中国国防科技大学(NUDT)のロボット工学研究所が2025年6月21日、長さ2センチメートル、翼幅3センチメートル、重量0.3グラムの蚊サイズドローンを開発したと中国中央テレビ(CCTV)が報じた。
同大学は湖南省長沙市に所在する中央軍事委員会直属の軍事大学である。このマイクロドローンは昆虫のような羽を持ち、髪の毛のように細い脚で表面に着陸可能で、都市環境での隠密監視や情報偵察、特殊作戦に適している。
同大学学生の梁河祥氏がCCTVで実演し、微小電気機械システム(MEMS)、材料科学、バイオニクスなどの技術が融合されていると説明した。このドローンは従来の無人航空機(UAV)では大きすぎる環境でも探知されにくく、敵軍集中地域への潜入でリアルタイム情報収集が可能である。類似技術では米国のRoboBee(水中から空中への移行能力を持つ)やノルウェーのブラックホーネットドローンがあり、各国でマイクロUAV開発競争が激化している。
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China’s Military Introduces Mosquito-Sized Drones: A Game-Changing Surveillance Technology
【編集部解説】
この蚊サイズドローンの真の革新性は、その極小サイズにあります。長さ2センチメートル、重量0.3グラムという制約の中で、電源システム、制御回路、センサー、通信機能をすべて統合することは、従来の工学の常識を超えた挑戦です。
このドローンが実用化されれば、従来の軍事監視の概念を根本的に変える可能性があります。建物内部への侵入、要人の近距離監視、電子機器への物理的アクセスなど、従来不可能だった作戦が現実化するでしょう。
一方で、ノルウェーのブラックホーネット4や米国のRoboBeeプロジェクトに見られるように、この分野は国際的な技術競争の最前線となっています。中国の発表は、各国がより小型化された軍事技術への投資を加速させる契機となる可能性があります。
軍事目的で開発された技術は、しばしば民生分野に転用されます。このマイクロドローン技術は、災害救助での生存者探索、医療分野での体内診断、環境監視での野生動物追跡など、多様な平和利用の可能性を秘めています。
一方で、このような極小監視デバイスの存在は、プライバシー保護に関する新たな課題を提起します。肉眼では識別困難なドローンによる無断監視を防ぐ技術や法的枠組みの整備が急務となるでしょう。
また、テロ組織による悪用リスクも無視できません。小型化により探知が困難になるため、空港や重要施設のセキュリティシステムも根本的な見直しが必要になる可能性があります。
今後の技術発展では、自律飛行能力の向上、群集制御技術の実装、さらなる小型化が焦点となるでしょう。特に人工知能との融合により、個別に判断・行動可能な「蚊の群れ」による大規模監視網の構築が現実化する可能性があります。
この技術は、21世紀の軍事・民生両分野において、監視とプライバシーのバランスを根本的に問い直すきっかけとなりそうです。
【用語解説】
マイクロドローン:重量数グラム以下の超小型無人航空機。従来のドローンとは異なり、昆虫サイズでありながら自律飛行能力を持つ。
MEMS(微小電気機械システム):半導体技術を用いてセンサーやアクチュエーターなどの機械構造をマイクロメートル単位で製造する技術。スマートフォンの加速度センサーなどに広く使用されている。
バイオニクス:生物の構造や機能を模倣して技術開発を行う学問分野。この蚊ドローンでは昆虫の羽ばたき機構を模倣している。
ピエゾ電気アクチュエーター:電圧を加えると物理的に変形する材料を利用した駆動装置。マイクロロボットの「人工筋肉」として機能する。
Blue UAS List:米国防総省が認定するサイバーセキュリティ基準を満たした商用ドローンシステムのリスト。政府機関での公式使用が承認される。
【参考リンク】
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【編集部後記】
蚊ほど小さなドローンが現実になった今、私たちの日常はどう変わっていくのでしょうか。プライバシーの境界線が曖昧になる一方で、災害救助や医療分野での革新的活用も期待されます。
あなたは、このような極小技術がもたらす未来をどのように想像されますか?便利さと監視社会のリスクを天秤にかけたとき、私たちはどんな選択をすべきなのか。ぜひSNSで皆さんの率直なご意見をお聞かせください。テクノロジーの進歩と共に歩む未来について、一緒に考えていければと思います。