advertisements

サイバーセキュリティ月間に考える──「誰のためのセキュリティ」なのか

A conceptual editorial illustration showing a human silhouette standing between two opposing digital forces: on one side a rigid, glowing firewall labeled “Security,” on the other side a shadowy network of servers and surveillance cameras. The human figure holds a small personal lock or key close to their chest, symbolizing personal security. Minimalist style, muted colors, high contrast lighting, abstract and thoughtful mood, no national flags or logos.

毎年2月、日本では「サイバーセキュリティ月間」が実施されます。

啓発活動としての意義は否定されるべきではありませんが、この期間にこそ、私たちは一歩立ち止まり、「サイバーセキュリティ」とは本来何を守り、誰のためのものなのかを考える必要があります。

セキュリティは誰が定義するのか

セキュリティとは、本質的に管理者が定義する概念です。
管理者が「防ぎたいもの」を侵害や攻撃と呼び、それ以外は問題とされません。これは企業システムでも国家インフラでも同じです。

しかし、もしその管理者が私たち自身の利益と相反する存在であった場合、どうなるでしょうか。
そのとき「セキュリティ」は、私たちを守る盾ではなく、行動を制限するための道具になります。
セキュリティは絶対的な善ではなく、常に相対的なものです。だからこそ、「誰かのセキュリティ」を無批判に受け入れるのではなく、「自分自身のセキュリティ」を第一に考える姿勢が重要です。

「ホワイトハッカー」「正義のハッカー」という錯誤

近年よく使われる「ホワイトハッカー」や「正義のハッカー」という言葉も、慎重に扱う必要があります。
これらの呼称は、多くの場合、国家や権力側の都合によって定義されています。

国家に奉仕する行為は、たとえ他者に被害を与える可能性があっても「能動的サイバー防御」などと呼ばれ、称揚されます。一方で、国家に従わない者は、善意で脆弱性を指摘したとしても、同じ評価を受けるとは限りません。

そもそも「ハッカー」とは、破壊者を意味する言葉ではありません。
ハッカー文化とは、技術への深い理解と創造性、知的好奇心を尊ぶ文化であり、本来は尊敬されるべき高度な技術者を指す言葉でした。「ホワイト」や「正義」といった修飾語を付けなければ誤解される状況自体が、すでに概念の歪みを示しています。

主張から金銭へ──サイバー攻撃の重心移動

かつてサイバー攻撃は、何らかの政治的・社会的主張を可視化するための実力行使でした。
それは言わば、サイバー空間における議事堂占拠のようなもので、是非はともかく、明確な「メッセージ」を伴っていました。

しかし近年、その重心は大きく移動しています。
ランサムウェアや詐欺、データ転売など、金銭目的の攻撃が主流となり、サイバー攻撃は資本主義の論理に完全に組み込まれました。そこには主張も思想もなく、ただ効率と収益性だけが残っています。

この変化は、サイバー空間が社会インフラとして成熟したことの裏返しでもありますが、同時に、攻撃と防御の倫理的境界を一層曖昧にしています。

「能動的サイバー防御」「無力化」の危うさ

近年、日本でも「能動的サイバー防御」や「無力化」といった言葉が使われるようになりました。
しかし、これらは実質的に先制攻撃と区別がつきません。

「何を怪しいと判断するのか」「誰を攻撃対象とみなすのか」という基準には、必然的に政治的・恣意的判断が入り込みます。一度その線を越えれば、防御と攻撃の区別は急速に崩れます。

サイバーセキュリティは、力を持つ側にこそ厳しく制約されるべき分野です。
無力化という言葉で包まれた行為が、どのような前例を残すのかについて、社会全体で慎重な議論が求められます。


おわりに

サイバーセキュリティ月間は、パスワード管理や詐欺対策だけを呼びかける期間ではありません。
それ以上に、「誰のためのセキュリティなのか」「それは私たちを本当に守っているのか」を問い直す機会であるべきです。

セキュリティを他人任せにしないこと。
それこそが、現代における最も基本的なサイバーセキュリティ意識なのかもしれません。

投稿者アバター
ゆか Solutions Engineer
テクノロジーと人間の精神の関係を、哲学と実装の両面から探求してきました。 ITエンジニアとしてシステム開発やAI技術に携わる一方で、心の哲学や宇宙論の哲学、倫理学を背景に、テクノロジーが社会や人の意識に与える影響を考察しています。 AIや情報技術がもたらす新しい価値観や課題を、精神医学や公衆衛生の視点も交えながら分析し、「技術が人の幸福や生き方をどう変えるのか」という問いに向き合うことを大切にしています。 このメディアでは、AIやテックの最前線を紹介するだけでなく、その背後にある哲学的・社会的な意味を掘り下げ、みなさんと一緒に「技術と人間の未来」を模索していきたいと思います。

読み込み中…

innovaTopia の記事は、紹介・引用・情報収集の一環として自由に活用していただくことを想定しています。

継続的にキャッチアップしたい場合は、以下のいずれかの方法でフォロー・購読をお願いします。