英国の元首相ボリス・ジョンソンは2026年3月15日、Daily Mail紙への寄稿記事の中でBitcoin(BTC)を「ポンジースキーム」と呼んだ。記事では、友人が500英ポンド(約661ドル)をBTC投資名目の詐欺師に渡し、その後3年半で計2万英ポンド(約2万6,474ドル)を失った事例を紹介した。ジョンソンはポケモンカードの方がBTCより取引可能な資産だと主張した。
これに対しStrategyの共同創業者マイケル・セイラーは、Bitcoinには中央の運営者も発行者も保証されたリターンも存在しないとして反論した。The Bitcoin Bond CompanyのCEOピエール・ロシャールは、英国こそが負債によって賄われた「巨大なポンジースキーム」だと述べた。
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Former UK Prime Minister Boris Johnson calls Bitcoin a ‘Ponzi scheme’
【編集部解説】
今回の騒動を正確に理解するためには、まずジョンソン氏の主張の構造を整理する必要があります。彼が問題にしているのは「Bitcoinそのもの」と「Bitcoinを悪用した詐欺」の2つが混在しており、その区別が意図的にあいまいにされている点です。記事の核となるエピソード、すなわち知人が詐欺師にお金を騙し取られた話は、Bitcoin自体の問題ではなく「Bitcoin投資を騙った詐欺」の話です。こうした投資詐欺は、金・不動産・FXなど、あらゆる資産クラスで起きうるものです。
また、複数の海外メディアが報じているジョンソン氏の主張の核心は「Bitcoinは新たな投資家を常に必要とするポンジースキームだ」という点にあります。しかし、ポンジースキームの定義は「中央の運営者が存在し、後から参加した投資家の資金を使って先の投資家に配当を支払う仕組み」です。Bitcoinにはその中央運営者が存在せず、発行体も保証もありません。Xのコミュニティノートにも、この点を指摘する補足が付けられました。
この議論が2026年のタイミングで起きていることには、注目すべき背景があります。Bitcoinネットワークはちょうど同じ週に2000万枚目のコインの採掘を達成しており、残り100万枚を超えるまでに100年以上かかるという供給の希少性が改めて注目されていました。また、CoinbaseのCEOブライアン・アームストロングも「インフレ耐性を持つグローバルなマネー」としてBitcoinを称賛したばかりでした。こうしたポジティブな文脈の中で飛び込んできた否定的な発言だったため、業界の反応が特に激しくなったと言えます。
ジョンソン氏への反論は、マイケル・セイラーだけにとどまりませんでした。Tether CEOのパオロ・アルドイーノ、初期Bitcoinの開発者の一人であるアダム・バックなど、業界の主要人物が次々と声を上げました。投資家のフレッド・クルーガーは「ポンジースキームには通常、中央の運営者が必要だ。Bitcoinにあるのは数学だけだ」と端的に反論しています。
一方で、ジョンソン氏の懸念を完全に無視することもできません。実際にBitcoinを騙った詐欺の被害者は世界中に存在し、特にリテラシーの低い高齢者層が標的にされやすいという問題は現実のものです。この点において、彼の「警鐘」としての側面には一定の社会的意義があります。
規制への影響という観点では、英国では健全性規制機構(PRA)が2025年3月までに企業の暗号資産エクスポージャーの報告を求め、さらに包括的な暗号資産規制の枠組みを2027年10月施行に向けて整備中です。2019年から2022年まで英国首相を務めたジョンソン氏のような発言力を持つ人物の主張は、この立法・規制の議論に直接影響しうるため、単なる「誤解」として流すことができない政治的重量があります。
長期的な視点で見れば、こうした議論は繰り返されてきたものです。エコノミストのヌリエル・ルービニは以前から暗号資産を「バブルのポンジースキーム」と呼び、欧州中央銀行のファビオ・パネッタ理事も2022年に「崩壊しうるカードの家」と表現していました。しかしBitcoinはその都度批判を乗り越え、制度的な採用を拡大させてきた歴史があります。今回の論争もまた、その歴史の一幕として記録されるでしょう。
【用語解説】
ポンジースキーム
詐欺的な投資スキームの一種。新たな出資者から集めた資金を、既存の出資者への「運用利益」として還元する仕組みで、実際には資産運用は行われていない。中央の運営者が存在することが定義上の必須条件であり、1920年代にチャールズ・ポンジーが行った詐欺に由来する。
コミュニティノート(Xのコミュニティノート)
X(旧Twitter)上で、誤解を招く可能性のある投稿に対して一般ユーザーが補足情報を付記できる機能。複数のユーザーによる合意形成を経て表示される。今回はジョンソン氏の投稿に対し、ポンジースキームの定義とBitcoinの差異を指摘するノートが付いた。
法定通貨(フィアット通貨)
国家や中央銀行が発行する通貨の総称。円、ドル、ポンドなどが該当する。裏付けとなる金などの実物資産を持たず、政府・中央銀行への信用によって価値が維持される。
健全性規制機構(PRA)
英国中央銀行(イングランド銀行)傘下の金融規制機関。銀行・保険会社などの健全性を監督する。2025年3月、傘下企業に対して暗号資産エクスポージャーの報告を求める行政指示を出した。
【参考リンク】
Strategy(旧MicroStrategy)(外部)
2025年2月にMicroStrategyから改称。セイラー共同創業の世界最大法人Bitcoin保有企業。738,731 BTCを保有(2026年3月)。
Daily Mail(外部)
ジョンソン氏が「Bitcoinはポンジースキーム」と寄稿した英国最大級の日刊紙。世界有数の読者数を誇り、英語圏で広く読まれている。
Tether(外部)
米ドル連動型ステーブルコインUSDTの発行体。CEOはパオロ・アルドイーノ。USDTは時価総額が暗号資産業界最大級で取引所で広く使われる。
Cointelegraph(外部)
2013年創刊の暗号資産・ブロックチェーン専門英語メディア。今回の論争を報じた元記事を掲載した業界を代表するニュースサイト。
Financial Conduct Authority(FCA)(外部)
英国の金融行為規制機構。暗号資産広告規制を担い、2027年10月施行予定の包括的な暗号資産規制整備を進めているFCAの公式サイト。
【参考記事】
Boris Johnson calling Bitcoin a ‘Ponzi’ draws rebuttal from Michael Saylor and others(外部)
ジョンソン氏のBitcoin批判にセイラーらが即反論。XのコミュニティノートでBitcoinとポンジースキームの違いが指摘されたことを詳報。
Crypto Leaders Push Back After Boris Johnson Calls Bitcoin a Ponzi(外部)
セイラー、アルドイーノ、アダム・バックら業界主要人物の反論を網羅。クルーガーの「Bitcoinには数学しかない」発言も紹介している。
Michael Saylor slams Boris Johnson’s harsh warnings on Bitcoin(外部)
ジョンソン氏の「Bitcoinは新たな信者を常に必要とする」という主張を詳述。Strategyの738,731 BTC保有も明記した記事。
Boris Johnson bashes Bitcoin — and gets educated by crypto’s biggest names(外部)
高齢者のBitcoin被害リスクを訴えるジョンソン氏の主張を詳報。ルービニやECBパネッタ理事など批判者の歴史的背景も網羅した記事。
Boris Johnson Calls Bitcoin a ‘Ponzi Scheme,’ Saylor Hits Back(外部)
オックスフォードシャーの村人がパブで詐欺被害に遭ったエピソードの詳細と、同週のBitcoin2000万枚採掘の背景を解説。
UK firms required to reveal cryptocurrency involvement or exposure by March 2025(外部)
英国のPRAが2025年3月までに企業の暗号資産エクスポージャー開示を求めた事実を詳報。英国の規制動向を整理した記事。
New crypto rules to unlock growth and protect customers(外部)
英国政府が2027年施行の包括的暗号資産規制を発表した公式声明。FCAが主導する規制整備の全体像と消費者保護の方向性を明示。
【編集部後記】
「ポンジースキームか、それとも新しいお金か」——この問いは、Bitcoinが登場して以来ずっと繰り返されてきました。
2027年には英国でも本格的な暗号資産規制が始まろうとしている今、政治家の発言が規制論議に影響を与える可能性はゼロではありません。あなたの周りでは、Bitcoinはどう語られていますか?







































