買い増しを図るか、あるいは完全に撤退するかです。しかし、アニェッリ家の明確な拒絶姿勢を考えると、支配権獲得への道は事実上閉ざされたと見るべきでしょう。

一方で、この出来事は暗号資産業界の成熟度を示す指標ともなっています。Tetherのような企業が10億ドル規模の買収提案を行えるほどの財務力を持つに至ったことは、業界全体の成長を象徴しています。

今後、暗号資産企業がスポーツ界への投資を続けるならば、より慎重で段階的なアプローチが必要になるでしょう。完全買収ではなく、スポンサーシップやパートナーシップといった形での関係構築が、より現実的な選択肢かもしれません。

【用語解説】

ステーブルコイン
暗号資産の一種で、米ドルなどの法定通貨と1対1で価値が連動するよう設計されたデジタル通貨。価格変動が激しいビットコインなどと異なり、安定した価値を保つことを目的としている。

USDT(Tether)
世界最大のステーブルコインで、1USDTが1米ドルと等価になるよう設計されている。2025年12月時点で流通供給量は1,840億ドルを超え、暗号資産市場において重要な役割を果たしている。

アニェッリ家
イタリアの名門実業家一族で、自動車メーカーFiatの創業家としても知られる。1923年からユベントス・フットボール・クラブを所有しており、100年以上にわたってクラブ経営に携わっている。

Exor
アニェッリ家が支配する持株会社で、ユベントスの65.4%の支配株式を保有している。自動車、メディア、スポーツなど多岐にわたる事業ポートフォリオを持つ。

資本注入(Capital Injection)
企業の財務状態を改善するために、株主などが追加資金を投入すること。ユベントスは過去7年間で10億ユーロ以上の資本注入を受けている。

セリエA
イタリアのプロサッカー最高峰リーグ。ユベントスはこのリーグで36回の優勝を誇る最多優勝クラブである。

プルスヴァレンツァ(Plusvalenza)
イタリア語で「資本利得」を意味し、選手移籍における利益を指す。ユベントスは選手移籍の価値を不当に膨らませて会計上の利益を水増ししたとして告発された。

【参考リンク】

Tether公式サイト(外部)
世界最大のステーブルコインUSDTを発行する企業の公式サイト。財務報告書やニュースリリース、企業の投資活動に関する情報を提供している。

Juventus Football Club公式サイト(外部)
イタリア・トリノを拠点とするセリエAの名門サッカークラブの公式サイト。試合情報、選手紹介、財務報告などを掲載している。

Exor公式サイト(外部)
アニェッリ家の持株会社の公式サイト。ユベントスをはじめとする傘下企業の情報や、プレスリリース、投資家向け情報を提供している。

Cointelegraph(外部)
暗号資産・ブロックチェーン業界の主要ニュースメディア。業界の最新動向、市場分析、技術解説などを幅広く報道している。

【参考記事】

Exor Board Unanimously Rejects Tether’s Proposal to Acquire Exor’s Controlling Stake in Juventus | EXOR(外部)
Exorの公式プレスリリース。2025年12月13日付で、取締役会がTetherによるユベントス株式取得提案を全会一致で拒否したことを正式に発表している。

Exor unanimously rejects Tether’s $1.3 billion bid to acquire Juventus football club | The Block(外部)
Tetherが1株2.66ユーロ、総額約11億ユーロでExorの65.4%の支配株式を取得する提案を行ったが、Exor取締役会が全会一致で即座に拒否したことを報じている。

Tether Reports $10 Billion Profit in 2025 So Far—Here’s How That Compares to the Big Banks | Decrypt(外部)
Tetherが2025年第3四半期までに100億ドルの純利益を記録し、バンク・オブ・アメリカを上回り、ゴールドマン・サックスに迫る業績を達成したことを分析。

Tether Posts $4.9B Profit, Surpasses $127B In U.S. Treasuries In Q2 | Yahoo Finance(外部)
2025年第2四半期にTetherが49億ドルの純利益を計上し、米国債保有額が1,270億ドルを超えたことを報告。上半期の総利益は57億ドルに達した。

Tether’s Bid to Buy Italian Soccer Club Juventus Rejected by Majority Shareholder Exor | CoinDesk(外部)
Tetherが既に11.53%の株式を保有し第2位株主となっていること、ユベントスが過去7年間で10億ユーロ以上の資本注入を必要としてきたことを詳述。

How much has Juventus lost in eight years as they near new capital increase? | OneFootball(外部)
ユベントスが過去8年間で約10億ユーロを消費し、Exorからの継続的な資本注入に依存してきたことを報告。クラブの財務モデルの実態を明らかにしている。

【編集部後記】 

暗号資産企業による伝統的スポーツクラブへの投資は、今後ますます増えていくでしょう。しかし今回の件が示すように、財務力だけでは歴史や文化を買うことはできません。皆さんは、テクノロジー企業とスポーツの融合にどのような可能性を感じますか?スポンサーシップやパートナーシップという形なら、より建設的な関係が築けるかもしれません。

あるいは、暗号資産業界は別の道を模索すべきなのでしょうか。Web3時代のスポーツビジネスのあり方について、ぜひ皆さんの考えをお聞かせください。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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