急成長する宇宙ビジネスの裏側で、衛星そのものが「サイバー攻撃の新たなフロントライン」になりつつあります。
GMOサイバーセキュリティ byイエラエとSynspectiveの共同研究は、日本発の技術でこの見えない戦場をどう守ろうとしているのかに迫る一歩です。
GMOサイバーセキュリティ byイエラエ株式会社と株式会社Synspectiveは、2025年12月8日、衛星システムに対するサイバーセキュリティ強化を目的とした共同研究を開始した。
World Economic Forumによると、宇宙産業の市場規模は2023年の約95兆円から2030年には約174兆円、2035年には約269兆円への拡大が予想されている。小型衛星コンステレーションを狙ったサイバー攻撃対策の必要性が高まる中、両社は衛星システムにおける脅威とリスクの特定、衛星システム固有のセキュリティテストの策定と実施を行う。
Synspectiveは2020年代後半までに30機の小型SAR衛星コンステレーションの構築を目指している。本研究により、将来的な衛星設計と開発のためのセキュリティ評価手法の確立を図る。
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GMOサイバーセキュリティ byイエラエとSynspective、「衛星サイバーセキュリティ」に関する共同研究を開始
【編集部解説】
宇宙産業がインフラ化する今、衛星システムは通信、GPS、地球観測といった社会基盤を支える存在になりました。その一方で、サイバー攻撃のリスクも急速に高まっています。
従来の大型衛星と異なり、小型衛星はコスト削減のため市販の汎用部品(COTS)を多用し、オープンなアーキテクチャを採用するケースが増えています。これは開発コストを抑える反面、IoTデバイスやSCADAシステムと同様の脆弱性を抱えることを意味します。欧州ネットワーク情報セキュリティ機関(ENISA)の2025年レポートでは、暗号化の脆弱性、ソフトウェアの設定ミス、サプライチェーンのリスクが主要な脅威として指摘されています。
特に注目すべきは、衛星コンステレーション全体が標的になり得る点です。一つの衛星が侵害されると、相互通信を通じて他の衛星にも影響が波及する可能性があります。実際、2025年の時点で紛争地域ではGPS信号の妨害やなりすまし攻撃が頻発しており、地上の軍事作戦だけでなく民間サービスにも影響を及ぼしています。
今回の共同研究が重要なのは、宇宙空間という特殊環境に特化したセキュリティ評価手法を確立しようとしている点にあります。地上のシステムとは異なり、衛星は物理的なメンテナンスが困難で、一度打ち上げられるとリモートでのパッチ適用に頼らざるを得ません。GMOサイバーセキュリティ byイエラエが車両やIoT、ドローンで培ったハッキング技術を衛星に応用することで、設計段階から脆弱性を洗い出し、実践的な防御策を構築できる可能性が広がります。
この取り組みは単なる企業間の協力にとどまらず、日本の宇宙産業全体のセキュリティ水準を底上げする試金石となるでしょう。
【用語解説】
小型SAR衛星
SAR(Synthetic Aperture Radar:合成開口レーダー)を搭載した小型衛星。電波を使って地表を観測するため、夜間や悪天候でも高解像度の画像取得が可能である。光学衛星と異なり、雲や霧を透過できる特性を持つ。
衛星コンステレーション
複数の衛星を協調的に運用し、一つのシステムとして機能させる仕組み。個々の衛星が連携することで、地球全体を高頻度でカバーできる観測網を構築する。
ホワイトハッカー
セキュリティの専門知識を持ち、システムの脆弱性を発見・報告することで、サイバーセキュリティの向上に貢献する技術者。悪意を持つブラックハッカーとは対照的に、倫理的なハッキングを行う。
ペネトレーションテスト
システムやネットワークに対して実際の攻撃を模擬的に実施し、脆弱性やセキュリティ上の弱点を発見するテスト手法。侵入テストとも呼ばれる。
【参考リンク】
GMOサイバーセキュリティ byイエラエ株式会社(外部)
国内最大規模のホワイトハッカー組織を持つサイバーセキュリティ企業。脆弱性診断やペネトレーションテストなど包括的なサービスを提供。
株式会社Synspective(外部)
小型SAR衛星の開発・運用を行う日本の宇宙ベンチャー。2020年代後半までに30機の衛星コンステレーションを構築予定。
World Economic Forum – Space Report(外部)
世界経済フォーラムが発表した宇宙産業レポート。2024年4月発行で、市場規模予測や成長機会について詳述している。
【参考記事】
SMALL SAT TRENDS AND CYBER CONSIDERATIONS (Space ISAC White Paper)(外部)
Space ISACによる小型衛星とサイバーセキュリティのホワイトペーパー。衛星コンステレーション攻撃と脆弱性波及リスクを警告。
【編集部後記】
衛星が日常生活に欠かせないインフラになった今、そのセキュリティは私たち全員に関わる問題になりました。GPSが使えなくなったら、気象予報が届かなくなったら、どんな影響があるでしょうか。
宇宙というと遠い世界に感じるかもしれませんが、実は私たちの暮らしと直結しています。今回の取り組みのように、地上で培われた技術が宇宙の安全を守る時代が始まっています。みなさんは、衛星サービスにどんな期待を持っていますか?未来の宇宙インフラについて、一緒に考えていきましょう。






























