トレンドマイクロ株式会社は2026年3月5日、特殊詐欺対策アプリ「トレンドマイクロ 詐欺バスター Lite」を公開した。本アプリは、警察庁が2025年12月に開始した「特殊詐欺対策アプリに係る警察庁推奨制度」において「警察庁推奨アプリ」として選定されている。
提供価格は無料で、対応OSはAndroid 11以上およびiOS 16以上である。本アプリは、警察庁が保有する詐欺電話データベースとトレンドマイクロ独自のデータベースを組み合わせ、詐欺電話の発着信時に警告を表示する機能、およびスマートブロック設定による自動遮断機能を備える。
また、警察庁の防犯情報や詐欺関連ニュースの通知機能も搭載する。既存アプリ「トレンドマイクロ 詐欺バスター」とは別アプリとして提供される。
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「警察庁推奨」特殊詐欺対策アプリ「トレンドマイクロ 詐欺バスター Lite」をリリース|トレンドマイクロ

【編集部解説】
今回のニュースは、セキュリティ大手トレンドマイクロが「警察庁推奨アプリ」の認定を受けた詐欺電話ブロックアプリ「詐欺バスター Lite」を2026年3月5日にリリースした、というものです。ただし、トレンドマイクロのプレスリリースだけを読むと見えてこない重要な背景があります。
実は、今回の「警察庁推奨制度」の第1弾として認定されたのは、トレンドマイクロのアプリだけではありません。NTTタウンページとトビラシステムズが共同開発した「詐欺対策 by NTTタウンページ」も同時に認定されており、警察庁は今後も推奨アプリの対象を増やしていく方針です。トレンドマイクロ単独の発表であるため、この文脈はプレスリリースには記されていませんが、読者の皆さんには知っておいていただきたい部分です。
なぜ今この取り組みが始まったのか。その背景には、特殊詐欺被害の深刻な拡大があります。警察庁の確定値によると、2024年の全国の特殊詐欺認知件数は前年比10.5%増の2万1,043件、被害額は同58.6%増の717億6,000万円に達しました。さらにSNS型投資・ロマンス詐欺を合算すると、2024年の被害額は計1,989.5億円(暫定値)と過去最悪を記録しています。
手口の面でも大きな変化が起きています。被害者を騙す手段として最初に用いられるツールは電話が79.0%を占めており、特にオレオレ型特殊詐欺と還付金詐欺では電話が99%を超えています。だからこそ、電話の入り口を塞ぐアプリの役割が重要になるわけです。
本アプリが従来の迷惑電話ブロックアプリと一線を画す点は、警察庁が保有する詐欺電話データベースとトレンドマイクロ独自のデータベースを組み合わせている点です。ウイルスバスターで30年以上培ってきたAI技術が、詐欺電話番号の検出に応用されています。データベースが常時更新される仕組みは、次々と変わる詐欺グループの電話番号に追随できる点で、静的なブロックリストとは本質的に異なります。
ポジティブな側面として特筆すべきは、無料提供という点です。これまでセキュリティアプリは「お金を払える人しか守られない」という構造がありましたが、警察庁のお墨付きを得た上で無料で提供されることで、デジタルリテラシーの低い高齢者層にも普及する可能性が高まります。高齢者(65歳以上)の被害認知件数は1万3,738件で、全体の65.4%を占めている現状を考えると、この無料化の判断は社会的意義が大きいと言えます。
一方で、潜在的なリスクも指摘しておく必要があります。こうした詐欺対策アプリは、発着信データや電話番号情報を処理するため、プライバシーへの配慮が求められます。既存の「詐欺バスター」のユーザーレビューを見ると、データベースの網羅性について改善を求める声も存在しており、Liteバージョンがどこまでカバーできるかは、実際の運用実績を見守る必要があります。
規制や社会インフラの観点では、警察庁が民間アプリを公式に「推奨」する枠組みを作ったこと自体が、一つの転換点です。警察庁幹部は「自治体や金融機関などと幅広く連携し、多くの人にアプリを導入してもらえるよう周知したい」と述べており、今後はお年寄りが窓口を訪れたときに金融機関がアプリ導入を勧める、といった展開も十分考えられます。
長期的な視点で見ると、詐欺の手口はAIの進化とともにさらに巧妙化していくことが予想されます。ディープフェイクを使った音声・映像なりすましが一般化しつつある中、電話番号のブロックだけでは追いつかなくなる未来も見えています。今回のアプリはあくまでも現時点での有効な防衛策であり、官民連携のデータ共有を深化させながら、次の脅威に備えるアーキテクチャをどう設計するかが、今後の課題と言えるでしょう。
【用語解説】
特殊詐欺
「オレオレ詐欺」「還付金詐欺」「架空料金請求詐欺」など、電話・郵便・SNSなど非対面の手段で不特定多数をターゲットにした詐欺の総称。警察庁が統計上使う行政用語であり、一般的に言う「振り込め詐欺」はその一部にあたる。
ニセ警察詐欺
警察官や捜査員をかたり、「あなたの口座が犯罪に使われている」などと被害者を不安にさせて現金を騙し取る手口。オレオレ詐欺の一形態で、2024年は前年比4倍以上(4,261件)に急増した。
スマートブロック
詐欺の疑いがある発着信を手動の操作なしに自動でブロックする機能。「詐欺バスター Lite」でも設定を有効化することで利用できる。
官民連携
政府・警察などの公的機関と、民間企業が協力して社会課題に取り組む枠組み。今回の推奨制度では、警察庁が保有する詐欺電話データベースを民間アプリに提供するという形で実現している。
SNS型投資・ロマンス詐欺
SNSやマッチングアプリを通じて接触し、投資や恋愛感情を利用して金銭を騙し取る詐欺の形態。特殊詐欺とは別に集計されており、2024年の被害額(確定値)は特殊詐欺(約718億円)をはるかに上回る約1,272億円(1,271億9,000万円)に達した。
【参考リンク】
トレンドマイクロ 詐欺バスター Lite 公式ページ(外部)
警察庁推奨アプリの公式ページ。ダウンロードリンク・機能説明・上位版との比較が掲載されている。
トレンドマイクロ株式会社 公式サイト(外部)
1988年創業のサイバーセキュリティ企業。東証プライム上場(4704)。ウイルスバスターをはじめ世界60カ国以上で事業を展開。
警察庁 特殊詐欺対策アプリ推奨制度について(PDF)(外部)
2025年12月開始の推奨制度の公式説明資料。認定条件・目的・機能要件が記載されている。
警察庁 特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等(外部)
警察庁による特殊詐欺の公式統計ページ。年次・月次の認知件数・被害額・手口別データが随時更新されている。
【参考記事】
詐欺電話をブロック、警察庁が推奨アプリ2種認定|日本経済新聞(外部)
第1弾認定が2アプリであることを報じた記事。NTTタウンページ×トビラシステムズ共同開発の「詐欺対策 by NTTタウンページ」も同時認定と伝える。
2024年の特殊詐欺:全国で被害700億円超す 前年比6割近くも増加―警察庁|nippon.com(外部)
確定値ベースで認知件数2万1,043件・被害額717億6,000万円・高齢者被害65.4%を詳報した記事。
令和6年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等(確定値)|警察庁(外部)
電話が詐欺の最初の接触手段の79.0%を占めるデータを含む警察庁公式統計資料(2025年5月23日公表)。
【編集部後記】
「無料だから」と軽い気持ちでインストールするだけで、離れて暮らす家族の誰かを守れるかもしれない——そんな時代になりました。実は innovaTopia では昨年11月、同じトレンドマイクロが「詐欺バスター」の無料版を提供開始した際にも取り上げました。
あのときはまだ警察庁との連携はありませんでした。今回はそこに「警察庁のお墨付き」が加わり、官民連携は一段と深まりました。わずか半年足らずの変化です。テクノロジーと制度が同時に動くとき、社会は確かに変わる——その手応えを感じながらも、電話番号のブロックだけでは追いつかない脅威が近づいていることも、忘れずにいたいと思っています。







































