暗号資産カードの取引高は2023年1月の月間約1億ドルから2025年後半には15億ドル超へ成長し、年平均成長率106%を記録した。年間換算では180億ドル超となり、同期間に5%成長にとどまったP2Pステーブルコイン送金の190億ドルに匹敵する規模に達している。ビザのステーブルコインリンクカード支出は2025年度第4四半期に35億ドルの年率換算ランレートとなり、前年比約460%成長した。
インフラ層では、ビザとマスターカードが市場をほぼ独占し、レインやリープなどのフルスタック発行プラットフォームが台頭している。地理的にはインドが12ヶ月で3,380億ドルの暗号資産流入を記録し、アルゼンチンではUSDCシェアが46.6%に達した。総ステーブルコイン供給量は3,080億ドル超となり、コインベース、ジェミニ、メタマスク、ファントムなどが消費者向け製品を展開している。
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Stablecoin Payments at Scale: How Cards Bridge Digital Assets and Global Commerce
【編集部解説】
暗号資産カードが2年間で15倍という驚異的な成長を遂げた背景には、決済インフラとしての成熟があります。注目すべきは、この成長が投機的な取引ではなく、実際の日常消費に使われている点です。ビザやマスターカードという既存の決済ネットワークを活用することで、加盟店側は特別な対応を一切必要とせず、ユーザーはステーブルコインを「普通のお金」として使えるようになりました。
技術的には、カードスワイプの瞬間にステーブルコインが法定通貨に変換され、加盟店には従来のカード決済と同じように見える仕組みです。この「見えない変換」こそが普及の鍵となっています。直接的なステーブルコイン決済を加盟店に導入させるには、POSシステムの改修や会計処理の変更が必要ですが、カード経由なら既存インフラがそのまま使えます。
レインやリープといったフルスタック発行者の台頭も重要な変化です。従来は発行銀行に依存していたカード発行プロセスを、ビザのプリンシパルメンバーシップを取得することで自社完結できるようになりました。これにより手数料構造が改善され、より柔軟なサービス設計が可能になっています。
地理的な偏りも興味深い示唆を与えています。インドでは30%の暗号資産課税と1%の源泉徴収により、大部分の取引がオフショアに流出しました。しかしUPIという強力な国内決済システムが存在するため、カードの機会はクレジット領域に集中します。一方アルゼンチンでは、年間インフレ率が二桁に達する環境下で、ステーブルコインが実質的なドル化手段として機能しています。競合する国内デジタル決済インフラが弱いため、デビットカード需要が高まっているのです。
ビザのステーブルコインリンクカードが前年比460%成長を達成した一方で、それでも全体の19%にとどまる点には注意が必要です。現状では大部分が法定通貨決済であり、真のステーブルコインネイティブな決済はまだ初期段階にあります。カードネットワークが提供する詐欺保護、チャージバック権、無担保クレジットといった付帯サービスは、ステーブルコイン単体では再現が困難です。
長期的には、カードは「どこでも使える」という利便性を提供し、ステーブルコインは「国境を越えて価値を保存できる」という機能を提供する、相互補完的な関係が続くと考えられます。直接的なステーブルコイン決済がカードを完全に置き換えるには、加盟店側のインセンティブ、消費者保護の仕組み、クレジット機能など、多くの課題を解決する必要があります。当面は両者が共存しながら、それぞれの強みを活かした棲み分けが進むでしょう。
規制面では、各国が独自の対応を模索しています。インドのように厳格な課税で成長を抑制する国もあれば、アルゼンチンのように事実上の容認姿勢をとる国もあります。この規制の不均一性が、地域ごとに異なるステーブルコイン採用パターンを生み出す要因となっています。
【用語解説】
ステーブルコイン
米ドルなどの法定通貨に価格が連動するよう設計された暗号資産。1トークン=1ドルの価値を維持することを目指し、価格変動の激しいビットコインなどと異なり、決済手段としての実用性が高い。代表的なものにUSDC、USDT、PYUSDなどがある。
P2P(ピアツーピア)
個人間で直接やり取りする取引形態。仲介者を介さず、送り手と受け手が直接ステーブルコインなどを送金する方式を指す。
フルスタック発行プラットフォーム
カード発行に必要な機能を一社で完結できる事業者。従来は発行銀行、プログラムマネージャー、決済ネットワークなど複数の事業者が関与していたが、レインやリープのような企業はビザのプリンシパルメンバーシップを取得し、自社で全工程を処理できる。
プリンシパルメンバーシップ
ビザやマスターカードの決済ネットワークに直接参加できる資格。取得すると発行銀行を介さずにカード発行や決済処理が可能になり、手数料構造を最適化できる。
UPI(統一決済インターフェース)
インド政府が2016年に導入したリアルタイム決済システム。銀行口座間で即座に送金でき、24時間365日利用可能。スマートフォンを使った個人間送金や店舗決済が普及し、インドのデジタル決済取引の8割以上を占める。
チャージバック
クレジットカードやデビットカードで、商品未着や不正利用などが発生した際に、消費者が発行会社を通じて支払いを取り消せる仕組み。カードネットワークが提供する消費者保護機能の一つ。
POSシステム
Point of Sale(販売時点情報管理)システムの略。店舗のレジでカード決済を処理したり、売上データを記録したりする端末やソフトウェアの総称。
オフショア
自国外の金融拠点や法域を利用すること。インドでは暗号資産への課税が厳しいため、取引所や取引活動の多くが国外に移転している状況を指す。
【参考リンク】
Visa公式サイト(外部)
世界最大級のカード決済ネットワーク。暗号資産カード市場でオンチェーン取引高の90%以上を占め、ステーブルコインリンクカード決済インフラを提供
Mastercard公式サイト(外部)
ビザと並ぶグローバルカードネットワーク。レボリュート、バイビット、ジェミニなど主要取引所と提携し暗号資産カードプログラムを展開
Coinbase(外部)
米国最大級の暗号資産取引所。コインベースカードやコインベースワンカードを提供し、暗号資産を日常的な支払いに利用できるサービスを展開
Gemini(外部)
ウィンクルボス兄弟が創業した米国の暗号資産取引所。ジェミニクレジットカードを通じて暗号資産キャッシュバックプログラムを提供
MetaMask(外部)
世界で最も広く使われている自己管理型暗号資産ウォレット。メタマスクカードを発行し独自ステーブルコインmUSDをカード決済の資金源として展開
Phantom(外部)
ソラナブロックチェーン向けの主要ウォレット。独自ステーブルコインCASHを発行しデビットカード製品と連携させることでユーザー維持を図る
Rain(外部)
中東を拠点とするフルスタック暗号資産カード発行プラットフォーム。ビザのプリンシパルメンバーとして直接カード発行を行う
Artemis Analytics(外部)
暗号資産市場の包括的なデータ分析プラットフォーム。今回の調査レポートを発表し暗号資産カード市場の成長データや地域別動向を詳細に分析
【参考記事】
Crypto card payments expanded to $1.5B monthly in 2025(外部)
暗号資産カードの月間取引高が2025年に$1.5Bに拡大したことを報告。2023年1月の$100Mから15倍の成長を遂げた経緯を解説
Crypto Card Market Explodes 15x as Stablecoin Spending Rivals P2P Transfers(外部)
暗号資産カード市場が2年間で15倍に成長しP2Pステーブルコイン送金に匹敵する規模になったことを報告。ビザが市場の90%を支配
Crypto card market surges 1400% in two years to $18bn(外部)
2年間で1400%という驚異的な成長率を記録した暗号資産カード市場について報告。アルテミスアナリティクスの調査データを基に解説
Rain raises $24.5m to enhance stablecoin card issuance(外部)
フルスタック発行プラットフォームのレインが$24.5Mの資金調達を実施。ビザのプリンシパルメンバーとして直接カード発行を展開
【編集部後記】
ステーブルコインを「持っている」人は増えていますが、それを「日常で使う」という発想はまだ新鮮に感じられるかもしれません。財布の中のカードで、知らぬ間にステーブルコインが決済されている—そんな未来がすでに動き始めています。
みなさんは、国境を越えて価値を保存できる利便性と、どこでも使える汎用性、どちらを優先したいと考えますか? それとも両方を手に入れる方法を模索したいでしょうか? この記事で紹介した暗号資産カードの成長は、私たち一人ひとりの「お金との付き合い方」が変わる予兆なのかもしれません。一緒に、この変化を見つめていきましょう。



































