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三菱電機×Science Tokyo、世界初のハイブリッドブロックチェーンで「グリーンウォッシュのない」環境価値取引を実現へ

三菱電機株式会社と国立大学法人東京科学大学(Science Tokyo)は2026年3月16日、環境価値取引の信頼性を確保するハイブリッドブロックチェーン技術を世界で初めて開発したと発表した。本技術は、参加者を限定したプライベート型のトレーサビリティー用ブロックチェーンと、多くの参加者が参加できるパブリック型の価値取引用ブロックチェーンを組み合わせたもので、水素・CO₂・合成燃料などの変換価値と環境価値の履歴を改ざんが極めて困難な形で記録・管理する

両者は「三菱電機エネルギー&カーボンマネジメント協働研究拠点」において共同で開発を進めており、2030年代の実用化を目指す。

From: 文献リンク世界初、環境価値取引の信頼性を確保するハイブリッドブロックチェーン技術を開発|三菱電機

【編集部解説】

今回の発表が特に意味を持つのは、タイミングにあります。日本では2026年度から排出量取引制度(GX-ETS)の本格稼働が段階的に開始され、2033年度には発電事業者への排出枠の有償オークション導入も予定されています。年間CO₂排出量が10万トン以上の企業が対象となるこの制度において、「環境価値をどう正確に測定・記録し、公正に取引するか」という問いへの答えが社会全体で緊急に求められている局面に、今回の技術が登場したことになります。

まず、技術の構造を整理しましょう。今回開発されたのは、「プライベート型」「パブリック型」という、性格の異なる2種類のブロックチェーンを組み合わせた「ハイブリッド」構成です。プライベート型は、参加者を限定した閉じたネットワークで、センサーデータや変換装置の入出力を厳密に記録・監視します。パブリック型は、誰でも参加できるオープンな取引市場として機能します。この2層構造が重要な意味を持ちます。「信頼性の担保(プライベート側)」と「市場の開放性(パブリック側)」という、通常はトレードオフになりやすい2つの要件を、同時に解決しようとしているからです。

この技術が解決しようとしている課題の一つが、いわゆる「グリーンウォッシュ」です。太陽光でつくった電気を水素に変換し、さらに合成燃料に変換するような複数のステップを経ると、その電気が本当に再生可能エネルギー由来であるという証拠が途中で失われがちでした。現行の認証制度では、証書発行のタイムラグや管理基準の不統一といった問題があり、「本当にグリーンなのか」を第三者が検証する手段が限られていました。今回の技術は、変換の各ステップでCO₂強度を測定し、ブロックチェーン上に改ざん困難な形で記録することで、この「証拠の連鎖」を保全しようとするものです。

階層型のノード構造も注目すべき点です。センサーノード→短期記憶ノード→長期記憶ノードという3層構造により、膨大なリアルタイムデータを高速処理しながら、最終的には改ざんが極めて困難なブロックとして永続保存する設計になっています。また、BFT(ビザンチン・フォルト・トレランス)と呼ばれる合意形成方式を採用しており、参加ノードの一部が故障したり不正な情報を送信したりしても、システム全体の整合性を保てる仕組みになっています。これは、エネルギー取引という社会インフラ級のシステムに求められる耐障害性として、理にかなった選択です。

一方で、この技術が直面するであろう課題も見据えておく必要があります。「世界初」という発表は、技術としての先進性を示すものですが、同時に、実証実験の積み重ねや標準化プロセスがこれからであることも意味します。欧州では水素の認証基準の整備が進んでおり、国際的な規格との整合性を確保できるかどうかが、グローバル展開の鍵になります。また、エネルギー取引にブロックチェーンを活用する試みは世界各地で進んでいます。Ledger Insightsなどの専門メディアが報じてきたように、三菱電機は2021年にも東京工業大学(現Science Tokyo)とP2P電力取引向けブロックチェーンを発表しており、今回はその延長線上にある研究の深化と見ることができます。

長期的な視点で見ると、この技術が目指す「地産地消型の分散型価値取引市場」は、エネルギーの民主化という大きな潮流と重なります。地域コミュニティ単位で再生可能エネルギーの環境価値を生産・取引・消費するエコシステムが実現すれば、大手電力会社を介さずとも、個人や中小事業者がエネルギー市場の能動的なプレイヤーになれる未来が開けます。2030年代の実用化という目標は決して近いとは言えませんが、その先にある社会変容のインパクトは非常に大きいと言えるでしょう。

【用語解説】

グリーンウォッシュ
実態以上に環境に配慮しているように見せかける行為。例えば、化石燃料由来の電力を再生可能エネルギー由来と偽って取引するケースがこれにあたる。今回の技術はこれを防ぐことを主要な目的の一つとしている。

GX-ETS(排出量取引制度)
GX推進法に基づき、日本が2026年度から段階的に本格稼働を開始する排出量取引制度。年間CO₂排出量が10万トン以上の企業が対象となり、排出枠の過不足を企業間で売買できる。目標未達の場合は、超過削減枠やカーボンクレジットの調達、または未達理由の説明が求められ、義務を履行しない場合は金銭の支払いが課される予定である。2033年度からは発電事業者への排出枠の有償オークションも導入予定。

CO₂強度
エネルギーや物質の単位量あたりに排出されるCO₂の量。例えば「1kWhの電力を生産するのに何グラムのCO₂が排出されたか」を示す指標であり、再生可能エネルギー由来かどうかを数値で証明するために用いられる。

BFT(ビザンチン・フォルト・トレランス)
分散システムにおいて、一部のノード(構成要素)が故障したり、悪意ある誤情報を送信したりしても、システム全体として正常な合意形成を維持できる設計思想。名称は「裏切り者が混在する状況でも軍全体が正しい意思決定をできるか」というビザンチン将軍問題に由来する。

P2P電力取引(ピア・トゥ・ピア電力取引)
電力会社などの中間業者を介さず、発電者と需要者が直接電力を売買する仕組み。三菱電機とScience Tokyoは2021年にもこの分野でブロックチェーン技術を共同開発しており、今回の発表はその延長線上にある。

プライベート型BC/パブリック型BC
ブロックチェーンの参加形態の違いを指す。プライベート型は参加者を限定した閉じたネットワークで、データの信頼性・正確性の確保に適している。パブリック型は誰でも参加できるオープンなネットワークで、市場としての開放性・流動性に適している。今回の技術はこの2つを組み合わせることで双方の長所を活かしている。

【参考リンク】

三菱電機株式会社 公式サイト(外部)
1921年創業の総合電機メーカー。エネルギー・FA・防衛・宇宙・空調・家電など幅広い事業を展開する。

国立大学法人東京科学大学(Science Tokyo)公式サイト(外部)
東京医科歯科大学と東京工業大学が2024年10月に統合して誕生した国立大学の公式サイト。

Jクレジット制度 公式サイト(外部)
国内の温室効果ガス排出削減量・吸収量をクレジットとして認証し、企業や自治体が売買できる制度の公式情報。

GXリーグ 公式サイト(経済産業省)(外部)
日本のGX推進のための官民プラットフォーム。排出量取引制度(GX-ETS)の試行・本格稼働に向けた情報を掲載。

【参考記事】

Mitsubishi Electric develops new blockchain for P2P energy trading|Ledger Insights(2021年1月)(外部)
三菱電機と東京工業大学(現Science Tokyo)による2021年のP2P電力取引向けBC発表を報じた専門メディア記事。今回発表の前身にあたる研究を詳説。

Is it green? Designing a blockchain-based certification system for the EU hydrogen market|Frontiers in Blockchain(2026年1月)(外部)
EU水素市場の認証課題をBCで解決する設計論。グリーン水素はEU全体のわずか2%、残り96%は化石燃料由来という現状を指摘した学術論文。

Applications of blockchain technology in peer-to-peer energy markets and green hydrogen supply chains|Scientific Reports・Nature(2024年9月)(外部)
再エネグリッド統合におけるBCの活用事例を包括的にレビュー。水素コストが2030年に€1〜2/kgへ低下する見通しも示す。

The Role of Blockchain in Green Hydrogen Value Chains|Harvard Kennedy School Belfer Center(2021年11月)(外部)
グリーン水素バリューチェーン全体の排出量追跡・標準化の必要性を論じたハーバード大学ケネディスクールのレポート。

Blockchain for the carbon market: a literature review|Discover Environment・Springer Nature(2025年6月)(外部)
カーボン市場へのBC活用を網羅的にレビュー。透明性・非効率性・ガバナンス問題をスマートコントラクトで解決する可能性を分析。

【編集部後記】

「グリーン」という言葉が、いつか当たり前に信頼できる時代が来るとしたら、その土台にはこうした技術があるのかもしれません。

あなたの地域のエネルギーが、どこで生まれ、どう変換されたかを誰でも確認できる社会——そんな未来をどう感じますか?

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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