国家経済全体をブロックチェーンに移行する──SF のような構想が、今まさに現実になろうとしている。人口約6万5千人の島国バミューダが、CircleとCoinbaseと手を組み、世界初の「完全オンチェーン国家経済」への転換を発表した。従来の銀行システムに頼らない決済インフラは、私たちが当たり前だと思っている「お金の流れ方」そのものを変える可能性を秘めている。
バミューダ政府は2026年1月、世界経済フォーラム年次総会において、CircleとCoinbaseのサポートを受けて世界初の完全オンチェーン国家経済への転換計画を発表した。
両社はバミューダ政府、地域の銀行、保険会社、中小企業、消費者に対してデジタル資産インフラとエンタープライズツールを提供し、全国規模でのデジタル金融教育と技術的オンボーディングをサポートする。
バミューダは2018年にデジタル資産ビジネス法を導入した最初の管轄区域であり、CircleとCoinbaseはこの制度下でライセンスを取得した最初のグローバル企業である。バミューダデジタル金融フォーラム2025では3者がUSDCのエアドロップを実施し、全参加者に100 USDCを配布した。
2026年5月11日から14日にはバミューダデジタル金融フォーラム2026が開催され、より広範な企業参加と消費者刺激策を展開する予定である。
【編集部解説】
今回のバミューダ政府の発表は、単なる実証実験ではなく、国家経済全体のインフラをブロックチェーンベースに移行するという極めて野心的な取り組みです。人口約65,000人の小規模な島嶼国家だからこそ実現可能な、いわば「国家規模のリビングラボ」と言えるでしょう。
バミューダが直面してきた課題は、多くの島嶼経済に共通するものです。カリブ海地域や離島という地理的な分類により、国際的な決済プロセッサーや従来の銀行システムでは高額な手数料が課され、商業者の利益を圧迫してきました。USDC のようなステーブルコインを用いたオンチェーン決済は、こうした手数料を大幅に削減し、24時間365日リアルタイムで決済が完了する可能性を秘めています。国際送金では従来数日かかっていたものが数分から数秒で完了し、手数料も1%未満に抑えられるケースが報告されています。
注目すべきは、この取り組みが任意参加である点です。住民や企業にオンチェーンソリューションの採用を強制せず、教育プログラムとインセンティブを通じて段階的な移行を促す設計になっています。2025年のデジタル金融フォーラムで実施されたUSDCエアドロップは、まさにこの教育的アプローチの一環でした。参加者が実際にデジタルウォレットをダウンロードし、地元の飲食店や小売店で100 USDCを使う体験を通じて、新しい決済システムの利便性を実感する機会となったのです。
ただし、楽観視できない側面も存在します。ステーブルコインには準備金の質に起因するデペッグリスク(ドルとの連動が崩れるリスク)、サイバー攻撃やスマートコントラクトの脆弱性、秘密鍵の盗難といった技術的リスクが伴います。特に国家経済全体がこのインフラに依存する場合、システム障害や大規模なハッキングが発生すれば、経済活動全体が麻痺する可能性もあります。
規制面では、バミューダは2018年のデジタル資産ビジネス法制定以来、バミューダ金融当局の監督下で40社以上のデジタル資産企業にライセンスを発行してきた実績があります。CircleとCoinbaseもこの制度下で最初期にライセンスを取得した企業であり、規制当局との信頼関係が構築されています。米国のGENIUS法やEUのMiCA規制など、主要経済圏でステーブルコイン規制が整備されつつある中、バミューダの取り組みは国家レベルでの実装モデルとして他国の規制設計にも影響を与える可能性があります。
バミューダの経済構造も見逃せません。この国はオフショア保険・再保険と観光が経済の70%以上を占めており、デジタル資産に対する所得税やキャピタルゲイン税が存在しません。こうした税制上の優遇措置と先進的な規制環境が、デジタル金融企業を惹きつける磁石となっています。
2026年5月のデジタル金融フォーラムでは、さらに大規模な消費者刺激策と企業参加が予定されています。この4ヶ月間の進捗が、国家規模でのオンチェーン経済移行の実現可能性を占う試金石となるでしょう。
【用語解説】
オンチェーン経済
ブロックチェーン上で経済活動が行われる仕組み。取引記録がすべてブロックチェーンに記録され、透明性と追跡可能性が確保される。従来の銀行システムを介さず、デジタル資産を日常的な決済インフラとして利用する経済モデルを指す。
ステーブルコイン
法定通貨(米ドルなど)と価値が連動するよう設計された暗号資産。価格の安定性を保つため、発行者が同額の準備金を保有する仕組みを採用している。決済手段としての実用性が高い。
USDC
Circleが発行する米ドル連動型ステーブルコイン。1 USDC = 1米ドルの価値を維持するよう設計されており、準備金の透明性が高いことで知られる。世界最大級のステーブルコインネットワークを形成している。
エアドロップ
暗号資産を無償で配布する施策。マーケティングや普及促進、コミュニティ形成を目的として実施される。バミューダの事例では、デジタルウォレットの利用体験を促すための教育的な目的で活用された。
デペッグリスク
ステーブルコインが連動する法定通貨との価値の結びつき(ペッグ)が崩れるリスク。準備金の質の低下や市場の信頼喪失などが原因で発生し、1ドルと連動すべきステーブルコインの価値が大きく変動する可能性がある。
スマートコントラクト
ブロックチェーン上で自動実行されるプログラム。契約条件が満たされると自動的に取引が実行される。コードの脆弱性があると、ハッキングや予期しない動作のリスクが存在する。
デジタル資産ビジネス法
バミューダが2018年に制定した、デジタル資産関連事業を規制する包括的な法律。暗号資産取引所、ウォレットサービス、決済サービスなどを対象とし、ライセンス制度を通じて監督する枠組みを提供している。
バミューダ金融当局(BMA)
バミューダの金融サービスを監督する規制機関。銀行、保険、投資、デジタル資産事業の監督とライセンス発行を担当し、国際的な金融規制基準との整合性を保つ役割を果たしている。
MiCA規制
欧州連合(EU)が制定した暗号資産市場規制(Markets in Crypto-Assets Regulation)。ステーブルコインを含む暗号資産の発行者とサービスプロバイダーに対する包括的な規制フレームワークを提供している。
【参考リンク】
Circle公式サイト(外部)
USDCを発行するインターネット金融プラットフォーム企業。デジタル資産、決済、ブロックチェーンインフラを提供し、NYSE上場企業(CRCL)。
Coinbase公式サイト(外部)
暗号資産取引プラットフォームを運営。個人・機関投資家向けに取引、保管、ステーキングサービスを提供するNASDAQ上場企業(COIN)。
バミューダ政府公式サイト(外部)
バミューダ政府の公式サイト。デジタル資産政策、経済施策、規制情報を提供し、金融イノベーションの取り組みを国際発信。
バミューダデジタル金融フォーラム(外部)
バミューダで開催されるデジタル金融国際会議。政府、規制当局、業界がブロックチェーン技術の実用化について議論する場。
世界経済フォーラム(ダボス会議)(外部)
各界リーダーが集まる国際会議。スイスのダボスで毎年1月開催。グローバルな経済・社会課題を議論する場。
【参考記事】
Bermuda Bets on ‘Fully On-chain’ Economy in Coinbase, Circle Partnership(外部)
人口約65,000人の規模が国家リビングラボを可能にし、40社以上へのライセンス発行実績と経済構造を報じる。
How Stablecoins Can Improve Payments and Global Finance(外部)
IMFによるステーブルコインの決済インフラ可能性分析。24時間365日決済、手数料削減、アクセス向上を検証。
Stablecoins in Cross-Border Payments: 2025 Benefits & Risks(外部)
国際送金での手数料削減(1%未満)、決済時間短縮、デペッグリスク、サイバー攻撃などの技術リスクを詳述。
Stablecoins Bring the Promise of Better Payments and the Risks of Financial Leverage(外部)
決済効率性とデペッグリスク、スマートコントラクト脆弱性、国家経済依存のシステミックリスクに警鐘。
Circle, Coinbase Partner with Bermuda on Nationwide Blockchain Payment System(外部)
CircleとCoinbaseのパートナーシップ内容、全国規模ブロックチェーン決済システム構築の詳細を報道。
Bermuda government backs stablecoin ‘airdrops’ during finance forum(外部)
2025年フォーラムで実施のUSDCエアドロップ詳細。参加者がデジタルウォレットで100 USDC使用の教育アプローチ。
Bermuda Amends Licensing Regime for Digital Assets Businesses(外部)
2018年デジタル資産ビジネス法と改正内容、バミューダ金融当局のライセンス制度運用実態を法律視点で解説。
【編集部後記】
バミューダの挑戦は、私たちが普段当たり前に使っている「お金」の在り方を根本から問い直す試みです。もし皆さんの住む地域や関わるビジネスで、国際送金の手数料や決済の遅延に悩んだ経験があるなら、この取り組みは決して遠い国の話ではないかもしれません。
一方で、国家経済全体をデジタルインフラに委ねることへの不安も当然あるでしょう。この実験がどのような結果をもたらすのか、皆さんはどう見ていますか?ご意見やご感想があれば、ぜひ教えてください。



































