ChatGPT共有機能が攻撃の入口に──Atlas偽装でmacOSユーザーを狙うClickFix攻撃

[更新]2025年12月11日

ChatGPT共有機能が攻撃の入口に──Atlas偽装でmacOSユーザーを狙うClickFix攻撃 - innovaTopia - (イノベトピア)

Kasperskyの専門家が2025年12月、ChatGPTの公式ウェブサイトを悪用した新たなサイバー攻撃キャンペーンを発見した。攻撃者はGoogle検索広告を通じて「chatgpt atlas」を検索するユーザーを標的とし、OpenAIの新しいAtlasブラウザのインストールガイドを装った悪意のあるページへ誘導する。

リンク先はchatgpt.com/share/で始まる共有チャット機能を利用しており、公式サイト上でホストされている。プロンプトエンジニアリングによってChatGPTに作成させた偽のインストールガイドは、ユーザーにTerminalでコマンドを実行させ、atlas-extension.comから悪意のあるスクリプトをダウンロードさせる。

これはClickFix攻撃の変種である。感染するとAMOS(Atomic macOS Stealer)インフォスティーラーが起動し、Chrome、Firefox、Electrum、Coinomi、Exodus、Telegram Desktop、OpenVPN Connectなどからパスワード、Cookie、暗号通貨ウォレット情報を窃取する。

さらにDesktop、Documents、DownloadsフォルダーからTXT、PDF、DOCX形式のファイルも盗み出す。AMOSはバックドアもインストールし、システム再起動時に自動起動して遠隔操作を可能にする。

From: 文献リンクThe AMOS infostealer is piggybacking ChatGPT’s chat-sharing feature

【編集部解説】

今回の攻撃で最も注目すべきは、信頼できるプラットフォームの正規機能を悪用する手法の巧妙さです。ChatGPTの共有チャット機能は、ユーザー同士が有益な会話を共有するために設計されたものですが、攻撃者はプロンプトエンジニアリングによってAI自身に悪意のあるガイドを生成させ、その会話履歴を整理して公開しました。結果として、公式ドメインchatgpt.com上でホストされた「信頼できる」ページが完成したのです。

ClickFix攻撃は2025年に入って517%増加しているという報告もあり、この手法自体が急速に広がっています。従来はCAPTCHA突破やシステムエラー修復を装うケースが多かったのですが、今回は「新しいツールのインストール」という、より中立的で好奇心を刺激する文脈に変化しています。技術的な脆弱性を突くのではなく、人間の心理と信頼を悪用する点が特徴です。

興味深いのは、OpenAIが実際に2025年10月にAtlasというAIブラウザを発表していることです。この実在するプロダクト名を利用することで、攻撃の信憑性が大幅に高まりました。ただし、本物のAtlasはmacOS専用ではありませんし、Terminalコマンドでのインストールも不要です。しかし、新技術に対する期待と情報の不足が、ユーザーの判断を鈍らせる要因となっています。

AMOSインフォスティーラーの被害範囲も深刻です。ブラウザの認証情報や暗号通貨ウォレットに加え、macOSのキーチェーンにアクセスしてWi-Fi認証情報や証明書まで窃取します。さらに設置されるバックドアは、システム再起動後も動作し続け、攻撃者に長期的な遠隔操作の手段を提供します。つまり、初期感染後も継続的に情報が流出し続けるリスクがあるのです。

この事例が示すのは、AIツールの普及に伴う新たな攻撃面の拡大です。セキュリティ研究者は、AIブラウザが信頼されたユーザーの指示と悪意のあるウェブページ上のテキストを区別できない問題を指摘しており、技術的な対策が追いついていない現状が浮き彫りになっています。

【用語解説】

インフォスティーラー(Infostealer)
パスワード、Cookie、暗号通貨ウォレット情報、ドキュメントなど、コンピュータから価値のあるデータを盗み出すことを目的としたマルウェアの一種。2025年最も急成長しているサイバー脅威となっている。

ClickFix攻撃
ユーザーにコマンドプロンプトやターミナルで特定のコマンドを手動実行させることで、マルウェアをダウンロード・実行させる攻撃手法。CAPTCHA突破やシステムエラー修正を装うケースが多い。

AMOS(Atomic macOS Stealer)
macOSを標的としたインフォスティーラー。ブラウザの認証情報、暗号通貨ウォレットデータ、各種アプリケーションの情報を窃取し、バックドアを設置して遠隔操作を可能にする。

バックドア
攻撃者がシステムに不正アクセスするための裏口。一度設置されると、システム再起動後も動作し続け、長期的な遠隔操作や情報窃取を可能にする。

プロンプトエンジニアリング
AIチャットボットから望ましい出力を得るために、入力する質問や指示を工夫する技術。今回の攻撃では、ChatGPTに悪意のあるインストールガイドを生成させるために悪用された。

共有チャット機能
ChatGPTなどのAIチャットボットで、自分の会話を他のユーザーと共有できる機能。共有されたチャットはchatgpt.com/share/で始まるURLで公開される。

【参考リンク】

Kaspersky公式ブログ(外部)
サイバーセキュリティ企業が運営する公式ブログ。最新のサイバー脅威、マルウェア分析、セキュリティ対策に関する専門的な情報を提供。

OpenAI公式サイト(外部)
ChatGPTやAtlasブラウザを開発する人工知能研究企業。大規模言語モデルGPTシリーズを始めとする先端AI技術を提供。

ChatGPT公式サイト(外部)
OpenAIが提供する対話型AIチャットボット。会話の共有機能を持ち、今回の攻撃ではこの機能が悪用された。

【参考記事】

ClickFix attack surge: fake ChatGPT Atlas installers steal passwords(外部)
ClickFix攻撃が2025年に517%増加したという統計データを報告。偽のChatGPT Atlasインストーラーを使った攻撃手法の急増を分析。

AI-Poisoning & AMOS Stealer: How Trust Became the Trojan Horse(外部)
AMOS Stealerが信頼されたAIプラットフォームを悪用する手法を解説。ChatGPTやGrokなどのAIツールに対するユーザー信頼の悪用を指摘。

Experts warn OpenAI’s ChatGPT Atlas has security flaws that could leak user data, spread malware(外部)
2025年10月に発表されたAtlasブラウザのセキュリティ脆弱性を専門家が警告。プロンプトインジェクション攻撃のリスクを報告。

【編集部後記】

新しいAIツールへの期待が、逆に私たちの判断を鈍らせる時代になりました。公式サイトのURLだから安全、という常識が通用しなくなっているのです。

みなさんは、ターミナルでコマンドを実行するよう促された経験はありますか?もしそのような場面に遭遇したら、一度立ち止まって考えてみてください。技術の進化とともに、攻撃手法も驚くほど洗練されています。便利さと安全性のバランスについて、一緒に考えていけたら嬉しいです。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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