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千葉大学がネットワーク最適化技術を開発、IoTブロックチェーンの課題を解決

[更新]2026年1月27日

千葉大学がネットワーク最適化技術を開発、IoTブロックチェーンの課題を解決

千葉大学先進学術研究院・情報学研究科のグエン・キエン准教授らの研究チームは、2026年1月22日、IoTブロックチェーンネットワークの遅延を大幅に削減する「Dual Perigee」アルゴリズムを開発したと発表した。

研究論文は2025年12月17日にIEEE Transactions on Network and Service Managementに掲載されている。IoTネットワークでは、ノード間の接続形態がデータ伝送の遅延を引き起こしていた。研究チームは各ノードが通信速度に基づいて接続先を自動的に選択する仕組みを考案し、50ノードのシミュレーション環境で検証した。

その結果、イーサリアムの標準手法と比較してブロック関連の遅延を48.54%削減し、従来のPerigeeアルゴリズムと比べても23%以上の性能向上を達成した。本研究は日本学術振興会と科学技術振興機構の支援を受けて実施された。

From: 文献リンクMaking blockchain fast enough for IoT networks

【編集部解説】

IoTデバイスの数は、各種調査機関による将来予測では、2030年までに約294億台規模に達すると見込まれています。これらの機器が生成する膨大なデータをいかに安全に管理するかは、スマート社会実現における最重要課題の一つと言えます。ブロックチェーンは暗号資産で知られる技術ですが、その本質は「改ざん不可能な分散型台帳」であり、IoTデータの信頼性を担保する有力な手段として注目されてきました。

しかし、従来のブロックチェーンには致命的な問題がありました。それは「遅延」です。自動運転車の衝突回避判断や医療機器のリアルタイム監視など、ミリ秒単位の応答が求められるIoTアプリケーションに対し、既存のブロックチェーンでは数秒から数十秒もの遅延が発生していました。

この遅延の主犯は、意外にもブロックチェーンのコンセンサスアルゴリズムそのものではありません。研究チームが突き止めたのは、ピアツーピア(P2P)ネットワークにおけるノード間の接続形態、つまり「ネットワークトポロジー」でした。従来のビットコインやイーサリアムでは、各ノードがランダムに選んだ相手と接続する方式を採用していますが、これが地理的距離や帯域幅の違いを無視した非効率な通信経路を生み出し、データの重複送信を指数関数的に増加させていたのです。

Dual Perigeeアルゴリズムは、この構造的欠陥に対する巧妙な解決策です。各ノードが通信速度に基づいて接続先を自律的に評価し、遅いノードとの接続を自動的に切り替える仕組みを導入しました。重要なのは、この最適化が中央管理者なしに、ネットワーク全体で自己組織化的に進行する点です。

48.54%という遅延削減率は、リアルタイムIoTアプリケーションの実用化に向けた大きな前進を意味します。スマートシティでの交通制御、工場の予知保全システム、遠隔医療における生体データ監視など、これまでブロックチェーンの遅延がボトルネックとなって実現が困難だった用途が、現実的な選択肢として浮上してきます。

ただし、課題も残されています。今回の検証は50ノードの環境で行われましたが、実際のIoTネットワークは数千から数万のデバイスで構成されます。スケーラビリティの検証は今後の重要な研究テーマとなるでしょう。また、ノードの自動切断メカニズムが悪意ある攻撃者によって悪用される可能性についても、継続的なセキュリティ評価が必要です。

それでも、この研究が示したのは「ブロックチェーンの遅延問題は、アルゴリズムの根本的な再設計なしに解決可能である」という希望です。既存のイーサリアムなどのプラットフォームに組み込める軽量なソリューションであることも、実用化への障壁を下げています。日本学術振興会と科学技術振興機構の支援を受けた千葉大学のこの研究は、IoT時代の分散型インフラストラクチャ構築において、日本が技術的リーダーシップを発揮する可能性を示唆しています。

【用語解説】

IoT(Internet of Things)
モノのインターネット。センサーや通信機能を持つ物理的なデバイスがインターネットを通じてデータを収集・共有する仕組み。スマートウォッチ、自動運転車、産業機器などが該当する。

ネットワークトポロジー
ネットワーク内のノード(通信端末)がどのように接続されているかを示す構造。接続の形態によってデータ伝送の効率や遅延が大きく変わる。スター型、メッシュ型、ツリー型などの種類がある。

ピアツーピア(P2P)
中央サーバーを介さず、参加者同士が直接通信する分散型ネットワーク方式。各参加者(ピア)が対等な立場で接続し、データの送受信を行う。ブロックチェーンの基本的な通信形態。

ノード
ネットワーク上の通信端末や接続点。ブロックチェーンにおいては、取引データを保持・検証し、他のノードと通信を行うコンピューターやデバイスを指す。

【参考リンク】

千葉大学プレスリリース(英語)(外部)
千葉大学による本研究の公式プレスリリース。研究の背景と成果の詳細を掲載。

IEEE論文:Impacts of Overlay Topologies and Peer Selection on Latencies in IoT Blockchain(外部)
本研究の学術論文。IoTブロックチェーンにおけるネットワークトポロジーの影響を詳細に分析。

Perigee: Efficient Peer-to-Peer Network Design for Blockchains(外部)
Dual Perigeeの基となったPerigeeアルゴリズムの原論文。ブロックチェーンのP2P最適化手法を解説。

【参考記事】

A scalable blockchain based framework for efficient IoT data management using lightweight consensus(外部)
IoTブロックチェーンのスケーラビリティ問題に取り組む研究。軽量コンセンサスアルゴリズムを提案。

An experimental study on performance of private blockchain in IoT applications(外部)
プライベートブロックチェーンのIoT応用における性能評価研究。グエン准教授らの先行研究。

Impact of Network Topologies on Blockchain Performance(外部)
ネットワークトポロジーがブロックチェーン性能に与える影響を5つの主要ブロックチェーンで評価した研究。

【編集部後記】

私たちの身の回りには、すでに多くのIoTデバイスが存在しています。スマートウォッチ、家電、自動車など、それらが生成するデータの信頼性をどう担保するかは、これから訪れる社会の基盤となる問いです。

この研究が実用化されたとき、あなたの生活にどんな変化が訪れると思いますか?遠隔医療での診断精度向上、スマートシティでの交通渋滞解消、それとも工場の無人化でしょうか。ブロックチェーンとIoTの融合が開く未来について、ぜひ一緒に考えてみませんか。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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