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JPYC Explorer登場—ブロックチェーン監査の「空白」を埋める日本初のインフラ

[更新]2026年3月14日

ステーブルコインは「使えるか」より「監査できるか」で、企業導入の可否が決まる時代が来た。アステリアと暗号屋が開発した「JPYC Explorer」は、その壁を正面から突き破ろうとするツールだ。


アステリア株式会社は合同会社暗号屋と共同で、日本円建ステーブルコインJPYCの会計監査支援ツール「JPYC Explorer」を開発し、2026年4月1日より提供を開始する。対応ステーブルコインはJPYCおよびUSDC、対応ブロックチェーンはAvalanche、Ethereum、Polygonの3種類だ。インフラはクラウド環境またはオンプレミスに対応する。

基本料金は月額50万円(税抜き・教育およびサポート込み)、オプションは監査対象1社あたり月額5万円からとなる。提供開始と同時に、暗号屋代表の紫竹佑騎氏がアステリアのステーブルコイン事業のアドバイザーに就任予定だ。

From: 文献リンクJPYCの会計監査支援ツール「JPYC Explorer」の提供を開始 〜ブロックチェーン上のステーブルコイン取引を検証するツール〜

【編集部解説】

ステーブルコインの「普及」と「信頼」は、コインそのものの仕組みが整うだけでは完結しません。企業が実際に帳簿に計上し、監査法人がその記録を検証できる体制——つまり「会計的な裏付け」が揃って初めて、ビジネスの現場に根付くことができます。JPYC Explorerが解決しようとしているのは、まさにこの「最後の一ピース」です。

JPYCは2025年10月27日に発行が始まった、日本初の資金移動業者型・日本円建てステーブルコインです。1JPYCは常に1円と等価で、100%円預金および日本国債によって裏付けされています。Avalanche、Ethereum、Polygonの3チェーンに対応しており、国内外への迅速かつ低コストな送金・決済の手段として期待が高まっています。

しかし課題がありました。上場企業や地方公共団体がJPYCを業務に導入しようとする場合、「ブロックチェーン上の取引が本当に存在したか」を会計監査の文脈で証明する手段が不足していたのです。既存の監査ツールの多くは外部APIやサードパーティのデータに依存しており、日本公認会計士協会(JICPA)が示す高い信頼性要件を満たすことが難しい状況でした。

JPYC Explorerはこの問題に対し、「自社構築・自社管理型フルノード」という解答を提示します。フルノードとは、ブロックチェーンの全取引履歴を自社のサーバーに保持し、その正当性を自ら検証できるコンピュータのことです。外部サービスに依存しないため、データの改ざんリスクを排除でき、監査法人が求める「第三者に左右されない信頼性」を担保できます。JICPAが業種別委員会研究資料第2号で言及した「ブロックチェーンノードから直接データを取得する手法」を、実際のプロダクトとして実装した点は注目に値します。

このツールが普及すると何が変わるのか。上場企業や自治体がJPYCをバランスシートに載せることへの心理的・制度的ハードルが大きく下がります。これはJPYC単体の問題を超えて、日本国内のステーブルコイン市場全体の「信頼インフラ」として機能する可能性を持ちます。

一方、潜在的なリスクも見ておく必要があります。基本料金が月額50万円(税抜)という価格設定は、大企業や監査法人が主なターゲットであることを示しており、中小企業への普及には別途のアプローチが必要になるでしょう。また、自社でフルノードを運用するには専門的な技術力が求められます。障害発生時の対応や、ブロックチェーンの仕様変更への追従といった運用コストも考慮が必要です。

規制環境の観点からも、タイミングは絶妙です。日本では暗号資産税制の見直しが議論されており、将来的に申告分離課税(20%)の導入を目指す方向性が示されています。もっとも、制度変更には金融商品取引法など関連法制の整備が前提となるため、実施時期は現時点で確定していません。監査インフラが整備されれば、この流れをさらに加速させる触媒になり得ます。

グローバルに目を向けると、ステーブルコイン市場の総時価総額はすでに3,080億ドルを超えており(2025年時点)、米国ではGENIUS法の成立により連邦レベルの規制枠組みが整備されつつあります。JPYCはこの大きな潮流の中で、「アジア発・円建て・監査対応済み」という独自のポジションを狙っています。国内では三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友銀行、みずほ銀行による共同ステーブルコイン構想も進んでおり、競争環境は今後急速に激化する見通しです。

JPYC Explorerの本質は、ステーブルコインを「使える通貨」から「監査できる通貨」へとアップグレードする試みです。技術的な先進性だけでなく、会計・法務・規制の三領域をまたいだインフラとして機能する点で、日本のWeb3実装における重要な一歩と位置づけられます。

【用語解説】

ステーブルコイン
法定通貨(円やドルなど)と1対1で価値が連動するよう設計されたブロックチェーントークンである。価格変動が激しい通常の暗号資産と異なり、価値が安定しているため、決済・送金手段としての実用性が高い。日本では資金決済法によって、発行できるのは銀行・資金移動業者・信託会社に限定されている。

フルノード
ブロックチェーン上のすべての取引履歴を自社のサーバーにダウンロードし、取引の正当性を自ら検証できるコンピュータのことである。外部サービスやAPIに依存しないため、データの独立性と信頼性が高く、監査用途に適している。

API
異なるソフトウェアやシステム同士がデータや機能を連携するための接続口のことである。外部のAPIサービスに依存すると、そのサービスの障害や仕様変更の影響を受けるリスクがある。

オンプレミス
クラウド(外部のサーバー)ではなく、自社が物理的に所有・管理するサーバーにシステムを構築・運用する形態のことである。データを外部に預けないため、セキュリティや監査対応の観点で重視される場面がある。

資金決済法(資金決済に関する法律)
送金・決済サービスや電子マネーなどを規制する日本の法律である。2023年の改正により、ステーブルコインは「電子決済手段」として同法に位置づけられ、発行者には100%準備金の保持などが義務付けられている。

【参考リンク】

アステリア株式会社(外部)
東証上場(証券コード:3853)のソフトウェア開発企業。「ASTERIA Warp」を主力に1万社超の導入実績。JPYC Explorerの開発元。

JPYC株式会社(外部)
金融庁登録の資金移動業者として、2025年10月27日より日本円建てステーブルコインJPYCの発行を開始した企業。

合同会社暗号屋(外部)
福岡・東京を拠点とするブロックチェーン技術専門組織。「Lensa」の開発実績を持つJPYC Explorerの共同開発パートナー。

日本公認会計士協会(JICPA)(外部)
公認会計士・監査法人の全国組織。Web3.0関連企業の監査課題をまとめた研究資料を公表。JPYC Explorerはその提言を製品化したツール。

Circle(外部)
米国・ボストン本社のフィンテック企業。米ドル建てステーブルコインUSDCの発行元。JPYC ExplorerはUSDCへの対応を予定している。

【参考記事】

Japan’s JPYC launches country’s first yen-denominated stablecoin(外部)
JPYCの発行開始を報じた記事。3年以内に10兆円(約65.4億ドル)の流通を目標に掲げ、USDTとの市場規模比較も詳述。(The Block / 2025年10月27日)

JPYC Launches Japan’s First Regulated Yen Stablecoin(外部)
グローバルのステーブルコイン市場総時価総額が3,080億ドルを超えていることなど、具体的な数値を交えてJPYCを解説。(CoinMarketCap / 2025年10月27日)

JPYC Raises $12M in Series B Funding Led by Asteria(外部)
アステリア主導によるJPYCのシリーズB資金調達(12Mドル)を報じた記事。両社の資本関係を示す重要な背景情報。(Phemex / 2026年2月)

What Is JPY Coin (JPYC), Japan’s First Regulated Yen Stablecoin, and How Does It Work?(外部)
2026年2月時点の時価総額(約14.5M〜17.1Mドル)やLINE NEXTとのMOUなど最新動向を含む包括的な解説記事。(BingX / 2025年11月)

2025 Crypto Regulatory Round-Up(外部)
米国GENIUS法の成立を軸に、日本・EU・香港など世界の暗号資産規制動向をまとめたレポート。規制環境の背景理解に有用。(Chainalysis / 2025年12月)

Blockchain & Cryptocurrency Laws & Regulations 2026 | Japan(外部)
日本の暗号資産・ステーブルコイン法規制を体系的に解説。電子決済手段(EPI)の定義や資金決済法改正の詳細を網羅。(Global Legal Insights / 2025年10月)

【編集部後記】

日本円と1対1で交換できるデジタル通貨「JPYC」を、企業や自治体が安心して使うための「監査ツール」が登場した、というニュースです。

JPYCは2025年10月に発行が始まった日本初の円建てステーブルコインなんですが、上場企業や自治体が実際に導入しようとすると「ちゃんと取引が存在したか、会計監査で証明できるか」という壁にぶつかっていました。そこでアステリアという企業と、ブロックチェーン専門の暗号屋が組んで作ったのが「JPYC Explorer」です。自社のサーバーにブロックチェーンの全データを持つ「フルノード」という仕組みを使って、外部サービスに頼らず自分たちで取引を検証できるようにしました。

監査法人が「これなら信頼できる」と認めるレベルのツールです。2026年4月1日から提供開始で、月額50万円〜という価格設定なので、ターゲットは大企業や監査法人です。要するに「JPYCを帳簿に載せられる時代」の幕開けを告げるニュース、という感じです。

テクノロジーの普及って、いつも「使える」より「信頼できる」が後から追いかけてくるんですよね。JPYC Explorerはその追いかけっこを、ようやく終わらせようとしている一手だと感じています。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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