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テラドローン、クマよけスプレー搭載ドローンで全国初の民間主導クマ対策を始動

[更新]2026年1月19日

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Terra Drone株式会社は2026年1月19日、宮城県石巻市と協定を締結する企業に対し、自社開発の「クマよけスプレー搭載ドローン」の提供および運用支援を開始した。石巻市が民間企業と共同で行うクマ対策は全国初となる。

導入先は株式会社佐藤土木測量設計事務所で、石巻市との協定に基づき現場対応を実施する。

2025年は全国各地でクマの人身被害が過去最悪の水準となり、環境省によると出没件数が2021年から163%増加し全国で20,792件、4月以降の負傷者が100名、死者が12名を超えている。

クマハンターの減少や既存体制の制約が課題となる中、テラドローンは2025年11月にクマよけスプレー搭載ドローンを開発・発売した。

約500m~1km離れた場所から遠隔操作でトウガラシ由来のスプレーを噴射し、オペレーターの安全を確保しながら迅速な追い払いが可能となる。

環境省はクマ被害対策に34億円を計上しており、テラドローンは全国の自治体への展開を目指す。

From: 文献リンクテラドローン、全国で初となる民間主導の「第三のクマ対策」を始動

【編集部解説】

日本のクマ対策が、今まさに歴史的な転換点を迎えています。テラドローンが宮城県石巻市で開始した「クマよけスプレー搭載ドローン」による対応は、単なる新技術の導入ではなく、深刻化する社会課題に対する民間主導の革新的なアプローチとして注目されます。

2025年のクマ被害は、環境省の統計でも明らかなように過去最悪の水準に達しています。出没件数は2021年から163%増という驚異的な増加率を記録し、全国で20,792件、負傷者は100名、死者は12名を超えました。この数字は単なる統計ではなく、全国各地で市街地近くにまでクマが出没し、人々の生活圏が脅かされている実態を示しています。

従来のクマ対策は主に2つの方法に依存してきました。1つは狩猟免許を持つハンターによる捕獲や追い払い、もう1つは警察や自衛隊による対応です。しかし、このシステムは限界に直面しています。

ハンターの数は1975年度の約52万人から2020年度には22万人まで激減し、その6割が60歳以上という高齢化も進んでいます。若い世代のハンター不足は、単に人数の問題ではなく、緊急時の迅速な対応や、夜間・悪天候時の活動能力にも影響を及ぼしています。

一方、警察や自衛隊は野生動物への致傷訓練に任務上の制約があり、迅速な現場投入が困難です。また、地上からの追い払いは対応者自身がクマと直接対峙する危険を伴うため、二次被害のリスクも常に存在します。

こうした状況下で登場したのが、テラドローンの「第三のクマ対策」です。このシステムの最大の特徴は、約500m~1km離れた場所から遠隔操作でクマよけスプレーを噴射できる点にあります。オペレーターはクマに接近する必要がなく、安全が完全に確保されます。

使用されるスプレーはトウガラシ由来のカプサイシンを主成分としており、人間の数千倍の嗅覚を持つクマに対して即効性が高いとされています。致死性ではなく一時的に退避させる方法であるため、野生動物保護の観点からも評価できるアプローチです。

今回の石巻市での取り組みで特筆すべきは、民間企業との協定という枠組みです。導入先の株式会社佐藤土木測量設計事務所は石巻市と既に協定を結んでいる測量事業者で、ドローン操縦のノウハウを持っています。この既存のリソースを活用することで、迅速な実装が可能になりました。

テラドローンは測量、点検、農業など累計3,000件以上の実績を持ち、2024年にはDrone Industry Insightsが発表する「ドローンサービス企業世界ランキング」で世界1位を獲得しています。こうした技術力とネットワークを背景に、全国展開を視野に入れています。

環境省がクマ被害対策に34億円の予算を計上するなど、国レベルでの支援体制も整いつつあります。東北、関東、中部、近畿、中国、四国と広範囲でクマの出没が確認されている現状を考えると、石巻市のモデルケースは他の自治体にとって重要な参考事例となるでしょう。

ただし、課題もあります。石巻市のコメントにもあるように、ドローンはどこでも飛行できるわけではなく、航空法による規制や気象条件の制約があります。また、クマの行動パターンは個体や状況によって異なるため、スプレーの効果がどの程度持続するのか、繰り返し使用した場合の影響など、長期的なデータの蓄積が必要です。

それでも、この取り組みは「Tech for Human Evolution」というinnovaTopia の理念そのものを体現しています。テクノロジーが単なる効率化ツールではなく、人間の安全を守り、社会課題を解決する手段として機能する実例だからです。

狩猟文化の衰退、野生動物の生息域拡大、気候変動による生態系の変化——これらの複雑に絡み合った要因に対し、ドローン技術という新しい選択肢を加えることで、より柔軟で持続可能な対応体制が構築されていく可能性があります。

テラドローンの挑戦は、日本の獣害対策の歴史において、一つの転換点として記録されることになるかもしれません。

【用語解説】

カプサイシン
トウガラシに含まれる辛味成分で、クマよけスプレーの主成分である。目や鼻などの粘膜に強い刺激を与え、人間の数千倍の嗅覚を持つクマを一時的に退避させる効果がある。

クマハンター
狩猟免許を持ち、クマの捕獲や追い払いを担う専門家。全国の狩猟免許所持者は1975年度の約52万人から2020年度には22万人まで減少し、60歳以上が6割を占める高齢化も深刻化している。

ガバメントハンター
自治体が狩猟免許を持つ人を公務員として任用する専門駆除班。政府のクマ被害対策パッケージで推進されている新しい取り組みで、元警察官や元自衛官への狩猟免許取得も促進している。

i-Construction
国土交通省が推進する、測量・設計から施工・検査・維持管理までの建設事業プロセス全体にICT(情報通信技術)を活用し、建設生産システムの生産性向上を目指す取り組み。

UTM(運航管理システム)
Unmanned Aircraft System Traffic Managementの略。ドローンの安全かつ効率的な運航を支援するシステムで、将来的には空飛ぶクルマなどの低空域での運航管理にも活用される。

ツキノワグマ
本州と四国に生息するクマで、胸の白い三日月模様が特徴。体長110~150cm、体重40~120kg程度。九州では絶滅し、四国では2024年度に26頭しか確認されておらず絶滅の危機にある。

日本スタートアップ大賞
経済産業省が主催し、次世代のロールモデルとなるインパクトのある新事業を創出した起業家やスタートアップを表彰する制度。内閣総理大臣賞のほか、各省庁が特別賞を設けている。

【参考リンク】

Terra Drone株式会社(外部)
測量、点検、農業分野でドローンソリューションを提供。2024年にドローンサービス企業世界ランキング1位を獲得

環境省「クマに関する各種情報・取組」(外部)
クマの出没情報、人身被害件数、対策マニュアルなど、クマに関する公式統計と対策情報を提供

国土交通省「日本スタートアップ大賞2025」(外部)
国土交通分野で新規性あるビジネスモデルや技術を有する企業を表彰する制度の公式情報

【参考記事】

テラドローン、日本初のクマよけスプレー搭載ドローンを開発・発売開始(外部)
2025年11月7日発表。製品の仕様や開発背景を詳述したプレスリリース

国内クマ被害は最多230人、出没約3万7000件に増加(外部)
環境省統計による2025年11月までのクマ被害最新データを報告

クマ出没の背景にドングリの豊凶サイクル(外部)
2025年のクマ被害拡大の背景をドングリ凶作、個体数増加、気候変動から分析

クマによる死傷者196人、23年度上回る最悪ペース(外部)
2025年10月末までのクマ被害状況。秋田県56人、岩手県34人など東北集中

近年、クマ被害が急増している理由(外部)
森林総合研究所専門家がクマの個体数増加、分布域拡大、狩猟者減少を解説

テラドローン、日本スタートアップ大賞2025国土交通大臣賞受賞(外部)
2025年8月受賞。i-Constructionへの対応実績などが高く評価された

2025年のクマによる人身被害の増加とその対応について(外部)
日本自然保護協会による現状認識。クマ分布域が過去40年で約2倍に拡大と指摘

【編集部後記】

クマとの共存という課題は、もはや山間部だけの問題ではありません。市街地近くでの出没が日常化し、私たちの生活圏とクマの生息域の境界が曖昧になっている今、テクノロジーによる新しいアプローチが求められています。

テラドローンの取り組みは、「人を危険にさらさずに問題を解決する」という、これからの時代に必要な発想を体現しています。みなさんは、自分の住む地域でこうした技術が導入されたら、どのように活用してほしいと思いますか。また、野生動物との共存において、テクノロジーが果たすべき役割について、一緒に考えてみませんか。innovaTopia編集部では、こうした未来志向の取り組みを引き続きお伝えしていきます。

投稿者アバター
Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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